ロボット-RUR (中公文庫 チ 1-4)

  • 中央公論新社 (2020年12月23日発売)
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感想 : 17
5

ロボット:
1. 電気・磁気などを動力源とし、精巧な機械装置によって人間に似た動作をする人形。人造人間。
2.目的の作業・操作をコンピューターの制御で自動的に行う機械や装置。人間の姿に似るものに限らない。自動機械。「産業ロボット」
3.自分の意志でなく、他人に操られて動く人間。傀儡 (かいらい) 。「軍部のロボットである大統領」
[補説]チェコの作家チャペックが作品中でチェコ語の働くの意のrobotaから作った造語。

この”ロボット”という言葉がカレル・チャペックにより作られて100周年ということで出た新訳。
あとがきでカレル・チャペックは「部分的には科学についての喜劇、また部分的には真実についての喜劇を書きたい」と書いている。
ROBOTは、ドイツ語で領主に対する農民の賦役という意味で、この言葉を提案したのは兄のヨゼフ・チャペックで、後年逮捕されて強制収容所で亡くなっている。なお弟でこの本の著者のカレルは、兄の逮捕の前年に亡くなっている。生きていたら一緒に収容所行きだった。
チャペック兄弟はこのロボットのような皮肉的教訓的な話もあるし、童話集「長い長いお医者さんの話」で、文カレル、絵ヨセフという共著を出したり、「ダーシェンカ」や「犬と猫のお話」など優しく柔らかな話と絵が印象的であり、収容所での最期というのはあまりにも哀しい。

※ラストまでネタバレしています※

===
※※序章※※
ロッシム島の工場で人間と同じ姿で安価な労働力の”ロボット”が製造されていた。
その元になったのは若い学者のロッシムだった。彼は化学合成により生きた物質に似たものを作り出し、人工の生命創作を重ねて行った。
ロッシムは無神論者で科学の信望者だったので、神や自然でさえできなかった生命の創作を人工的に行いたかったのだ。それは実用性はなく、人体にある一つ一つの腺や細胞であったり、大きな生物や優れた頭脳と下等生物との組み合わせの実験だった。そして学者ロッシムは人間の創作に取り掛かった。
だが今では老人となった学者ロッシムのもとに、ロッシムの甥にあたる若い技術者が訪れた。
技術者ロッシムはいう。「人間を10年かけて製造するなんて馬鹿げている。早く大量に作り労働機会にするんだ」
技術者ロッシムは人工的な人間を大量生産するため、労働に必要な知能を付け加え、そして人間が人間であるための楽しみ、つまり喜びとか余暇とか労働には関係のないものをすべて排除した。
こうして見た目は人間特別がつかず労働のための知能は備えているが、魂がない”ロボット”は大量生産され、いまでは世界中で安価な労働力として使われている。耐久期間は20年で、それが過ぎたら廃棄される。

※※第一幕※※
そしてそのロボットを作っているRUR社(ロッスム・ユニヴァーサル・ロボット社)の代表取締役のハリー・ドミンのもとに、会長の娘のヘレナが訪ねてくる。
ヘレナは、見た目が自分たちと全く変わらないロボットたちが、魂を持たずなんの楽しみもなく給料も支払われずにただ労働力として扱われれ、壊れたら廃棄処分されるということにショックを受ける。
そしてロボットたちに訴えようとする。
「わたしは人道連盟を代表してここに参りました。ロボットの皆さんも愛を感じ、幸せになる権利があります。皆さんは自分の権利に対しての権利を主張し、いまの劣悪な環境改善のために立ち上がりましょう!」
そう、彼女はロボットに人間に対しての反乱を呼びかけたのだ。

だが彼女がロボットだと思って訴えかけた相手は本物の人間、つまりRUR社の幹部たちだった。
そして幹部たちである生理学のガル博士、心理・教育担当のハレマイヤー博士、営業担当のブスマン領事、ロボット建設担当アルクイスと建築士は、ヘレナの心配に対して説明を行う。
すなわち「彼らには、労働のための無駄な時期である幼年期を省いてすぐに成人として作られ、そして感情は持っていないのです。だからお金を与えてもごちそうをを与えても彼らには無関心でしかありません。
また、ロボットたちには制作段階で完璧に作るのではなく、自然に発育する余地が少し残しています。自分の存在に慣れるため、別々に作られて組み立てられた体の外郭や内蔵とが癒合して、自分自身の存在に慣れるための余地が必要なのです。
そんなロボットたちは、まれに痙攣を起こすことがあります。物を破壊し、歯ぎしりをし、そうなったら廃棄されます。また、故障を防ぐために”痛み”与えています。
そしてそんなロボット開発により、人間は労働からは開放され、物価は安くなる一方です。
物価が安くなれば貧困はなくなり、仕事もしなくて良い。
すると人間は、自分がしたいこと、愛することだけをすればよくなるのです」
ヘレナは、ロボットへの半端な知能や痛み、自我の芽生えに不安を覚えながらも、
人道を訴えながらも現実での物価というものをそもそもしらない自分の箱入り娘っぷりを恥ずかしく思うのだった。

※※第二幕※※
10年後、ヘレナはドミンの妻になり、RUR社の工場のある島に留まっていた。
この地球上では、人間の出産がほぼなくなっていた。労働はすべてロボットがしてくれて、人間はただ楽しみのことだけに生きているので、子供を生むことが必要でなくなったのだ。だが人間が妊娠する能力を失ったのは、まるで自然がロボット製造に怒っているようではないか。
労働が不要な世界は確かに快適だ。だがこのままでは人類は滅びる。いや、このまま滅びるべきということなのだろうか。
<これは世界の終わり。悪魔のように傲慢になって、主と同じように創造しようとしたからです。神を信じようとしないばかりか、自分が神になろうとするとはなんという冒涜でしょう。神が楽園から人間を対用したように、今度は人間が全世界から追放されるのですよ!P78>

ヘレナの知らないところで幹部たちが世界の情報を集めようとしている。
世界ではロボットたちが組合を組織し、人間に対して革命を起こしたらしいのだ。孤島であるここには通信が途絶え、郵便も客もすべて途絶え、世界の状況がまるで入ってこない。
確かにロボットには成長の余地を残した。
だが世界中のロボットが一度に蜂起するとは。先導者はいるのか?なにかの要因があったのか?

そこで幹部たちは、学者ロッシムのロボット設計図を交換条件として、自分たちが船で島を脱出しする交渉材料にしようとする。
このまま設計図を廃棄しロボットが増えなければ彼らの革命も終わるだろう。だが設計図をロボットに渡さなければ自分たちが殺される。

しかしその設計図は、ヘレナにより焼却されていた。
しかしヘレナはこのままではロボットが人間を憎むと思っていた。だからロボットに感情を入れるように幹部に依頼していた。
そしていまは、ロボット製造を完全にやめればまた人類が自分たちで生きて自分たちで子供を生むようになるのではないかと考えたのだ。

<もしかしたら、我々はもう百年前に死んでいて、ただ幽霊のように存在しているだけなのではないだろうか。おそらく、だいぶ前から死んでいて、じつは、かつて…死ぬ前に…国地にしたことをもう一度ただ繰り返すために戻ってきているのだろう。P128>

ロボットたちは屋敷になだれ込み、幹部たちを殺してゆく。
指示するのは、ヘレナがカム博士に頼んで少しだけ人間の感情を入れたロボット・ラディウスだった。
次々殺される幹部たち。

幹部の中で一人だけ生かされたのは、建設部門のアルクイストだった。彼はロボットたちから「ロボットと同じく手を使って仕事をしている。これからもロボットたちのために働け」と見逃されていた。

※※第三幕※※

それから数年後、どうやらこの地球上に生き残っている人間はアルクイストだけになっているようだ。
だがロッシム博士の設計図がなくなったことによりロボットたちも増えることができなかった。
ロボットたちはアルクイストに「生命を作る方法を教えろ、ロボットを作る方法を教えろ」と言ってくる。
だが自分以外の人間は一人もいなくなり、ロボットの設計図もなくなったとなっては両方とも滅びるしかないのだ。
ロボットたちは言う。「私達は人間のようになりたかった。私達は行きたかった、私達のほうが有能だ。人間のようになりたかったら、人を殺して支配しなければいけない。だがこのままでは我々は絶滅する。
わたしたちロボットは痛みと恐怖を覚えて魂を持った。人間に作られた我々は、生きたいと言い、思考する。どうかロボットを解体して生命の秘密を探ってほしい」
アルクイストは「ああ、人間の似姿ほど人間の異質なものはない」と嘆く。

そんなアルクイストの前に男のロボット・プリムスと、女のロボット・ヘレナが現れる。
彼らはロボットでありながらも、人間の男女のように相手を愛し合っていた。
彼らを見たアルクイストは「きみたちは新しい世界に行きなさい」と二人を逃がす。
「神も人間も生命を作った。だが愛はつくられたものではなく、自然に生まれたものだ。これこそ自然であり生命だ。
技術や都市が滅びても、愛がある限り生命は滅びないのだ!」

===

魂を持たずただ労働のためだけに作られるロボットについて、いろいろな立場の立場の人間がいる。
人間が労働から開放されて幸せになるため、科学への興味のため、商売のため、神を信じず人間がもっと別の方法で生命を生み出すという証のため。
またロボットをどうするかにもそれぞれ意見が異なる。人間が労働から開放されすぎると堕落するのではないか?ロボットをあまりひどい扱いにすると人間に憎しみを覚えるのでは?

私はいままでカレル・チャペックは童話は園芸や犬のことしか読んでいなくて大人向けは初めて。
かなり皮肉とユーモアが効きつつもなんとも情け容赦なく、コミュニケーションが全く通じないこの殺伐たる世界。
しかしラストでの生命の愛に希望を見出したいと願うところは、チャペックの、戦争のなかでも人間を信じたいという希望があるのだろうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ●その他欧州文学
感想投稿日 : 2021年3月8日
読了日 : 2021年3月8日
本棚登録日 : 2021年3月8日

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コメント 3件

猫丸(nyancomaru)さんのコメント
2021/03/29

淳水堂さん
チャペックの時事コラムを読んでみてください。「ごあいさつ」とか、、、人と人の繋がりを大切にされた方だと判ると思う。
日本人としては、関東大震災のエッセイは涙無しに読めません、、、

淳水堂さんのコメント
2021/03/30

猫丸さん
教えてくださってありがとうございます。
まずは「ごあいさつ」を図書館予約しました。

私はカレル・チャペックは児童向きの話しか読んだことがなくて、社会的なものは初めてでした。
「ロボット」では、物理的には人類もロボットも滅びるのかもしれないけれど、生命は作れなくても”愛”は自然に生まれたという、人間への希望と信頼を感じました。
ご紹介ありがとうございました!

猫丸(nyancomaru)さんのコメント
2021/03/30

淳水堂さん
「白疫病」を書いた時は、ペシミスティック過ぎだと批判されたようです。きっと近づくファシズムの足音に敏感になって欲しかったんだと、、、

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