オリーヴ・キタリッジの生活

  • 早川書房 (2010年10月22日発売)
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オリーヴ・キタリッジはアメリカ北東部の小さな港町クロズビーに住む数学教師。歯に布着せぬ物言いと、ときどき激情に駆られて攻撃性を見せるため、周りからは敬意を持たれつつ怖がられている。もともと大きな図体は老人になってからさらに巨大化した。
薬局を営むヘンリーは人がよく穏やか、一人息子のクリストファーはたまに精神に不安定さを見せるが医者として独り立ちしようとしている。
物語はクロズビーの住民たちの日常の一コマや心の動きを通しての人生の機微。
オリーヴ・キタリッジがすべての短編に出てきて、短編の最初から最後で30年くらい経っている。激情型の中年女は枯れることなく激情型老女になってゆく。人から「よくあんな女を」と言われる面もあれば、生徒たちからは「怖い先生だけれど個性的で強い言葉を言って嫌いではない」と言われる面もある彼女の影響を受けて密かに変わることもある。
2009年度ピュリッツァー賞(小説部門)を受賞した作品。

 家族を愛しながらも、自分の店の若い女性店員との交流に心の安らぎを見出す男/『薬局』

 自殺するために故郷に戻った青年が、恩師と語り、若い女性が生きようとする姿を見る話。
「わけのわからない、めちゃくちゃな世の中だ。こんなに彼女は生きようとする。夢中でしがみつくではないか」(P70) /『上げ潮』
 
 バーでピアノを弾く女は町の有力者の愛人だった。ある夜訪れた心の転機。 /『ピアノ弾き』

 新郎の母は、何もかも心得たような新婦の顔に不安を感じる。だから人生のちょっとした刺激になる”小さな破裂”を起こす。
(※嫁の立場からすれば、嫌な姑と思ってしまうんじゃないか…^^;) /『小さな破裂』

 子供が独立したことと、拒食症の若い娘の転換を見たことにより夫婦のすれ違いに気づいた男 /『飢える』

 乱入した犯人の人質になった夫婦は銃を突きつけられながら言い合いになる。助かったあとも、夫婦の双方から見方が変わってしまうようなわだかまりを残した。 /『別の道』

 二人で穏やかな老後を過ごすはずだった夫婦の前に突きつけられた、夫の過去の女性問題。だがもうどうにもしようがないのだ。
「いまとなっては二人そろっているほかに何があるだろう。そうでさえなかったとしたら、どうすればよいのだろう」(P206) /『冬のコンサート』

 息子が問題を起こしたため密かに暮らしている夫婦。その姿を見て自分自身を突きつけられる友人。 /『チューリップ』

 病気で死んだ夫は旅のバスケットを用意して希望としていたのに。
どちらに傷ついたのだろう。葬儀の日に過去の浮気を告げられるのと、叶わなかった希望を目の当たりにするのと。 /『旅のバスケット』

 二人の娘の男性問題に怒りをぶつける母/『瓶の中の船』

 「妻と子供たちの面倒を見てほしい」と息子に言われた母親は喜んで訪ねてゆくが、哀れな老人扱いされていることに怒りをぶつける。だが今度は息子も黙ってはいない。 /『セキュリティ』

 「お前には黙秘する権利がある」権利がある。そんなことを言ってもらえるのなら、逮捕されてみるのも悪くないだろう。 /『犯人』

 夫を亡くした老女と、妻を亡くした老人。人間との暖かい交流を求めていることによってこの年でどんな関係になってゆくのか。
「よくわからない。この世界は何なのだ。まだオリーヴは世を去ろうとは思っていない」(P400) /『川』

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ●米国文学
感想投稿日 : 2020年2月15日
読了日 : 2020年2月15日
本棚登録日 : 2020年2月15日

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