九人と死で十人だ (創元推理文庫)

  • 東京創元社 (2018年7月30日発売)
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感想 : 8
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「九人と死で十人だ」
ヘンリ・メリヴェール卿シリーズ初文庫化。


第二次大戦初期、エドワーディック号は英国の某港へ軍需品を輸送すべくニューヨークの埠頭に碇泊していた。危険きわまりないこの船に、乗客が九人。航海二日目の晩、妖艶な美女が船室で喉を掻き切られた。右肩に血染めの指紋、現場は海の上で容疑者は限られる。全員の指紋を採って調べたところが、なんと該当者なし。信じがたい展開に頭を抱えた船長は、乗り合わせた陸軍省の大立者に事態収拾を依頼する。そこへ轟く一発の銃声、続いて大きな水音が響く。


本書は、カーター・ディクスンことジョン・ディクスン・カー名義による1934年 The Plague Court Murders「黒死荘の殺人(プレーグ・コートの殺人)」から続くヘンリ・メリヴェール卿(通称H・M卿)シリーズ11作目に当たります。


カーの作風は時期によって4つに分けられます。アンリ・バンコランが探偵役を務める初期が第1期で、トリックが二重三重に絡まり合うプロットを構築する1930年代の作品が第2期。メイントリック一つのシンプルなストーリー構成で魅せる1940年代が第3期、そして歴史ミステリが中心となるのが第4期。本書は1940年発表であり、第3期となります。


読んでみると、確かにトリックは1つであり、指紋が残っているのにその指紋が該当する人間がいないという不可解な1つの状況によって物語が進んでいきます。面白いのが、何故不可解な状況が作り出されたかということ。カーのホワイダニットな側面が活かされていて、その謎が解けていく流れも自然です。終わってみれば本当にトリックシンプルなんだけど、それが読んでいる間は複雑に見えるような仕掛けになっている。


また、シンプルなストーリー構成で魅せる上で当然忘れていけないのがヘンリ・メリヴェール卿。私は、このシリーズ初めて読むので、ヘンリ・メリヴェール卿がどのような人物が知らずにいました。卿という位から、背が高く痩せ気味で、鮮やかな白い髭を蓄えた白髪のジェントルマン。丸メガネを掛け、パイプを咥え、優雅さと気品さに鋭い観察眼を持つ。そんなイメージとかけ離れたのがヘンリ・メリヴェール卿であります。


身長177センチメートル、体重100キログラムの巨体で、大きなはげ頭、小さい鋭い眼、鼈甲の眼鏡がずり落ちるほどの低い鼻、苦虫をかみつぶしたようにゆがんでいる口、丸い仏陀のような顔を持つ。声もデカそうでいらちな性格っぽいし、でもニヒルでコミカルな面もある。勿論、優れた洞察力と推理力を持つ。それがH・M卿なのです。


因みに、H・M卿の右腕っぽい感じになるのが、マックス(元新聞記者)なのですが、チャトフォードとの場外乱闘も注目。何故、マックスはチャトフォードをあんなに毛嫌いしたのかが結局ピンとこない。チャトフォードの性格も同様w

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 海外小説
感想投稿日 : 2018年8月27日
読了日 : 2018年8月27日
本棚登録日 : 2018年8月23日

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