ザ・ロード (ハヤカワepi文庫 マ 1-4)

  • 早川書房 (2010年5月30日発売)
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カートを押す父と息子がひたすら道を歩く。日々の食料を求め。南へ。海へ。
憩える場所は容易く襲われてしまうから、カートに載せられるだけの荷物に絞りつつ。

核だか彗星だかの災厄ののち、世界は灰に覆われ。
荒涼。寒気。木も死に。動物もいない。そこここに炭化した死体。夜は真の闇。
滅びゆく、というか、すでに滅んだ星で、残された少数の人間は、互いに係らず、助け合わず。互いに脅えあっているのだ。
人を食べるか食べないか。略奪するかしないか。レイプ。殺人。(を怖れて妻は……。)(マッドマックス。北斗の拳。子連れ狼。バイオレンスジャック。ブラックライダー。)

ふたりで生き延びるには人を助けてはいられないと父は断言する。
息子はそれをわかっていてもしかし、それでも助けてあげられないかと問う。
カタストロフィの後に生まれた子を護るために、父は鬼にもなる。このトーンに変動はない。
繰り返される「ここで待っていろ。いなくなりはしない」。不安な子供。
強盗を警戒し、残弾を気にしながら拳銃で倒す。
しかし時折り心が折れそうになり、もう生きていたくないとも思う。(が、息子に漏らしたりはしない。)
とはいえ、息子は父がいなければ生きていけない、父は息子がいなければ生きる意味がない。

筋に大きな劇はない。
淡々と移動。場所の調査。食べ物の確保。他人への警戒。「善い人々」との出会いを期待しつつ。
繰り返しの中で一貫するのは、親子の語る「火を運ぶこと」。
善意。尊厳。善さ。尊さ。人間らしさ。あたたかさ。輝き。その反面、世界を滅ぼした文明でもある。つまりはプロメテウス。

ロードムービー→ロードノベル→アメリカならではのフロンティアスピリット→ウェスタン。
カギカッコのない会話・読点が排除された文体から醸されるのは、詩的、象徴的、寓意的、原初的、神話的な描写水準。
細かいところは描写されるが、全体はまったく靄に包まれたまま。
だからこそサバイバルという極めてミクロな視点を保ちながらも、抽象的で幻想的な話にも見える。ここにポエジーが生じる。

最後まで、父は絶対に息子に絶望を語らなかった。
だからこそ保たれた少年の「善さ」。世界の実相を見てしまった上での。
父は息子の肉体だけでなく魂をも守ろうとした。
本当に少年の無垢が世界を救うのかもしれない。

母を思わせる女性に抱き留められる少年の姿は、作者が描かざるを得なかった救い。
安直でどうかと考えることもできるが、最低限親として、放りっぱなしにはできなかったのでは。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文学 海外 アメリカ
感想投稿日 : 2017年4月12日
読了日 : 2017年4月12日
本棚登録日 : 2012年11月22日

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