はてしない物語 (エンデの傑作ファンタジー)

  • 岩波書店 (1982年6月7日発売)
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感想 : 999
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えっ、これって児童書なんだと思ったのが、最初の正直な気持ち。ネバーエンディングストーリーは、幼い頃に観たが、確かファルコンだったか、大きな白い竜に跨がった少年の記憶しかないし、物語の内容で思い返すこともなかった。

まあ、私が子供の頃に読んでいれば、アトレーユやバスチアンが活躍する、展開の読めない、波乱万丈の冒険ファンタジー小説として、面白く読めるのも確かであり、終わり方も感動的だ。

しかし、これが大人になって読むと、バスチアンの冒険が、そのまま人間の人生の足跡を辿っているかのように感じられて、時折、空恐ろしくなってくる感覚も味わったような気分になったのは、作家の「ミヒャエル・エンデ」が、人間というものをよく知っているのではないかという、不信感にも近い、怖さだった。ただ、これは逆に言うと、人生の指南書や哲学書としても捉えられるということなのだが。

ざっくりしたあらすじを書くと、小柄でぽっちゃり体型の、「バスチアン」が読んでいるのが、私が今感想を書いている、「はてしない物語」で、その中の異世界、「ファンタージエン」の「幼ごころの君」の名前を付けたことで、自分の望みをファンタージエンで叶えることができるようになる。ちなみに、この間の段取りは、ファンタージエンの若者「アトレーユ」と白竜「フッフール」がしていて、バスチアンとアトレーユは友達になる。

そして、バスチアンは様々な望みを叶えていきながら、次第に、負の欲望へと向かっていき・・・といった感じで、バスチアンが調子に乗っているところは、やや中弛みしかけたが、その後の展開には、すっかり夢中になり、ページを捲る手が止められなかった。そうなったのは、読んでいるうちに、これって私の人生なのではないかと思ったからだ。

人の望みというのは止めどがなく、一つ叶えば、次の望みと、本当にきりが無い。この物語がすごいと思ったのは、人が様々な望みを満たされると、最後にどんな望みをもつのかを、理解しているところにある。それはあまりに恐ろしいもので、エンデがドイツの作家というのも、あるのかもしれない。そして、それに対するリスク管理が当然のように用意されていて、知らないのは、望みを叶えようとしている者。その仕組みを知ったときの恐怖は、自業自得という言葉も浮かんだが、バスチアンにしても、最初は純粋な気持ちから始まっているだけに、やるせない。しかし、人生ってそういうものだという納得もさせられる。

更に、その後の展開で、そこからのバスチアンの冒険が、傷つきながらも自分を見つめ直しつつ、次第に考え方や望みが変わっていく丁寧な描写に圧巻の一言。人生でいうところの、大人になってからの自分を、もう一度見つめ直す時期を思わせられて、人って、こうして過去を見つめながら、ちゃんと自らの人生を見出すことができるのだなと思えたことは、私にとって、すごく励みになった。

読み終わって改めて思ったのは、人生とはこういうものなのかもしれないということ。やはり最初から、なんでも分かる人はいないし、失敗しても、取り返せる。すごく辛いけどね。邪な気持ちだって人間は持っていて当然。それでも大切なのは、自分らしく生きることの悦びだということを教えてくれた。

ちなみに、バスチアン、星五の評価は、アトレーユとフッフールのおかげだから、それだけは理解しとくように。バスチアン、まったく君というやつは本当に・・ただ、いちばん共感したのはバスチアンなんだけどね。もう一つのいちばんは、アトレーユとフッフールの感動。雪原の、一枚の絵になるような、あの美しいワンシーンには。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 海外児童書
感想投稿日 : 2021年9月18日
読了日 : 2021年9月17日
本棚登録日 : 2021年1月21日

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