えっ、これって児童書なんだと思ったのが、最初の正直な気持ち。ネバーエンディングストーリーは幼い頃に観たが、確かファルコンだったか、大きな白い竜に跨がった少年の記憶しかないし、物語の内容で思い返すこともなかった。
まあ、私が子供の頃に読んでいれば、アトレーユやバスチアンが活躍する、展開の読めない波乱万丈の冒険ファンタジー小説として、面白く読めるのも確かであり、終わり方も感動的だ。
しかし、これが大人になって読むと、バスチアンの冒険がそのまま人間の人生の足跡を辿っているかのように感じられて、時折空恐ろしくなってくる感覚も味わったような気分になったのは、作家の「ミヒャエル・エンデ」が人間というものをよく知っているのではないかという、不信感にも近い怖さだった。ただ、これは逆に言うと人生の指南書や哲学書としても捉えられるということなのだが。
ざっくりしたあらすじを書くと、小柄でぽっちゃり体型の「バスチアン」が読んでいるのが、私が今感想を書いている「はてしない物語」で、その中の異世界「ファンタージエン」の「幼ごころの君」の名前を付けたことで、自分の望みをファンタージエンで叶えることができるようになる。ちなみに、この間の段取りは、ファンタージエンの若者「アトレーユ」と白竜「フッフール」がしていて、バスチアンとアトレーユは友達になる。
そして、バスチアンは様々な望みを叶えていきながら、次第に負の欲望へと向かっていき・・・といった感じで、バスチアンが調子に乗っているところはやや中弛みしかけたが、その後の展開にはすっかり夢中になり、ページを捲る手が止められなかった。そうなったのは読んでいるうちに、これって私の人生なのではないかと思ったからだ。
人の望みというのは止めどがなく、一つ叶えば次の望みと、本当にきりが無い。この物語がすごいと思ったのは、人が様々な望みを満たされると最後にどんな望みをもつのかを理解しているところにある。それはあまりに恐ろしいもので、エンデがドイツの作家というのもあるのかもしれない。そして、それに対するリスク管理が当然のように用意されていて、唯一知らないのは望みを叶えようとしている者。その仕組みを知ったときの恐怖は自業自得という言葉も浮かんだが、バスチアンにしても最初は純粋な気持ちから始まっているだけにやるせない。しかし、人生ってそういうものだという納得もさせられる。
更にその後の展開で、そこからのバスチアンの冒険が傷つきながらも自分を見つめ直しつつ、次第に考え方や望みが変わっていく丁寧な描写に圧巻の一言。人生でいうところの、大人になってからの自分をもう一度見つめ直す時期を思わせられて、人はこうして過去を見つめながら、ちゃんと自らの人生を見出すことができるのだなと思えたことには、私にとってすごく励みとなった。
読み終わって改めて思ったのは、人生とはこういうものなのかもしれないということ。やはり最初からなんでも分かる人はいないし、失敗しても取り返せる。すごく辛いけどね。邪な気持ちだって人間は持っていて当然。
それでも大切なのは、自分らしく生きることの歓びだということを教えてくれた。
ちなみにバスチアン、星五の評価はアトレーユとフッフールのおかげだから、それだけは理解しとくように。バスチアン、まったく君というやつは本当に・・ただ、いちばん共感したのはバスチアンなんだけどね。もう一つのいちばんはアトレーユとフッフールの感動。雪原での一枚の絵になるような、あの美しいワンシーンには。
- 感想投稿日 : 2021年9月18日
- 読了日 : 2021年9月17日
- 本棚登録日 : 2021年1月21日
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