柏葉幸子さんの作品を読んで、いつも思うのは、ファンタジーと、現代社会での不器用に生きる人たちとのバランスが、本当に絶妙だということです。
それから、飴と鞭のさじ加減の良さといいますか、この加減のイマイチな方は正直、私苦手なのですが、柏葉さんの作品はそれがやさしく感じられて、物語の雰囲気にも良い影響を与えています。
また、肝心のファンタジーの設定も面白くて、あらすじを読んで何のことやらと思う方もいらっしゃると思いますが、「霧のむこうのふしぎな町」を好きな方なら、おそらく問題なく楽しめると思います。
ちょうど、人間関係も似通ったものがあり、「霧の~」の、リナとピコットばあさんに対して、今作は、「桃さん」と「杏(あんず)おばさん」です。
ただ、リナは小学生でしたが、桃さんは40代の人見知りで離婚歴が一度あり、現在は一人暮らしで、田舎の小さな図書館の司書として、新たな一歩を踏み出そうとするところ。
児童書にしては、主人公の渋さが気になるかもしれませんが、教えてくれるのは、「霧の~」とよく似ていると思います。
不器用だけど一生懸命に生きてきた。しかし、自信が持てない。そんな桃さんが、誰かの役に立てることを知ることから始まって、誰かを好きになり、そうすると毎日が楽しくなるという、当たり前のようでいて、人生でこう思えることって、実はなかなか少ないのではないでしょうか。
そういった大切なことを、色々な方(方というか…ネタバレで書けないのがもどかしい)から教わっていく中で、実は桃さんと、憎まれ口ばかりの杏おばさんにも共通点があったことには、これまでの不器用な生き方も肯定してくれるような感動を覚え、愛や喜びをいただくことに、なんと励まされることかと、素直になれる自分がいました。
また、序盤から散りばめられた手紙の謎も感動的だし、桃さんを楽しませながら(世話を焼かせるとも言うが)、心配してくれる仲間たちもすてきで、お子さんというよりは、むしろ桃さんと同年代の大人の方が読まれたほうが、きっと胸にくるものがあると思います。
かく言う私も同じ思いで涙したので、この評価です。
- 感想投稿日 : 2022年1月10日
- 読了日 : 2022年1月10日
- 本棚登録日 : 2022年1月9日
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