社交界の華であり誰からも好かれ、非の打ちどころのない、青年士官ヴロンスキーは、シチェルバツキー家の三女、キチイの気を引き、花婿候補と見られていたのに、ペテルブルグの名士カレーニン夫人(アンナ・カレーニナ)を一目見た途端、その美貌に心を奪われた。
キチイは彼女に求婚してきた、リョーヴィンという地方の貴族に本心は惹かれていたのだが、ヴロンスキーに愛されていると思って(それにその相手は彼女の母親の価値観に合っている)、リョーヴィンの求婚を断ったのに、結局、ヴロンスキーに裏切られ、恥しさで病気になってしまった。
リョーヴィンも恋敵に負け、もう、自分には結婚の望みは無いという失意のまま、田舎に帰るが、田舎の彼の広大な土地の自然は、彼に元気を与える。植物の芽吹く音が聞こえるくらい、ロシアの森の春は活き活きしているらしい。リョーヴィンはいい男なんですよ。大人の私達には分かるんですよ。大地主として、真面目に農地経営の計画を立て、論文も書き、自分の森の木の数も把握し、どれ位の価値があるか知っている。同じ貴族でも、モスクワやペテルブルグで、コネで適当にいい役職につき、見栄と名誉を重んじ、社交界の付き合いで借金まみれになっている人達とは違うんですよ。
病気になったキチイは湯治先で出逢った、ワーレンカという清楚で無欲で義母に尽くす娘に心惹かれ、あんなふうになりたいと願う。
リョーヴィンとキチイには幸せになって欲しいものだ。
一方のヴロンスキーとアンナ・カレーニナ。二人の不倫関係はヴロンスキーの言葉を借りれば「月並みな社交界の情事ではなく、あの人は俺にとって命よりも大切なものだ。あの連中(二人を責める人々)は幸福とは何かということなんかてんで分かっちゃいないんだ。僕達にはこの恋がなきゃ、幸福も無ければ、不幸もない」というほど本気。アンナにとれば、名士で人々に尊敬され、その名誉のためだけに、アンナに対しての態度まで欺瞞で固めた俗物官僚の夫との生活を守るよりも、ヴロンスキーとの不倫のほうが自分に対して嘘のない、ある意味倫理的なことかもしれない。しかし、ただ一つ気になるのは、息子のこと。一方ヴロンスキーは、アンナが息子のことで、心を痛めていることは理解出来ない。また、自分がアンナに走ったせいで、キチイを傷つけたことにも気づいていない。これ程、周りを傷付けていることに気づかない人というのは、こうまで、自分の気持ちに真っ直ぐになれるものなんだなあ。
アンナはヴロンスキーの子供を身籠ってしまい、そのことをヴロンスキーに打ち明けるとヴロンスキーはカレーニンに正直に話した上で、駆け落ちしようという。多分カレーニンは自分の名誉が傷つくのが何より嫌なので離婚などさせてくれないだろう。それに、息子はどうなるだろう。
アンナ、キチイ、リョーヴィンそれぞれの運命はどうなるのか?
不倫小説だが、細かい所まで、描写が重厚。トルストイがそのモラル、宗教、哲学の全てを注ぎ込んで、完成した不朽の名作の第一部でした。
- 感想投稿日 : 2021年6月21日
- 読了日 : 2021年6月21日
- 本棚登録日 : 2021年6月21日
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