『罪と罰』を読まない

  • 文藝春秋 (2015年12月12日発売)
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ずいぶん前に、クラフト・エヴィング商會のお二人のうちどちらかだったと思うが、「『罪と罰』を読んだことがない」ということを何かのご著書で目にしたように思う。「ふえええ、プロの作家さんでも読んだことがないんだー、でも世の中には小説があふれているからそれは誰にでもあるなあ」とだけぼんやり思ってそのままになっていた。かくいう私も、『罪と罰』は読んだことがない。野田秀樹の『贋作 罪と罰』を観に行って、それで雑にやっつけて何年も経っている。なので、この本の出版を聞いたとき、「えっ、あの流れで企画化されて本になったのか!」と少なからず驚き、すかさず購入。

クラフト・エヴィング商會のお二人、三浦しをんさん、岸本佐知子さんの、「『罪と罰』を読んでいない」メンバーが、読んだこともない『罪と罰』をイメージであれこれと語り合う…というか、推理する読書会的な座談会本。とはいえ、まったくの材料なしで最後まで突っ走るわけでもなく、途中でちょこっとずつ本編のアシストを加えながら話が進む。

いやー、みなさん言いたい放題で楽しい。読書会の一般的なイメージとしては、課題書を各自読んできて、詳しい人・詳しくない人を含めてあーでもない、こーでもないと話し合う、ちょっとお勉強会めいたアミューズメントなんだけれども、4人で繰り広げる「読んでいない読書会」は、途中で小出しに投入される材料で軌道修正してはいくものの、基本、連想と推理のゲームだ。文芸のプロのみなさんなので、構成や作劇を見ぬいたり展開したり、分析したりする力はすごいが(特に三浦しをんさん)、吉田浩美さんの「影絵的には…」のキーワードが意外とこのトークの牽引力となっている。この「影絵」については私が見た記憶があるものとどうも同じなようで、なんだか親近感を覚えてしまう。ラスコーリニコフ(愛称ラスコ)、革命家なのか!しかも「すぐ帰るマン」なのか!まあ合っているような気もするし!

『罪と罰』だからどうこうというより、小説好きが(この本の場合はそれプラス「小説に携わる人」ではあるけれど)なんのてらいもなく「読んでませんが、何か?」と言いつつ、小説好きの一点突破のみできゃっきゃと話す楽しさにあふれた本だと思いながら読み終えた。どんな趣味でもそうだけど、小説にも「マニアがジャンルをつぶす」的な側面がないわけではなくて、こういうふうに、読書歴のなさを押し出して話をする機会というのは意外と少ない。私も本をネタにした集まりに関わってしばらく経つけれど、こういった楽しさを忘れないようにしたいと、ちょっと殊勝なことを思った。

ネタバレ…とはいいませんが、この本を読めば、『罪と罰』を一生読まなくても大丈夫な情報はつまっていますので、それを含めて、年末年始に一読してみられてはいかがでしょうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2015年12月23日
読了日 : 2015年12月23日
本棚登録日 : 2015年12月13日

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