絵本の力

  • 岩波書店 (2001年5月18日発売)
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本棚登録 : 363
感想 : 35

2022.10.3市立図書館
このところマイブームの松居直さん研究の一環で借りた。
この本は、小樽にある「絵本・児童文学研究センター」が主催して2000年11月12日におこなわれたシンポジウムを元にして作られており、三人それぞれの講演と、それに続く三人による討議「絵本の力」が収録されている。

河合隼雄さんの絵本の中の音と歌の話は興味深かった。紹介されている絵本をあらためて読み直してみたい。
柳田邦男さんは今にして思えば絵本の読者層を大きく広げたパイオニアだと言えそう。この対談から20年余、いまや子どもが必ずしもターゲットではない「絵本」の裾野はずいぶんひろがっている(良し悪しはあるけど)。松居さんははっきりと言葉にはしていないけれど、この時点でそのあたりのこと(子どもに読んであげるものとは別の需要にこたえる絵本の存在)をやや危惧している雰囲気は感じられた。

松居直さんの講演は、ご自身が絵本をつくる側の立場にいたるまでのバックグラウンドとなる体験を語っている。家に「コドモノクニ」が揃っていて望むだけ読み聞かせてもらい、父親について美術館に行ったり、兄の暗唱する古典に耳を傾けたりと、文化資本にも恵まれているが、なにより京都の子ども時代から接してきた顔ぶれが錚々たるもので改めて驚いた。学生時代に白川静にであっているのは別のところで語っていたが、叔父に須田国太郎がいて、中学の歴史教師井上頼寿のフィールドワークに学びそこから柳田国男の雑誌に投稿してやりとりしている。幅広い教養と感性にめぐまれ、どの専門の道にすすんでもなんらかのことをなしとげたであろうこの人物が、いつのまにか絵本をつくるという場所にいきついて全力でその世界の発展に尽くしてきたのは、控えめに言っても日本にとってなんと運のよかったことか。石井桃子など他にも立役者はいるにはいるが、松居直抜きではいまのゆたかでおもしろい日本の絵本界は存在し得ないのだから。

絵と同等かそれ以上に言葉を大切にした松居直ののこした作品としては、安野光雅、大岡信、谷川俊太郎とつくった「にほんご」、そして、娘で児童文学者となった小風さち(リズミカルでいきいきした文体の持ち主)の存在が重要だと思った。(小風さち自身は、父親と絵本などの仕事について話し合ったことはぜんぜんないとはいっているが)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: エッセイ
感想投稿日 : 2022年10月3日
読了日 : 2022年10月16日
本棚登録日 : 2022年10月3日

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