500ページ以上に書き記されているのは、一本の軸を基本としながらも、複雑に入り組んだ構成をしている物語である。主人公はアニェスという女性なのだが、作品中にクンデラ自身が登場したり、唐突にゲーテやヘミングウェイのエピソードを挟んだりと一筋縄ではいかない。しかし、それらのエピソードが物語の最終局面に向かい収束していく様子は見事で、思わず唸ってしまう。訳者あとがきにもあったように、これは変奏曲なのだ。オーケストラの演奏のように、それぞれのエピソードが重なり合い、大きな響きを創りだしている。
そういった手法もすごいが、文章中で随所に散りばめられた引用や言葉にも胸を突かれる。
「つまり、仕草のほうが個人そのものよりも個性的なのだ」(p5)
「十九世紀の作家たちが結婚で小説をしめくくるのを好んだのは、愛の物語を結婚の倦怠から守るためではなかった。そうではなく、それを性交から守るためでだった」(p333)
複雑な物語を退屈させずに読ませる、という点でこれらの言葉たちはその役を充分に果たしているのだろう。それもまたクンデラの意図するところかもしれない。
読書状況:読み終わった
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本
- 感想投稿日 : 2012年8月13日
- 読了日 : 2012年8月13日
- 本棚登録日 : 2012年8月13日
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