カササギ殺人事件〈下〉 (創元推理文庫)

  • 東京創元社 (2018年9月28日発売)
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【感想】
あれ、この本が下巻で合ってる?
そう思って、冒頭のページから上巻のラストに何度か引き返してしまった。だが、間違いなく物語の続きはこの本から始まっていく。そして、これが本書の際立ったトリックである。

カササギ殺人事件<下>では、上巻とはうってかわって、現代のロンドンの出版社を舞台とした第2のミステリが繰り広げられていく。
上巻――ロンドンの片田舎で起こった事件をアティカス・ピュントが解き明かしていくミステリ――は、実はアラン・コンウェイというミステリ作家の新作の一部であった。新作の原稿(=上巻)が出版社に持ち込まれるのだが、結末がごっそり抜けていることが発覚する。しかし、著者であるアラン・コンウェイは自宅から転落死しており、結末のありかが分からない。編集者のスーザンは、結末部分を探すためアランの関係者を尋ねるのだが、アランにまつわる人間関係が、全てアティカス・ピュントの物語の設定と合致していることに気づく。こうして、「上巻のミステリの結末+下巻の新ミステリ」の2つの謎を、新主人公・スーザンの視点から同時に解き明かしていく、という作品になっている。

非常に目新しいタイプのミステリであり、各所で高い評価を受けたのも納得である。
だが、個人的な感想を言わせてもらうと、上巻がそれ単体で抜群に面白かったので、下巻でわざわざ新たな登場人物を増やして謎を追加したのは蛇足ではないか、と思えてしまった。本書は劇中劇の方式を取っているため、プロットが幾重にも重なってストーリーが複雑になっている。ここを「分かりにくい」と取るか「深みが増している」と取るか。私がメタ形式の作品を好きではないという理由もあるのだが、上巻のみで完結させたほうがシンプルにまとまって完成度が高かったのでは、と感じた。

とはいっても、劇中劇を駆使したダブルミステリ方式、というのは他の作品では味わえない要素であり、新奇的なミステリ小説を求める人にはお勧めの一冊と言えるだろう。

「ミステリとは、真実をめぐる物語である――それ以上のものでもないし、それ以下のものでもない。確実なことなど何もないこの世界で、きっちりとすべてのiに点が打たれ、すべてのtに横棒の入っている本の最後のページにたどりつくのは、誰にとっても心の満たされる瞬間ではないだろうか。わたしたちの周囲には、つねに曖昧さ、どちらとも断じきれない危うさがあふれている。真実をはっきりと見きわめようと努力するうち、人生の半分はすぎていってしまうのだ。ようやくすべてが腑に落ちたと思えるのは、おそらくはもう死の床についているときだろう。そんな満ち足りた喜びを、ほとんどすべてのミステリは読者に与えてくれるのだ。それこそが存在意義といってもいい。だからこそ、「カササギ殺人事件」はこんなにも、わたしの苛立ちをつのらせる。」

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2024年4月16日
読了日 : 2024年4月3日
本棚登録日 : 2024年4月3日

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