赤と黒 (上) (光文社古典新訳文庫 Aス 1-1)

  • 光文社 (2007年9月6日発売)
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ジュリアン・ソレルは、製材小屋の息子だが、体が小さく役立たず扱いをされていた。ジュリアンはナポレオンを尊敬していたが、この時代はナポレオンが失脚したあとの時代。ナポレオン信仰は隠すべきことだったみたい。
ジュリアンはラテン語がとても良くできたので、地元の大物であるレナール家に子供の家庭教師として招かれる。
最初は「度胸試し」のようなつもりで、レナール家の奥様を誘惑しようとするジュリアンだが、奥様との道ならぬ愛の沼に堕ちていく。この時代、姦通は死に値する罪だったようで、奥様は自分の罪に悩み苦しむ。
近所では奥様とジュリアンの関係を怪しむ人が増え、ジュリアンはレナール家を出て神学校に入校することになる。
神学校に入校してから、ジュリアンは優秀さゆえに妬まれたり嫌がらせをされたりしたが、野心と賢さで偉い人を味方につけながら出世していく。そんな中でもレナールの奥様のことを忘れられず、ジュリアンは神学校からの移動の夜にレナール家に忍び込む。奥様はジュリアンと会っていない1年の間、自分の罪を思い知り信仰を深めていたので最初はジュリアンを拒むが、結局二人はもとさやに戻って一夜を過ごした。
侵入者に気付いたレナール家の人たちが発砲する中、ジュリアンはレナール家からゆうゆうと逃げていく・・・というのが、大まかな上巻のお話。

子どものときに「漫画で読む世界文学全集」的本を読んでいて、その中に赤と黒もあった。
その時は赤と黒は面白い話だと思ったんだけど、実際に読んでみると、まぁ難解!!
なかなか話が進まないと思いながら読んでいると、途端に倍速送りされたように急展開があり、理解が追いつかない部分もあった。
特に理解できなかったのは、ジュリアンが神学校に通うことになったところ。
奥様とジュリアンの仲が、レナール氏にも疑われるようになり、奥様が手紙の偽装をしたり色々と動き回るんだけど、その描写がすごーく長い割に、レナール氏がジュリアンの処遇を決めるところはあっさりしすぎてて「読み落とした??」と思うほど。

国王が来訪した際にジュリアンが馬に乗って行進に参加したというのは漫画の本でも印象的だったな。高貴な生まれでないジュリアンにとってこれは「大抜擢」だったわけだが、これはレナール婦人の交渉の結果だったということはこの本を読んで理解した。レナール婦人、大胆だなぁ。

私の記憶では、ラストは死なんだけど、どうしてそこに至るのかの記憶が曖昧でね。
しかし、このまま下巻を読み終えたとしても「???」という感じで終わる可能性もあるな。
漫画や舞台などの二次創作ではジュリアンの女性遍歴を中心に制作されるこのお話。小説を読むと、ジュリアンの内心描写の比重が重くて若干辟易とした。常に周囲の空気や力関係を伺い、人を出し抜いてやろうと考えているジュリアン。
恋愛も、野心を満たすためだったり、度胸試しの側面が強い。
友達から木材事業を一緒にやらないかと誘われると「それもいいな」と思ったり、レナール家を訪問したイタリア人音楽家(ジェロニモって名前だった。ミュージカルの語りべであるジェロニモってこの人?)を見ては「こんな生き方(出世や信仰に縛られない自由な生き方)いいな」と思ったりする。本心のジュリアンは、結構素朴なところがある。それでも、彼を動かすのはプライドと野心なのだ。
この時代の賢い人、頭が回る人ってこんなだったの?と、私は、宇宙人を見ているような気持ちにすらなった。
当時のフランスでは、本心をさらけ出すことができなかったのだろうか。
私のように歴史に疎いと、「???」となるだろう本だ。

追記。ジュリアンが神学校で「マルティンルター」と呼ばれて嘲笑されていた、という表現が、私には特に???だった。
ルターはプロテスタント派を作ったドイツの宗教家だが、当時のフランスでは嘲笑の対象だったということ?
宗教、キリスト教に関する深い造詣がないと、作中と同じ温度で笑うこともできない…悲しみ。自分の狭い世界と教養の浅さを思い知る読書だった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史・古典
感想投稿日 : 2023年3月15日
読了日 : 2023年3月15日
本棚登録日 : 2023年3月5日

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