故事新編 (岩波文庫 赤 25-4)

著者 :
  • 岩波書店 (1979年9月16日発売)
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4

中国の故事を題材とした短編集。
「戦争をやめさせる話」がとても好きで、折に触れて何度も読んでいる。何回読んでも、色あせない妙味がある。
話の筋は簡単で、宋にいる墨子が楚に戦争をやめるよう説得しに行く話。冒頭から、訪ねてきた論客を「お前には、わしの考えはわからん。」と一蹴し、弟子と二、三言話した後、戦争を止めに行ってくると言って、ぼろ風呂敷をひっさげ、足早に出発する。ちょっと遠出の散歩をしに行くような調子で、戦争をやめさせるという大役を果たしに行く飄々とした感じがたまらない。

何日もぶっ通しで歩き続け、楚にいる同郷の公輸般を訪ねるのだが、ぼろ風呂敷をひっさげ、粗末な服を着ているため、乞食と間違えられ、門番に追い返されてしまう。しかし、墨子の目つきが気になり、主人の公輸般に変な奴が来たと報告する。
「風体は?」
「乞食のようでして。年は三十くらい、背が高くて、顔が真っ黒・・・」
「アッ!それじゃ墨籊(墨子)だ!」
ここのシーンもユーモラスで好ましい。常日頃から見た目など気にしない墨子の様子が読み取れる。

公輸般に楚王に紹介しもらい、戦争をすべきでないと楚王を滔々と諭す。ここでも墨子は超然としていてかっこよい。楚という大国が宋という小国を攻めるのは道理に反する、というだけでなく、仮に攻めてきたとしても、自分と弟子たちが準備しているから攻め落とすことはできないだろうと主張する。「わたしも、どうすればあなたが、わたしに勝てるか知っている」・・「だが、それは言うまい。」

楚王を説得し、宋への帰る途中、事情を知らない宋の人にボロ風呂敷を義援金と称して寄付させられたり、雨宿りをしようとして城門から宋兵に追ったてられたりと散々な目に合う。戦争をやめさせたのに何の見返りもなく、賞賛もされない。しかし、そんなことは墨子は歯牙にもかけない。

乞食然とした男が、戦争をやめさせるという大仕事を当然のように果たし、見返りや称賛なんぞ全く求めず、来た時と同じ様にボロをまとって帰ってくる。それがなんとも痛快なのだ。

読書状況:積読 公開設定:公開
カテゴリ: 文学
感想投稿日 : 2024年3月31日
本棚登録日 : 2024年3月31日

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