NHK 100分 de 名著 レイ・ブラッドベリ『華氏451度』 2021年6月 (NHK100分de名著)

著者 :
  • NHK出版 (2021年5月25日発売)
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なかなかに痛烈な物語と解説。
「古典は十五分のラジオプロ[グラム]に縮められ、つぎにはカットされて二分間の紹介コラムにおさまり、最後は十行かそこらの梗概となって辞書にのる」
これなんてこの「100分de名著」シリーズの企画にも喧嘩を売っているようだ。

現代にありがちな(と表現してみたが恐らくはどの時代にもあったはずの)軽薄で、わかりやすいが思考力が要らない、そんな書籍もまた「読書」を駆逐していく尖兵だ。
思考力を介さない読書に意味があるなら、本を読み咀嚼し嚥下し消化してやがて己れの血肉となす、そんな「本来の読書」の入り口となるときかもしれない。
天国への門は狭いが、読書への門は広くみえる。門が広いほうが門をくぐるひとは多くなる、そういう意味で救いがある。ただし門の価値は広いか狭いかには左右されない。門はあくまでも、その奥に何が待っているか、どこに辿りつくか、によってのみ価値が定められる。

現代(そしてあらゆる時代)の活字中毒。書籍フェチズム。本を読むのが好きだが、消費するだけで取り込むもののない読書。精神を肥沃にしない洪水。飲み込みはしてもそのまま己れを通り抜けて排泄されるだけの文字群。
かたちだけ読んでみて「わけわからない」「読者に(=自分に)寄り添っていない」「共感できない」。理解できず自己の信条と相反するから不愉快だと感じてしまえば、そこで終わり。
娯楽の読書ならそれでも用は足す。でもちょっと悲しいよね。そこから壁を打ち砕いたら新しい地平が待っているかもしれないのに。

新しく本と出会うことは新しくひとと出会うことと同じで、理解不能や対立は新しく世界を拓く前触れ。
誰かにかちんと反発を覚えたら胸をときめかせて一歩を踏み出したい。そんなことを内省とともに読書習慣に刻み込んでおきたい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 智の力
感想投稿日 : 2021年5月29日
読了日 : 2021年5月29日
本棚登録日 : 2021年5月29日

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