怖い短歌 (幻冬舎新書)

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  • 幻冬舎 (2018年11月30日発売)
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〈向こうから来るもの〉、〈死の影〉、〈内なる反逆者〉、〈変容する世界〉……。この世に潜むさまざまな恐怖を掬いとって詠まれたような短歌を9つのテーマに分け、多数紹介するアンソロジー。


絵画や写真のようにそこにあるものを瞬間的に掴み取り、説明を極力省く俳句とは違い、短歌は一首のなかで物語を描くことができてしまう詩型だと思う。書き出し小説やコンデンスト・ノベルは短歌の仲間と言ってもいい。それでいて、完全にフリとオチができあがってしまっているとその作品は怖くない。表層的な意味の奥にまた別の真相を隠しているような短歌が怖い。
以下、気になった収録作。

◆ おそろしきことぞと思ほゆ原爆ののちなほわれに戦意ありにき 竹川広
戦争の怖さと同時に、そもそも戦争というものを生みだす憎悪の深淵をじっと見つめている内省の歌。

◆ 少年の肝喰ふ村は春の日に息づきて人ら睦まじきかな 辺見じゅん
内側の人間には日常の風景が、外側からは〈異常〉で〈猟奇的〉。異常な日常を生きる村が恐ろしいのか、他者の日常を異常と断じてしまうことが恐ろしいのか。茂吉に通じる作風。

◆ 不眠のわれに夜が用意しくるもの蟇、黒犬、水死人のたぐひ 中城ふみ子
フュスリやゴヤの夢魔のような深夜の幻覚。「蟇」の字から墓が連想されて「黒犬」がでてくる感じが面白い。

◆ 男の子なるやさしさは紛れなくかしてごらんぼくが殺してあげる 平井弘
下の句から感じる幼さと「殺」のおそろしさ。谷川俊太郎の「男の子のマーチ」が頭をよぎった。

◆ 生前は無名であった鶏がからあげクンとして蘇る 木下龍也
食べるために育て、殺めたものに可愛らしいキャラクターを付与して売り、買い、食べる。社会的な罪の隠蔽システムが「からあげクン」の一語で表現されている。

◆ やさしくて怖い人ってあるでしょうたとえば無人改札機みたいな 杉崎恒夫
軽い言葉の使い方とそこに宿る哀切からニューウェーブ世代かと思ったら、1919年生まれと知って驚いた。〈こわれやすい鳩サブレーには微量なる添加物として鳩のたましい〉もいいな。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 新書
感想投稿日 : 2021年3月25日
読了日 : 2021年3月13日
本棚登録日 : 2021年3月25日

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