ボヴァリー夫人 (新潮文庫 フ 3-1)

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真面目なだけが取り柄の凡庸で大人しい青年シャルル・ボヴァリーは医者となり、母親の言いなりに持参金つきの45歳の未亡人と結婚するが、嫉妬深い上に実は持参金は嘘だったこの妻に苦しめられ、しかし彼女は死去。その後、骨折の治療をしたことのある裕福な百姓ルオーの娘エマを見初め再婚する。エマは鄙には稀な美女だったが、ロマンチックな小説を好み夢見がちな性格。

ボヴァリー夫人となったエマは、ある日夫妻で招かれた侯爵家の舞踏会で豪華な貴族の生活を垣間見、凡庸な夫との生活=現実に嫌気が差すように。すっかり鬱になったエマの気分転換のため夫妻は引っ越す。その町で隣人となった薬剤師オメー一家に下宿している公証人見習いの青年レオンと、エマはやがて惹かれあうようになるが、彼女のプライドやレオンの純情さのせいで一線を越えることはなかった。やがてレオンは勉強のため都会のパリへと去ってしまう。

またつまらない日常に戻ったエマは、今度は資産家の紳士ロドルフに誘惑される。彼は遊び人ではなから遊びのつもりだが、エマは夫を嫌うあまりにどんどん彼との不倫にのめりこんでいく。一方で夫に難しい手術をけしかけて有名にさせようと画策するも夫は失敗。エマはますます失望。ついにロドルフに駆け落ちを持ちかけるが、もちろんロドルフはドタキャン、あっさり捨てられたエマはまたしても鬱に。

気晴らしにと夫婦で芝居を観に出掛けたルアンで二人はレオンと再会。すっかり成長したレオンは今度こそエマを落としてやろうと画策、エマはあっさりレオンとの恋に落ちる。ピアノのレッスンと偽り毎週レオンと逢引きする日々。一方でエマは商人ルウルーから高価な品物と次々買い入れ借金がかさんでいる。やがて借金で首がまわらなくなり金策に駆けずり回るが、レオンにもかつての愛人ロドルフにもお金を借りることはできず、ついに彼女は毒をあおり…。

正直、最初から最後までエマを全然好きになれなくて困った。夫のシャルルが大変退屈な男であることには同情するが、彼はけして悪人ではない。浮気もしないし暴力もふるわないし、医者として真面目に働いて稼いでくれている。確かに大金持ちではないかもしれないが、一家には女中もいるし、乳母もいる。つまりエマは基本的には働かないのみならず家事も育児もしなくてよい身分。現代の働きながら家事育児をこなしている女性たちから見れば天国のような待遇。

もちろん、だからエマは幸福なはずとは言えないけれど、とにかく彼女は「足るを知る」ということを知らず、常に「もっと幸せになれるここではないどこか、もっと幸せにしてくれる夫ではない誰か」を求め続ける。まあ平たく言えば現実逃避。フローベール自身が「ボヴァリー夫人は私だ」と言ったという有名な逸話がありますが、つまり現実を直視しようとせず現状に満足せず、ひたすら夢想を追い求める心理は誰にでもあるということだろう。もちろん自分にもある。にしてもエマの願望は極端すぎ、そして自己中心的すぎる。彼女には娘がいるのに、駆け落ち計画の実行時に彼女には子供のことなど念頭にない。

きっとロドルフと駆け落ちしても、レオンとうまくいったとしても、どうせしばらくしたらエマはその生活に不満を抱きはじめるだろう。もっと良い生活、もっと素晴らしい夫を求めて夢見始めるはず。なまじ誘惑されやすい美人に生まれてしまったことも彼女の不幸だったのかもしれない。

もちろんフローベールは、エマを悲劇のヒロインとしては描いておらず、毒を飲んで死ぬまでにさんざん彼女は苦しむし、死の間際まで彼女の魂は救われることはない。小説としては、不倫しまくる女性の俗っぽいロマンスを扱いつつそれを反面教師に…という体裁なのかもしれないが、むろんこの作品の魅力はそんな表面的な建前の部分ではなく、エマと彼女をとりまく人物たちの詳細緻密な心理描写にあるのだとは思うけれど。翻訳が古いせいもあったかもしれないけれど、正直、夢中で読める楽しい読書、という具合にはいかない1冊でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:  ★フランス 他
感想投稿日 : 2021年7月4日
読了日 : 2021年7月3日
本棚登録日 : 2021年7月1日

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