オセロー (新潮文庫)

  • 新潮社 (1951年8月1日発売)
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本棚登録 : 1929
感想 : 133
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ハムレットに続いて四大悲劇第2弾

舞台はヴェニス
主人公オセローは「ムーア人」
ムーア人ってよく聞くけどいまいちわからない
(サロメにも登場したなぁ…)
「ムーア人とはむしろ、スペインをその時々に支配したイスラム教徒やアフリカ系の人々などを表す概念…」
(「NATIONAL GEOGRAPHIC」のネット記事にあったのだが、「概念」というところがミソだ 民族に疎い我々にはなかなかわかりづらい)
本書においてはムーア人が黒人ぽく書かれているが、人種的にはコーカソイド(地中海集団)になるらしい
ここでは差別的象徴のように「ムーア人」を使っている感じがする

オセローはヴェニスの軍人でムーア人と少々差別を受けながらも優秀っぽい
最初の印象は誠実で優秀で冷静沈着、高潔な感じの優等生タイプ
彼の人生は波乱万丈で、(千夜一夜物語っぽい)苦労を乗り越え、今の地位を掴んだのがうかがえる

そんなオセローに惚れ、彼も気に入ったデズデモーナは由緒ある純潔な娘
父の反対をも克服し晴れて結婚した二人
幸せの絶頂ともいえるのは束の間…
ここに刺客現わる!

オセローの信頼おける部下イアーゴーだ
ムーア人の将軍に仕えることがお気に召さないのか、オセロー自身が気に入らないのか
とにかくイアーゴーはオセローを憎み、破滅させてやりたい!とメラメラしている
イアーゴーは言葉巧みに人の心を操り、意のままに人を動かしてしまう天才的な悪いやつ
あれよあれよとオセローはイアーゴーの悪だくみにハメられていくのだが…

あれほど揺らぎなく愛し合っていたはずの二人が
まさかのイアーゴーの罠に落ちてしまうのだ!
オセローの性格からしても驚きの展開なのである
イアーゴーのゲスな企みがこれほど皆の運命を狂わせようとは…
生真面目なオセローの狂気がなんだか切ない
ムーア人としての引け目を覆すほどの積み重ねてきた彼の信頼性と実績と美しく純潔な妻…
ああ、全てが一人の罠で泡となる

結構突っ込みどころは満載で、不自然なところも否めないのだが、内容を知らずに読むのはやはり想像力を刺激されるので楽しめる
それ以外に面白いのがシェイクスピアの豊かな表現力
もちろん翻訳者の力量もあるとは思うが…

気に入ったやつをピックアップしてみた

■「体面」ってやつは…
およそ取るに足りぬ、うわつらだけの被せものにすぎない
手に入るときは手に入るし、失うときは失うようにできている
(説得力あります!)

■「酔っ払い」ってやつは…
酔っ払いの悪魔の気まぐれ、勝手に暴れておいて、あとは癇癪の悪魔に肩がわり
(どうにもならないのよ~と伝わってくる)

■「嫉妬」ってやつは
何かあるから嫉くのではない、嫉かずにはいられないから嫉くだけのこと、嫉妬というのはみずから孕んで、みずから生まれ落ちる化物
(確かに 自分の中からしか生まれない そして生かすも殺すもあなた次第)


最後に…
この時代って本当に女性蔑視がひどいのかしら?
女性に浴びせる言葉暴力的過ぎて、さすがにちょいちょい不愉快
当時は普通だったのかな…
それでも健気に頑張る女性像も見どころ
にっくきイアーゴーの妻が脇役ながらに光っていた


読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年4月18日
読了日 : 2023年4月18日
本棚登録日 : 2023年4月18日

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コメント 2件

淳水堂さんのコメント
2023/04/19

ハイジさんこんにちは、シェイクスピア進んでる〜(^o^)/

『オセロー』は割と好きなんです。
しかしツッコミどころは多いですよね(^_^;)
魔術じみてるし、オセローすぐ卒倒するし、展開早すぎるし。

ハイジさんが『ハムレット』のところで「筋を知って読んでしまったから」と書いてましたが、この『オセロー』に関しても観客(読者)はイアーゴーがオセローたちを破滅させようとしていると分かっているので、「なんで簡単に騙されちゃうんだ…」と思ってしまう。しかし戯曲ではオセローもキャシオーも「誠実なイアーゴー、正直なイアーゴー」って言っているんですよね。読者は、イアーゴーのことを誰も疑っていないというつもりで読まないと、騙された人たちが単純に見えてしまうお話なんだなあと思いました。

ハイジさんが嫉妬についてのセリフを書かれていましたが、イアーゴーがオセローに「嫉妬は目から緑の火を出す化け物」と言っていますが、それを語源として英語で嫉妬のことを「グリーンアイド・モンスター」となったのだそうです。さすがシェイクスピア様だー。

またまた映画のお勧めさせてください。
オーソン・ウェルズ監督脚本主演の『オセロー』です。
https://movies.yahoo.co.jp/movie/3462/
オセローって脚本ではセリフ過剰なところがありますよね。登場時の「刃を納めよ、夜露で錆びる」でなんかかっこよく決め、デズデモーナに対しては「お前を愛さなければ俺の世界は終わる」みたいな「うひゃー」なセリフも言ってしまう笑
それをオーソン・ウェルズが演じると、戦いばかりで人生を過ごしてきた無骨な40男が若くて純粋な娘さんを真剣に愛して…という説得力が出ています。
さて、「誠実な」イアーゴーは、動機なしの悪意でみんなを破滅させようとするので、研究?では同性愛的な気持ちがあったんじゃないの説もあるみたいです。(たぶんシェイクスピアはそのつもりはなかったかでしょうが、あまりにもイアーゴーの動機が意味不明ってことで)
この映画のイアーゴー役は舞台俳優さんで、映画出演はこれ一本。そしてこの俳優さんは若い頃オーソン・ウェルズに言い寄ったことがあるんだそうな。
えーっと、ふたりとも「そのつもり」で演じていたんでしょうか…(^_^;)

ハイジさんのコメント
2023/04/19

淳水堂さん 再びありがとうございます!

淳水堂さんはシェイクスピアがかなりお好きなのですよね⁉︎
お詳し過ぎます(笑)

そうなのですよね
やたら信頼できるイアーゴー的な流れで、わざとらしいと思ってましたが、それが狙いですよね
それにしてもイアーゴーの動機がイマイチ掴みづらい…とはいえ、そこに同性愛!とくるとは
まあそれくらい不可思議な憎しみということで…

こちらも映画があるのですね
知りませんでした!

グリーンアイド・モンスターも覚えておかなくちゃ

またしても豊富な情報ありがとうございます!

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