- Amazon.co.jp ・本 (285ページ)
- / ISBN・EAN: 9784000022088
作品紹介・あらすじ
「どうだい、ボガート?」-トリニダードの下町の一角ミゲル・ストリートでは、呑気なハットの挨拶で今日も一日が始まる。「名前のないモノ」ばかりつくっている大工、「世界で一番すばらしい詩」を書き続けている詩人、実は泣き虫のボクサーに、いかにもうさんくさい学者先生…「いつだって夢想家」の住人たちはみな、風変わりな、でもちょっと切ない人生を懸命に生きている。ノーベル賞作家ナイポールの事実上の処女作、約半世紀の時を経て日本に初登場。行間に漂うあたたかなユーモアとペーソスは、巨匠の知られざる魅力を存分に伝えてくれる。
感想・レビュー・書評
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トリニダード出身の作者の描くトリニダード。時代は第二次大戦期で、まだイギリスの植民地支配下にあった頃。
少年時代の回想という形をとっているので、基本的には懐かしく、また人情味がある短編が多いのだが、登場人物はみんな夢が破れて、どこか諦めた雰囲気がある。イギリス本国に対する劣等感、被支配感が、「このトリニダードで何ができるってんだよ」という台詞に如実に表れており、どちらかといえば物悲しい雰囲気のただよう作品である。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
原文で読んでみたいとおもった。
字の英語と過去の住人たちとの違いは、日本語での表現が難しいところもあるのでしょう。
子供のころみた世界はどれだけ輝いていたんだろう。たった一つの小さなストリートの中なのに -
西原理恵子の『ぼくんち』に似ている。働かない、飲んだくれる、女子供を殴る、パートナーと健全な関係を持てないなど、人のダメさが同じ。こういちくんのように、ハットができごとに句読点を付ける。
出ていくしかないやりきれない場所を描いて鬱々とさせないのはなぜか。過去を振り返る今はもう変わってしまった主人公が、ミゲル・ストリートにいた頃の子供の感性で持った憧れやときめきを、そっとそのまま並べるようにして慈しんで語っているから。その場所しか知らない子供にしか見つけられない良いものが、ミゲル・ストリートにはあった。それをまず書いてからでないと、ナイポールは先に進めなかったのではないかと思う。 -
インフルエンザ闘病中に読破の為、うまく感想が書けない…でもそういうこと。身体と脳に優しい文学。でも優しいだけじゃないよ、だってボガードという大工は「名前のない物」を作っているのだし、そういうものさえ作っていないと主人公は言うからね。あー早く本が読めるように元気になりたい(._.)
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思い通りに生きられなくて心が苦しい。詩人の話がとても好き。
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不思議な本。おかしいのだけれど、その笑いにはイタロ・カルヴィーノの『マルコヴァルドさんの四季』に通じるところがある。笑いが苦いのだ。苦いけれど、著者のまなざしにはなつかしさをこめた温もりがある。
主人公の「ぼく」は母親とトリニダートのミゲル・ストリートに移り住む。各章でこの通りの住人一人ずつにスポットがあたる。名前のないものを作っている自称大工ポポ。修理すると車が動かなくなってしまう機械いじりの天才。そんな按配で、この通りの住人は、自分がこうありたいという夢と乖離したままに生きている人たちだ。そういう住人たちに「ぼく」は親しみを感じている。必死に勉強し、みんなの期待を担っていた少年エリアスは、ミゲルストリートの憧れの的、ゴミ収集車の運転手になる。エリアスと同じ試験を受けた「ぼく」はこの本の最後の章でミゲル・ストリートを離れる。イギリスに留学することになったのだ。
通りには住人の夢を果せない苦さが循環している。最後に通りを出ることになった「ぼく」のミゲル・ストリートに対する距離感が、苦さへの距離感にもなっていて、この本に感じる不思議さのもとなのだろう。 -
夢と絶望の織り成す美しさ。トリニダードのさわやかな風を感じます。