可愛い女(ひと)・犬を連れた奥さん 他一編 (岩波文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (144ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003262238

感想・レビュー・書評

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  • 「彼はいつも女の目に正体とはちがった姿に映って来た。どの女も実際の彼を愛してくれたのではなくて、自分たちが想像で作りあげた男、めいめいの生涯に熱烈に探し求めていた何か別の男を愛していたのだった。そして、やがて自分の思い違いに気づいてからも、やっぱり元通りに愛してくれた。そしてどの女にせよ、彼と結ばれて幸福だった女は一人もないのだった。時の流れるままに、彼は近づきになり、契りをむすび、さて別れただけの話で、恋をしたことはただの一度もなかった。ほかのものなら何から何までそろっていたけれど、ただ恋だけはなかった。」(「犬を連れた奥さん」より)

    「犬を連れた奥さん」は、よくある安っぽいロマンスみたいなプロットだけど、読み終わると、恋とは、愛とは、結婚とは…と考え込み始めてしまいそう。

    「ヨーヌィチ」は、読んでいて、ひたすら胸が痛んだ。若い頃、恋した女にプライドを傷つけられた男と、挫折した箱入り娘とその老親の歩んだ人生の物語。だけど、こういう話、今の日本でも現実にあちこちありそう…。

  • ロシア文学、読み易い。
    愛に生きる女性の話。
    こんな生き方もあるのですね。

  • イオーヌィチに出てくる娘の気分になったらゾッとした。
    昔はかわいかったのに色褪せたなぁと思われたらやりきれない。

    可愛い女、他人への愛に依存する人っているよなあ。
    そういう生き方なんだろうけど
    対象が失われたときの喪失感や絶望感を何度も味わって、
    それでもまた他人に依存するその心の強さが
    ちょっとうらやましいほどだ。

  • 古いバージョンでしたが一応。ロシア古典文学だ。答えをあまり明確にしないが読みやすい短編三つ。ほんの少し皮肉的かも。

  • 表紙の説明が的を得ていると思います。なんというか、ごくごく普通の人のだめな部分を愛情を持って描きだしています。理想家のチェーホフの実際の奥さんが現実的で3大悪妻の1人と言われているようなんですが、犬を連れた奥さんで主人公の妻に対する描写に実際の妻を重ねているのかと思ってしまいました^^;かわいい女については、訳がすばらしいと思いました。自分をもたずに、恋人にすぐ迎合してしまう女が主人公なわけですが、よく言えば従順、悪く言えばフラフラな感じを「可愛い」という言葉でうまく表現していると思いました。友達にもこういう人いますね…

  • 【概要・粗筋】
    30代後半の妻子持ちの男と、彼より一回り以上年下の若妻との間の恋の始まりを描いた「犬を連れた奥さん」、ある青年医師と地方都市の名士トゥールキン家の交流を描いた「イオーヌィチ」、誰かに恋し愛せずには生きてはいけない女の半生を描いた「可愛い女」、チェーホフ晩年の三つの短編を収録する短編集。

    【感想】
    「犬を連れた奥さん」を読み終えたときの感想は、「え?これでお終い?」というもの。オチがなくて不満。

    「イオーヌィチ」は、凝縮されたある医師の半生を通して、かつて持っていた美点が失われてしまう過程が描かれていて良かった。例えば、主人公のイオーヌィチは青年医師であった頃は、若々しく初々しい恋をするような青年であった。しかし、年をとるに伴いどんどん太りだし、終いには人々から尊称で呼ばれないような医師になる。また、彼が恋したエカテリーナは、快活で騒々しく傲慢であった少女が、数年後には弱気で一度自分が振った男に媚びる女性になってしまっている。

    「可愛い女」のオーレンカのような女性を自分の恋人にはしたくはないな。自分の意見というものがなく、誰か男がそばにいないと幸せになれないなんて・・・。

  • 「犬を連れた奥さん」妻子ある40近い女好きのドミートリイ。海岸通に現れた若い奥さんと仲良くなろうとアプローチしていきますが・・・愚かしくも切ない男女の関係を短編に凝縮しています。男女の関係は100年くらいじゃ変わらないってことか。「イオーヌィチ」滑稽なほど盛り上がるタイミングがすれ違ってしまう男女。「よかったなぁ、あのときもらっちまわないで」のつぶやき。ブラックです。「可愛い女」究極の「あなた色にそまるわ」もしくは「つくす女」。幸せを相手に打ち込むことの中に見出す姿を、単に主体性が無いといって笑えるか?自主性をもって不幸なままでいるほうがましなのだろうか?何に幸せを感じるかは本人の問題。良い悪いの価値判断では語れないなぁと改めて感じさせられました。それに巻き込まれる周りがあるから悲劇も生まれ、笑いも生まれるのでしょう。偶然にもパオロ・ガチバルビ著「ねじまき少女」にも通じるテーマでした。遅まきながら完全にチェーホフに目覚めました。チェーホフ面白い!

  • さらりとした文章の短編3編なので、さらりと読み終わった。翻訳のうまさもあって、とても読みやすい作品である。
    心に残るかというと……ちょっと表現しづらい。もともとロシア文学というのは、読む人を選ぶような気がするけれど、この小説も口当たりの軽さとは裏腹に、そういう人を選ぶところがあるようだ。そして私は残念ながら選ばれていない。
    中年を過ぎてようやく人妻と道ならぬ恋という形で真の恋にめぐりあう男、俗物的な小市民の医師のいかにも俗物的な生涯のダイジェスト、自分自身というものを持たずひたすら何かに全身全霊の愛を注ぐことのみで生きる女。
    彼らに、私はあまり共感するところも、憧れも、また逆に憎しみや軽蔑も、強くはおぼえない。ただこういう生涯はあるのだろうなと思い、それが暑苦しいリアリズムではなく、あっさりとしつつも説得力豊かに描かれるさまは見事だと思う。
    トルストイは、「可愛い女」の主人公オーレンカをとても高く評価していたらしい。だとするなら、「戦争と平和」に出てくる女性たちがあれほどまでに皆愚かな理由も、何となくわかるような気がする。そんな、ちょっと場違いなことなどを考えてしまった。

  • 近所の誰それの話を聞いているような感覚。
    映像でいえば人の目線で撮られた映像を観ているかのような感覚。
    日本映画の感覚かな。
    温暖な保養地から始まる「犬を連れた奥さん」が印象に残った。

  • 先に読んだ『朗読者』の中に、「犬を連れた奥さん」を朗読するシーンがあったので、読んでみた。
    初めてのチェーホフ作品。
    言葉が古めかしいところがより一層わけのわからなさが増してよかった。
    「可愛い女」と「イオーヌィチ」の3篇。
    「犬を連れた奥さん」のラストが好きだ。その解釈は読者に委ねられているが、私はハッピーエンドだと思いたい。
    「可愛い女」のオーレンカもきっと「バカ女」だと思う人もいるだろが、私はとってもかわいい人なんだな、と思う。
    新潮文庫の方も立ち読みしてみたけれど、こちらの訳の方が好きだった。

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著者プロフィール

一八六〇年、ロシア生まれ。モスクワ大学医学部を卒業し医師となる。一九〇四年、療養中のドイツで死去するまで、四四年の短い生涯に、数多くの名作を残す。若い頃、ユーモア短篇「ユモレスカ」を多く手がけた。代表作に、戯曲『かもめ』、『三人姉妹』、『ワーニャ伯父さん』、『桜の園』、小説『退屈な話』『六号病棟』『かわいい女』『犬を連れた奥さん』、ノンフィクション『サハリン島』など。

「2022年 『狩場の悲劇』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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