七人の使者・神を見た犬 他十三篇 (岩波文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003271926

作品紹介・あらすじ

不条理な世界の罠にからめとられた人間の不安と苦悩、人生という時の流れの残酷さ、死や破滅への憧憬などを、象徴的・寓意的な手法で描いた十五の短篇。ディーノ・ブッツァーティ(一九〇六‐七二)によるイタリア幻想文学の精華。ストレーガ賞受賞作『六十物語』から精選。

感想・レビュー・書評

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  • 20世紀イタリアの作家ブッツァーティ(1906-1972)による幻想的で寓意的な短編のアンソロジー。『六十物語』から。

    無駄な要素を極限まで切り詰めて単純化することで作り出される、それゆえに透明で普遍的な世界は、星新一やボルヘスの世界に通じるものを感じる。読んでいると、日常から遠く上空へ連れ去られて、無限遠に消失してしまいそうになりながら、なおそこに残る、存在の前提とでもいうべき形式のようなものが、垣間見えてくる気がする。

    「水滴」
    無意味で無内容な、一切を取り除いたあとになお残る elementary な不安。無条件の不安。「いや、ちがうのです、戯れているわけではありません、二重の意味はないのです、どう考えても、夜になると階段を上がってくる、まさしく一滴の水でしかないのです。ぽとん、ぽとんと、神秘的に、一段ずつ。だからみんなは恐れているのです」(p145)。

    「七人の使者」
    いつからか、前方を見渡してみても後方を振り返ってみても、始点からも終点からも無限に距てられていて、いつもいつまでたってもどこかの途中に宙吊りにされている。日常的な「人生の意味」の被膜のすぐ下に潜んでいる「生の無意味」。美しい寓話。

    「七階」
    あまりに巨大で個人にとってはその全体が不可視であるがゆえに、不条理であり出口なしの機構。それに囚われた恐怖。よくある主題かもしれないが、機構の不条理に引きずり込まれて抜け出せなくなっていく展開が巧い。本書のなかでは物語として最も面白い。

    その他「なにかが起こった」「山崩れ」「道路開通式」「急行列車」もよかった。

  • 全体的に舞台は現実にありそうなのにそこで起きている物語は現実味がないという幻想的な雰囲気で進行し、どのように話を着地させるのか予想がつかないものが多かった。登場人物たちは不可解な状況に遭遇するが、特に「こうなっているはずだ」と思っていたことがまったく起きていなかったり、そもそも何が起きているのかわからない状況に進んでいくしかないという構造の作品が複数見受けられ、解説にもあったように作者の人生観がうかがえた。その中では車窓から見える人の動きは明らかに目的地で何かがあったとわかるのに汽車はそこに向かって進むことを止めない、という筋書きの「何かが起こった」が気に入った。10ページにも満たない作品だが、読んだ後言いようもなく不安にさせられる。また巻末の解説が読んでいまいちしっくりこなかった作品の解像度を高めてくれ、非常に良い。

  • ブッツァーティの小説世界はいつも枠組みがはっきりしていて展開もわかりやすい。でも不条理文学と呼びたくなる。抑制の効いた端正な構造の上に、人間の歪みや愚かさや理不尽さが浮かび上がる。
    1958年に刊行された短篇集『六十物語』から14篇を選んで訳したとのこと。好きなものをいくつか挙げると、まず表題作「神を見た犬」。神出鬼没の野良犬を村人が畏れ敬い始めるさまに乾いたユーモアが冴える。逆に背筋が凍るのは「竜退治」。後に退けなくなった人間がどんどん墓穴を掘り続けるのはブッツァーティの多くの作品に見られるモティーフだが、淡々とした語り口が却って登場人物たちの野蛮さ・愚かさを明確にする。「聖者たち」はそののどかさで本書の中では異彩を放っている。“そしてそれもまた神なのである”の繰り返しが、聖者たちの清澄な世界の支柱となる。

  • 自分が常に感じているぼんやりとした不安にものすごくリンクしてきた。
    悪夢というほどでなくとも何か不安を掻き立てられ、気になってしまう夢。そういう夢のようにこの短篇集は心の奥底に響いてくる。
    こういう物語に触れると、不思議とどこか癒される気がするのは私だけでしょうか。

  • 光文社古典新訳文庫と数編かぶっているのでちょっと迷ったんですが、まあ15編中の4編(「大護送隊襲撃」「七階」「神を見た犬」「聖者たち」)だけなので、他のは読みたいなと。

    ブッツァーティの作品は、幻想的とか不条理とかより「不毛・・・」と思わされる作品が多い気がします。表題作の「七人の使者」や「道路開通式」「急行列車」は、終点(目的地)が実は存在しないかもしれないのに進むしかない(引き返せない)人生の寓意的な感じだし、何かが起こっているのに対処しようがない不安を描いた、タイトルそのものずばりの「なにかが起こった」や「水滴」「山崩れ」あたりもしかり。

    「竜退治」は一見ファンタスティックなタイトルですが、なんの罪もない生き物を虐殺する人間のおろかさが主題になっていて、読後感はおよそファンタジーとは程遠い(苦笑)。

    宇宙人にキリスト教のありがたさを説く神父の「円盤が舞い降りた」や、自動車がペストに感染するという「自動車のペスト」は、現代的なショートショートっぽくて、ちょっと違う面白さがありましたが、これも「幻想的」というのとは違う。

    結局いつも「ああ人間って愚か・・・人生って不毛・・・」と思わされてしまう何かがあるんですよね。とはいえ「七人の使者」は、なんだか妙に好きでした。不毛さの中にも、それでも前に進むべき、という主人公のブレない姿勢が美しいからでしょうか。


    ※収録作品
    「七人の使者」「大護送隊襲撃」「七階」「それでも戸を叩く」「マント」「竜退治」「水滴」「神を見た犬」「なにかが起こった」「山崩れ」「円盤が舞い降りた」「道路開通式」「急行列車」「聖者たち」「自動車のペスト」

  • 短編集。
    短編はあまり好みではないはずだけれどもこの作家の物語には惹き込まれてしまう。

    まるで自分の 意思や希望はことごとく否定され、システムに流されるままにされる様である。

    危機が迫る中、その危機を頑なに感じたくないが故に危機に飲み込まれる。

    物語としてはSFのような、幻想小説のようであり、しかしルネサンス期の宗教画の背景にあるような山、砂漠が情景として浮かび上がる。

    寓意に溢れたこれらの物語から得られるものは多い。

  • 「タタール人の砂漠」が気に入ったので、ブッツァーティの短編集のこの本を読みました。
    全部で15作の作品が収録されていますが、どの作品も語り口はメルヘンのようですが、漠然とした不安や破滅、人生の理不尽さなどが感じられるブッツァーティらしい作品でした。

  • 幻を信じるか。どんなことでも、風と花、世の中が変わると心も変わる。心の中の神さまの存在を有りか無しかと考えるのは趣味ではない。

  • 何とも不思議な、心乱される作品群。

  • 素晴らしい彫刻を見た時と同じ感想だった。何て美しいんだ!精巧なんだ!これを作った人はどうやって作ったんだろう! 何だか近年は格付け、ランク付け、意味のないカースト付けをしては人を攻撃したり不安に 陥れるような世の中になっていて、やだなあ と日々思ってた。しかし、この本の読後は、実は人間は太古の 昔から何も変わってないのではないか、と思いをはせた。いつの時代も人は出来事に出会い、おののき、絶望しながらもそれを消化し、最後に哀しみを味わう。皆不器用ながらもギャートルズの時代から絶滅しないで生きてる。

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