悪人(上) (朝日文庫 よ 16-1)

著者 :
  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022645234

感想・レビュー・書評

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  • 九州地方に珍しく雪が降った夜、土木作業員の清水祐一は、携帯サイトで知り合った女性を殺害してしまう。母親に捨てられ、幼くして祖父母に引き取られた。ヘルス嬢を真剣に好きになり、祖父母の手伝いに明け暮れる日々。そんな彼を殺人に走らせたものとは、一体何か―。

    佳乃や祐一と関わる人たちの視点が入れ替わり立ち替わりしながら、物語は進行していく。
    読みやすい文体と、引き込まれる描写に、あっという間に読んだ。
    自分の親戚がみんな九州にいるので、本書の博多や長崎の方言が懐かしい。

    下巻も早く読みたい!

  • ここ数年で読んだ小説の中で、最も心に残っている作品です。ビックリするほどに大好き。

    普段は、一度読了した同じ作品を何度も読み返すことはほとんどないのですが、この作品だけは、もう数回、読み返している自分がいます。それはもう、それだけ大好き、という事なのでしょうね。とにかく、ちょっと、特別な作品です。

    妻夫木聡、深津絵里のダブル主演にして、李相日監督の映画バージョンも、相当に大好きですが、、、やっぱり、読み返すと、こうね、小説版の細やかさ、といいますか、登場人物のかたがたにむけた、吉田修一の、温かさ、という面がしみじみ伝わりますねえ。

    各人物それぞれを、丁寧に、丁寧に、語っていると思うんです。誰々は、こういう人物である。誰々のバックグラウンドは、こうした生活に根差している。というのが、本当にちゃんと、「本当に存在しているように」描写されている。もうね、すっげえなあ。って思うんです。映画だと、どうしても、上映時間の制約がありますものね。妻夫木君と深津絵里さんの二人以外のキャラの描写って、どうしても限られちゃいますよね。

    でも、この小説では、ホンマに、いわゆる、サブキャラ?って言っちゃー失礼ですが、お二人以外の登場人物の描写が、超絶丁寧。すっごいそこが、好きです。

    石橋佳乃は、ホンマにこうビッチやなあ。でも、彼女の両親はホンマにこう、ええ人やなあ。まっすぐやし。

    増尾圭吾と、友人の鶴田公紀の絡みも、好きですねえ。鶴田の映画好きな感じの描写も、良いです。鶴田が、ダーツバーのバーテンと、好きな映画監督の作品でどれが、いっちゃん名作か?とかやりとりする談話とか、好きですねえ。あと、ラーメン屋での「ごちそうさん、まずかった」話とか。こう、上手い。上手いなあ!キャラ造りが!すっげえなあ!って思います。

    清水祐一と、ヘルス嬢の金子美保のエピソードは、めちゃんこ秀逸ですねえ、個人的には。祐一という人物が、どんな人間なのか、ということを、おっそろしいほど的確に表現してますよね。こういうエピソードを構築できる吉田修一さん、すっげえなあ。

    あと、個人的に、そのエピソードは必要なんか?いるのか?と思ったのは、
    祐一の友人、柴田一二三の体験した怪談。三瀬峠で、幽霊に出会ったって話。恐怖体験したって話。
    あれの意味が、よおわからんのです。この小説の中で、あのエピソードを入れなければならなかった理由。むう、わからん。吉田さん、あの話は、どう理解すればよいのですか、、、?すみません、とか思っちゃいました。気になるなあ。

    上巻は、比較的、静かな展開、というところでしょうか?ヒロインであるはずの、はずの?馬込光代も、終盤に、ちょっと登場するだけ、ですし。くう、下巻へのこの繋ぎ。くう、上手いなあ、、、スゲエなあ、、、

    まあ、なにしろ、ホンマにこう、グッとくる作品です。こんな作品に出会えることが、小説を読む喜びだなあ、そんなことをシミジミかんじる一作でした。で、下巻は、もっと、すんごいです。素晴らしいです。

  • 上下巻読んでの感想
    登場人物の多くが寂しくて哀しい人間だ。
    優越感を味わいたいから人を見下す。そのくせ、取り入りたい相手には媚びを売る。
    人がどんなに傷つこうと、そんなことは考えようともしない。
    だから思い切り残酷になれる。
    転落のきっかけなんて、もしかしたら日常の中にあたりまえのように転がっているのかもしれない。
    そして、愛に出会うきっかけも、幸せになるきっかけも、同じように日常の中に眠っているのかもしれない。
    つまづいて転落していくか、見つけ出して幸せになるか。
    ほんの小さな偶然が人生を変えてしまう。
    転落の真っ最中に知り合った二人。
    最後まで悪人になりきれなかった祐一は、極悪非道な犯罪者として生きていく道を選ぶ。
    それが彼にとっての幸せだったのだろうか?
    誰もが幸せになりたいと願う。
    祐一が選んだ道は、彼にとって本当に幸せな道だったのだろうか?

  • 引きこまれて一気に読みました!
    文章に情緒的な表現(センチメンタルな表現)がこもっていなくて無駄がないからでしょうか?かえって引き込まれる文章なのかな。。と感じます。
    場面はけっこう変わるのに、不思議と状況がすぐに理解できるし、読んでてまったくそういった苦痛がなく、とても読みやすいところも大変気に入っています。吉田修一の作品をこの感じでどんどんと読み進めたいと思っています!
    早く下巻を読まなくちゃ!気になります~

  •  親が理解している佳乃、友人が思う佳乃、実際の被害者となった佳乃が少しずつずれている。それは加害者祐一とて同じ。そのずれが一人の人間を悪人にしていく。  発する言葉、感情から出る言葉、それを受け止められない人圭吾と対照的な祐一、各々のズレを増幅していくあたりが、ゾクっとする。 
     下巻も読了

  • 2014.2.11読了。
    いろんな人がいろんなところで繋がっている。頭の中でも半信半疑ながら、犯人を決めているんだけど、(上)の最後まで読むと…はやくっ!はやく下巻読まなきゃ!でもところで。眞子が警察に言えなかったもう一人の男性って誰だろ。
    気になるなぁ。スッキリするかなぁ。
    まいいや、これからすぐ下巻読みます!

  • 映画館の予告を見て興味を持ちました。

    殺人を犯した男と、その男を愛した女の話…
    なのですが、そんな単純に説明出来ない。

    人物描写がたまらない。

    あの人の、この人の、切なさが痛い程伝わる。

    久々に一気読み。
    果たして結末は?

  • 映画を観てから、ずっと読みたかった本。
    ストーリーの流れはもうわかってるんですが、それでも小説だと自分の中で一つひとつのことばを咀嚼する時間があって、自分のペースで読めるからいいですね。

    なかなか主人公の祐一の姿っていうのは見えてこない。
    そのまわりのいろんな人々、いろんな人生、いろんな立場の視点から物語が進んでいきます。
    それぞれに一生懸命生きてるんやけど、そこで事件が起きてしまう。
    地方の若者の世界って、都会で育ったわたしには理解しきれないものがあると思うけど、その狭い世界で生きていかなければいけないことのしんどさって、なんかわかる気がした。
    それにしても…なんかやりきれない思い。
    続きが気になるので早く下巻読みます。

  • 見てみたかった映画の原作。結局見れなかったけど・・・

    内容
    土木作業員の清水祐一は、長崎の外れのさびれた漁村で生まれ育ち、恋人も友人もなく、祖父母の面倒をみながら暮らしていた。車だけが趣味で、何が楽しくて生きているのかわからない青年。佐賀の紳士服量販店に勤める馬込光代は、妹と2人で暮らすアパートと職場の往復だけの退屈な毎日を送っていた。
    「本気で誰かに出会いたかった…」
    孤独な魂を抱えた2人は偶然出会い、刹那的な愛にその身を焦がす。しかし、祐一はたったひとつ光代に話していない秘密があった。彼は、連日ニュースを賑わせていた殺人事件の犯人だった――。

  • 世の中白黒つけられることの方が少ない。

    読み終わった後で、この中で本当の「悪人」とは誰だろうかと考えさせられる。
    事件は毎日のように起こっている。
    テレビをつければ、殺人事件の報道が流れ、
    ひどいことする人がいるものだ、と思いながらも直接関わりがないため
    そこから私たち傍観者にはなかなか重みが伝わらない。

    だから増尾の友達の言葉の意味がなんとなくよくわかった。
    人の気持ちに「匂い」がするというその表現はすごく的確だ。

    私たちはブラウン管から物事を傍観する癖がついてしまって
    色んなことに対する神経が麻痺しているように思うことがある。
    それでも傍観者から参加者になると当たり前だが話は違う。
    そこに色がつく、匂いがついて、実感が沸いてくる。


    殺人を犯したもの=悪人
    という形式ができあがるのはあたりまえのことだ。
    しかし、その裏では本当は何が起こったのか。
    なぜそうならなければならなかったのか。
    その過程を追ったこの作品はなかなか読み応えがあって
    私も九州出身なので、懐かしい方言とか地名が、その風景をよりリアルにした。

    犯人。彼の友人、家族。
    ”被害者”。そしてその友人と、家族。
    色んな視点が織り込まれることにより浮かび上がってくるそれぞれの姿。

    現代が抱えるさまざまな問題をうまく混ぜ込んで
    やけに生々しくて、読み終わったあとのなんともいえない後味の悪さは拭えない。
    問いかけられるのだ。「ほんとうの悪」とは何か。
    そもそも「悪」とは何なのか。

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著者プロフィール

1968年長崎県生まれ。法政大学経営学部卒業。1997年『最後の息子』で「文學界新人賞」を受賞し、デビュー。2002年『パーク・ライフ』で「芥川賞」を受賞。07年『悪人』で「毎日出版文化賞」、10年『横道世之介』で「柴田錬三郎」、19年『国宝』で「芸術選奨文部科学大臣賞」「中央公論文芸賞」を受賞する。その他著書に、『パレード』『悪人』『さよなら渓谷』『路』『怒り』『森は知っている』『太陽は動かない』『湖の女たち』等がある。

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