バカにならない読書術 (朝日新書 72)

  • 朝日新聞社
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022731722

感想・レビュー・書評

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  • 330

    二宮金次郎の伝記では、薪を背負いながら「本を読んだ」、つまり寸暇を惜しし たことを偉いと言っている。 そうではありません。大事なのは「薪を背負いながら」の方なんです。家が貧しく、幼い ころから手伝いをさせられた。どうすれば薪を効率的に運べるか、少しでも肩が痛くならな い背負い方はないか、近道はないか、幼いなりに考えたでしょう。そうしながら本を読んだ。 だからこそ、本をよりよく理解できた。「知育」「徳育」「体育」が子どものころから循環し ていたわけです。 もし、ずっと家の中にいて本ばかり読んでいたら、「尊徳」にはなれなかったと思います。


    ノーベル文学賞を受賞したイギリスの元首相チャーチルなんかも、たぶん、そう 若いとき本なんて読まなかったはずです。兵隊でボーア戦争なんかに行っ よう。彼が勉強を始めたのは成人になったころからです。突然学問に目覚めるんです。 それまでは悪童でどうしようもなかった。だから、人によっていつから本を読み始めても 別にいいわけです。


    私はくだらない本もいっぱい読みます。いまもアメリカのファンタジーを持っています。どうしてファンタジーを読むかというと、アメリカの常識はこうなんだな、というのがわかるからです。

    つまり、中身を読むよりは形を読む。一般的には、読書をするというのは、本の内容を理解することでしょうが、それがすべてではない、そういう読み方ができるようになると、本が別の意味でおもしろくなってくる。「世につまらない本がない」というのは、そこなのです。

    本を選ぶのに工夫はありません。とりあえず、おもしろそうだなと思うものを手にする。 ベストセラーは必ずしも読むわけではない。そして、自分が考えもしなかったことを書いて ある本が、一番楽しい。 自分の専門に近いのはダメです。小説でも医療を扱ったものは読みません。

    テレビに相当する物がまったくないので、子どもたちはヒマでした。やっていることとい ったら、カニ捕り、魚捕り、トンボ捕り、セミ捕り。冬場なんかは特にやることがないから、 みんなで集まって遊ぶ以外にない。それでもまだ友達が集まらない時間があるわけで、しょうがないから本を読む。 今の時代はそういうのはない。逆です。 その結果、言葉に対する飢餓状態が欠けてしまいました。特に若い人はそうです。 その根本は何かというと、「人間は同じだ」ということを暗黙のうちに前提にしてしまっていることです。 人間は一人ひとり違うという前提から入ると、本を一生懸命読むんです。人間は同じだと いう前提から入ると、違っているのが気にいらないわけです。たとえば、喫煙追放運動が、 どうしてあっという間にこんなに全体主義的になるのか、それに似ているでしょう。 要するに、気に入らないものを消してすべてを同じにしたがる。そうじゃなくて、人間ってこんなに違っていて話が通じないものなんだなと感じてる人ほど人を尊重できる。

    読書って、それだけで成り立つ行為ではないのです。たきぎ この点でも二宮尊徳っていうのは極めて象徴的です。「薪を背負いながら」読む。あれが 正しい読み方なのです。 その像が八重洲ブックセンターの前に建ててあるのは、つまり、意味があるのです。 その心理を私の場合で説明すると、家の中で座って読もうと思うと落ち着かない。そもそ もどこで読もうかと思う。机の上にはパソコンが置いてある。後ろを向くと大きな机がある けれど、そこは書類が載っている。秘書がいる。読めないでしょう。食卓で読むかと考える と、これはまた何か食べながらにしようとか思うし、ソファーだったら本をどこに置いてい いかわからない。じゃあ本でも読一番落ち着きがいいのは、電車に乗って「やることない。しょうがない。 もうか」と。目的は別にあるわけです。どこかへ行くわけですから。

    私は東京大学の教員時代、鎌倉の自宅から横須賀線の快速で通勤していました。この通勤の片道で、文庫本が一冊読めました。時間にして一時間です。 速く読めるのは、飛ばし読みするからです。どこを飛ばすか。さっと目を滑らしていて、 そこに違和感のある文字が飛び込んでこない限りは、飛ばすのです。つまり、引っかかると ころだけを読むのです。 それは読んでいて、「おっ」と思うところです。自分の頭で追えないようなことが出てく れば気がつくから、そこは読むわけです。「ああ、そういうことか」と思ってまた次に進む。 だって、引っかからないところは自分がわかっているところだから。だから飛ばしていい わけです。

    本がその人にとってブレークスルーになるような時代は過ぎてしまったのではないかと思 いますが、私の場合、自分の人生を振り返ると、本のおかげだったという気がします。 大学院に入るとき、ちょうど試験を受けるころでしたが、デカルトの『方法序説』を初め てちゃんと読みました。非常に影響を受けました。物事を明晰に語る、クリアに語る、しか も論理的に語っているからです。 やはりデカルトというのは優れている。ドイツにも哲学者は大勢いますが、まず、みんな 文章が長すぎる。デカルトはフランス人ですが、科学者になるための基本的なところをあれ ほど短い文章で、見事にとらえて書いたものはありません。

    文学賞の選考でなぜ村上春樹が落ちるかというと、作家たちが評価していないからです。 評価しない根本の理由は、ある人に言わせると、土俗性がないということだそうです。 だから売れる。村上春樹は世間を少し外部から見ている。けれど完全に外部になってしま ったら私たちの世界とは関係がなくなるので、「お前なんか、どこかに行っちまえ」という 話になる。実際は微妙な距離感を保っている。だから、どこの国の小説かわからない、とい われてしまう。具体性がないとか、心に訴えないとかという評価になってくる。あるいは軽 いとか。文学ってそういうもんじゃないだろう、もう少し神風特別攻撃隊みたいなものだろ うと、彼を評価しない側はいうわけです。

  • "読書術"と言われて想像する読書術についての本では無いな、と思った。
    でもただ本を読むだけではダメ、というか、勿体無いんだなと感じた。
    「本を読む」の深度の違いってこう言うことなのか。と。書いてあること全部を理解は難しくてちょっとできなかったけど、気になる内容ばっかりだったのでオススメ本はちょっとずつ読んでみたいと思う。

  • 本書は、読書術というタイトルですが、「はじめに」で「あまたある類書とはかなり違っています」と断っています。
    実際、読んでみると「かなり違う」レベルではなく、読書術に分類すること自体無理があると思いました。
    自分が分類すると、読書の仕方である「読書術」ではなく、読書の効用等を謳った「読書論」だと思います。

    内容ですが、この本の前半は解剖学を専門とする養老孟司が
    ・読み聞かせの効用
    ・読書と前頭葉の発達
    ・読書救国論
    について話しています。まさしく、「話している」という感じの口述筆記感あふれる文章で、話の論点はぼやけ気味。素直な感想として「よくわからない」内容でした。

    後半は、養老孟司・池田清彦・吉岡忍の鼎談で、こちらは図書紹介でおもしろと思う本を紹介していて興味深い。

  • 推薦図書

  • 本書は2007年発行。
    前半は養老孟司氏の読書論であり、後半が養老孟司、池田清彦、吉岡忍の3人の対談である。
    後半の対談では、3人がお勧めの本について語り合う。
    3人とも読書家でありテーマも多岐にわたるため、お勧めの本の中で何冊かを購入することになった。
    しかし、秀逸は前半の養老先生の読書論である。
    子供を育てるとき、知育・徳育・体育の3つが大事だという。
    しかしこの3つは、
    知育=入力=感覚
    徳育=演算=脳
    体育=出力=運動
    に対応していて、徳育=脳を育てたかったら、入力と出力=身体を動かせば良い。
    文武両道、知行合一は、そのことを言っていたのであった。
    また、養老先生の本の読み方は、「裏を読む」読み方である。表に書かれている文章から、書かれていないことを推測する。それが書かれない理由を推測する。
    そうすると著者のものの見方がよく分かる。
    これは著者とのコミュニケーションと言える。
    すなわち、読書をするとコミュニケーション能力がアップする。言ったことと言わないこと、その両面が分かればコミュニケーションは円滑になる。
    では、どういう本を読めば良いのか。
    一つは古典である。古典には猛烈な編集がかかっている。ムダが削ぎ落とされている。
    ゆえに、多様な読み方ができる。
    さまざまな解釈を試みながら、書かれていないことを推測しながら読むことで、読む力を鍛える。
    また、中身だけでなく形を読む。構造を読む。
    何が前提になっているのか、アンチテーゼとして示されているのは何なのか、なぜこの本が売れているのか。
    こういった構造的なところが分かれば、読書の楽しみが増す。
    養老先生には天賦の才能があるのだろう。
    膨大な勉強と思索を通して、その才能を磨き上げてきたのだろう。
    さらには、膨大な読書を通して、たくさんの気付きを得てきたのだろう。
    養老先生の頭脳の秘密が垣間見ることができた。

  • 「読み聞かせが子どもの脳にいい」などの通説に反論することから始まり、さまざまな本の論評に終わる。あまり内容はない。 読む本がなくなって困っている人にお勧めしたい。

  • 二部構成になっていて、前半は、養老孟司さんが脳の働きという観点から読書や書物のことを書いていて、「読み聞かせ」は本当に子供の脳の発達に役立つのかなど、養老流に書かれています。後半は、ホンマでっかTVに出演されている池田清彦さんらを交え『バカにならない本選び』と言うテーマで好き放題に言いまくりです(^^)

  • バカの壁の 養老孟司さんの 対談を中心とした読書論 やたら村上春樹と ホリエモンに厳しい

  • 巻末にある対談に本の紹介があるので、本を選ぶ際の参考にしています。

  • 後半は、知の巨人達の読書に纏わる対談集。読みたくなった本もちらほら。で、前半は養老さん単独の読書論になっているんだけど、この部分には気付きが散りばめられていました。ただ我武者羅に読書というのは、一見正しいように思えるけど、実際にはインプットしているばかりで自分で考えることをしておらず、有意義でない。なるほど。自然と携わる機会が減って、いわゆる体感して学ぶ機会が持てないと、本当の学習力が身につかないかもしれない。なるほど。ともすれば見過ごしがちなそういう諸々を、言語化して言ってもらえると、自身を見つめ直すきっかけになります。これもまた”本の本”の一環として読んだんだけど、上記のような収穫もあり、素敵な読書体験でした。

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著者プロフィール

養老 孟司(ようろう・たけし):1937年神奈川県鎌倉市生まれ。東京大学名誉教授。医学博士(解剖学)。『からだの見方』でサントリー学芸賞受賞。『バカの壁』(新潮社)で毎日出版文化賞特別賞受賞。同書は450万部を超えるベストセラー。対談、共著、講演録を含め、著書は200冊近い。近著に『養老先生、病院へ行く』『養老先生、再び病院へ行く』(中川恵一共著、エクスナレッジ)『〈自分〉を知りたい君たちへ 読書の壁』(毎日新聞出版)、『ものがわかるということ』(祥伝社)など。

「2023年 『ヒトの幸福とはなにか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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