氷点(上) (角川文庫)

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
4.09
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041003404

感想・レビュー・書評

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  • たいへん面白かった。主な登場人物全員の心理描写があり、どの人物にも感情移入できました。
    妻への復讐のために娘を殺した犯人の娘を養子にとるが、どう考えても復讐になっておらず、特大ブーメランとなって辻口自身が苦しむことになる。
    個人的には啓造にシンパシーを感じて読み進みました。
    陽子の出自を知った夏枝は、これまで目に入れても痛くないというほど可愛がってきた陽子への愛情を失い、疎ましく思うようになり嫌がらせをするが、子供ながらよく出来た陽子は人を悪くいうことがない。そのことがよりいっそう夏枝を刺激し嫌がらせが執拗になっていく。
    特に思春期を迎えた陽子の初恋を邪魔する夏枝の底憎らしさは圧巻で読み応えがありました。読者の多くは陽子がんばれで終盤を迎えると思います。
    この救いのない物語はドッキリカメラもびっくするような結末に至りますが、とにかく面白かったです。
    後で知りましたが、この話はキリスト教で言うところの原罪(生まれながらに背負った罪)がテーマなんだそうです。陽子=原罪という解釈でしょうかね。いつしか父・啓造は陽子を愛おしく思うようになり、兄・徹に至っては陽子に惚れてしまう始末。美人というのは罪深いもんです。

    作者の三浦綾子氏は旭川出身で、この小説も旭川が舞台。情景描写がリアルなのはそれ故かと合点がいきました。いつか旭川に行く機会があれば三浦綾子記念文学館にも行ってみたい。

  • かなりハマりました!
    人間の心理を本当に上手に表現されている作品だなと思いました!

  • 辻口病院長夫人の夏枝が医師村井と逢引している時、3歳の娘ルリ子は母がそとで遊びにいってらっしゃいと言われ外へ行き、誘拐され殺害されてしまうところから始まる。小学生の頃、ドラマで見たことがあったがほとんどストーリーは覚えていなかった。病院長の辻口啓造は浮気をしていた妻の夏枝が許せず、そのために死んだルリ子が不憫で、ルリ子を殺した犯人の娘を養女として引き取る。娘を殺した犯人の子を知らずに育てていた夏枝の驚きと哀しみ。陽子を妹だと思い愛情を注ぐ長男の辻口徹など、登場人物の感情が生き生きと描かれ、人間の持つ良心とか悪意が、自分も同じ立場ならと考えさられます。この作品は朝日新聞に1964年に連載された作品ということだが、60年近く前の作品とは思えない。下巻が楽しみです。

  • めっっっっっちゃおもしろい!!
    登場人物に苛々がそれぞれ進んでいくごとにあるのに展開するにつれてどの人物にも気持ちが入りこんでしまうのがびっくりした。自分の軽薄さに少し笑った笑
    辻口の性格のような知り合いもいるし、女という者の中には当然夏枝のような一面も存在する。
    下が早く読みたい!昔の連ドラとかとにかくテレビで放送されたら来週が待ち遠しくてたまらなくなる笑しかし本のいいとこは、どんどん読めるところ!もう最高!早く読みたいな〜
    中身としては陽子の先がすごく気になる。
    どの主人公においても波瀾万丈すぎてなかなかよ読み応えがある。東野圭吾なら徹が主人公だろうな笑

  • 「汝敵の敵を愛すべし」を屈折した愛と憎悪で実践しようとする啓造の原罪が描かれていく。本作は、筆者の「一千万円懸賞」受賞作。三浦商店の店主をしていた筆者は夜中執筆し、役所勤めの夫に読んでもらったそう。懸賞の一千万円は、教会など療養中にお世話になった人で今困っている人や家族へ贈ったとのこと。本作のみならず、本作を生み出した筆者の人生や生き方からも愛とは何かを考えさせられる。子供がいないという筆者にとって本作は子供のような存在だとか。啓造がどう変化するか、真実を知った夏枝はとうなるのか下巻が気になって眠れない。

  • 前から読んでみたいと思っていたのでやっと読んだ。
    もっと早く読めばよかったと思ったくらいおもしろくてのめりこんだ。

    自分の娘を殺した犯人の子供を育てる話、というのは聞いていたのだが、その犯人の子どもを引き取るまでの啓造の嫉妬深さとか、夏枝の浮気心とか、そこで既にあらすじほど単純な話でもないと感じた。
    そこからの登場人物の心の動きがリアルでストーリーも目を離せない感じ。すごくすごい(←語彙力)

  • 上下感想。

    周りからどんなに人格者だと言われても、人間が様々な感情を持ち得ることは、昔も今も同じこと。特に怒りや嫉妬、憎しみ等を飼い慣らすのは難しい。

    本作を、自分とは無関係の物語として興味本位で読み進め、啓造や夏枝に幾度となく憤慨したけれど、実は誰もが、彼彼女等の感情と決して無関係じゃないんじゃないか?

    明るい部分も暗い部分も含め、己を知り、自分の中で折り合いを付け、許し許されて、人は生きていかなくてはならない。

    本作に説教臭さはない。
    ただ純粋に人間の未熟ゆえの罪に向き合い、その葛藤を、細やかな感情の機微とともに描き出した名作だと思う。

  • 大学生の頃に読んで衝撃的だった作品。あれから10年以上は経ちますが、タイトルを見ただけで胸が軋むほどの鮮烈さで読み返すにも勇気がいるような…でもまた読み返したいような、、胸にズッシリと来るけど、「生きる」について強烈に考えさせられました。あの頃の悩んでいた私にとって支えにもなった忘れ難い一冊です。

  •  危なかった、ブックオフで買ったのは続編だった。続編から読むところだった。必ず、続編から読むことはせず、はじめの氷点から読みましょう。

     さて、私がはじめて著者の本を読んだのは、道ありきだった。それらも含めた著者の自伝3部作の中に、この氷点を書いたきっかけなどが書かれている。本書には、かなりの部分、著者が経験したことなどが散りばめられており、読んでいて、あー、あのころ著者が感じていたことか~、とか思いながら読んでいた。

     この本は、幼い子を殺された両親・兄が、殺人犯の子供を育てていく物語だ。子供を殺された父親・啓造は、犯人を一生憎んで暮らすか、汝の敵を愛せよという言葉を生涯の課題として取り組んで生きていくか、という課題に立ち向かう。憎んで生きるのは惨めだから、その子を愛していきたい、と啓造は思うのであるが、家族関係などが交錯し、なかなかそれが実践できない。

     10円落としたら、本当に10円を無くしたから、損に思うわけだ。その上、損した、損したと思ったら、なお損な事だ。100円落としたら、100円分楽しくするのだ。200円落とさずによかったと思ってもいい。あの100円を拾った人は、もう死ぬほどお腹がすいていて、あの100円のおかげで命が助かったでもいい。100円落とした上に、損したといつまでもくよくよしていたら大損だ。

     人のことなら、返事の無いことでも腹が立つくせに、なぜ自分のことなら許せるのだろう。人間と言うものは何と自己中心的なのだろう。これが罪の元ではないか。たとえ殺人犯の娘でないにしても、父方の親、又その親、母方の親、その又親、と手繰っていけば、悪いことをした人が一人は二人は必ずいるだろう。人間は存在していると、お互いに思いがけないほど深く、かかわりあい、傷つけあっている。

     この本は、著者は懸賞金を得るために応募した作品だが、その募集時の出版社から与えられたお題目は、原罪、だったという。人が生まれながらにして持っている罪か。生まれることは罪であり、それは決して償うことは出来ない。自分よりも素晴らしい人、いや、素晴らしい存在に許してもらうしかない。それが神であり、キリストなのだろう。

     本書では、様々な誤解が誤解を生みながら話が進んでいくが、誤解、というのが結局は、自己中心的な物の考え方から生まれることであり、それが罪なのではないか、と考えさせられた。

     多くの登場人物が出てくるが、この誰かを責めたり、悪く言ったり、非難したり(全部同じ様な意味か。。)するのは簡単だと思う。だが、陽子も含め、全ての登場人物に罪があるのだと思う。陽子の存在が、陽子自身に罪は無いとは言え、やはり、父親、母親にとっては、憎らしく思うことも、またありうるのだと思う。それを言葉に表さないにしても、やはり、心のどこかでは、あの子の父親が自分の娘を殺した、と思ってしまうのではないか。この本を読んでいる自分も、他人事のように、誰かを心で批判し、陽子がかわいそうだ、と善人ズラをしている。それもまた、罪なのだろう。

     まだまだ、著者の本を読んでいこう。

     全2巻。続編へ続く。陽子が死なないでよかった。

  • この話は、いろいろな登場人物の視点から描かれた物語であるため、人間の心の中に潜む妬みや恨みが露わになった一冊だと感じた。
    また、陽子と継母の夏枝の気性は対照的に描かれているとも思った。根が明るく周りまで照らすような雰囲気をもつ陽子に対して、夏枝は自らの美しさに陶酔しているふしがあり、啓造の行動にいちいち怒ったり嫉妬したりする。二人共美人だということにおいては共通しているが。
    私は陽子の兄・徹の心理描写が好きだ。陽子が実の妹ではないとは知りながら恋愛対象としては受け止めきれず、友人の北原を紹介して文通等で二人が親しくなっているということを感じ、陽子への思いが抑えらえなくなるというくだりの徹の心理描写は徹の葛藤が実に巧みに描かれていて、著者のデビュー作だとは思えないほどだった。

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著者プロフィール

1922年4月、北海道旭川市生まれ。1959年、三浦光世と結婚。1964年、朝日新聞の1000万円懸賞小説に『氷点』で入選し作家活動に入る。その後も『塩狩峠』『道ありき』『泥流地帯』『母』『銃口』など数多くの小説、エッセイ等を発表した。1998年、旭川市に三浦綾子記念文学館が開館。1999年10月、逝去。

「2023年 『横書き・総ルビ 氷点(下)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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