- Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041003404
感想・レビュー・書評
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たいへん面白かった。主な登場人物全員の心理描写があり、どの人物にも感情移入できました。
妻への復讐のために娘を殺した犯人の娘を養子にとるが、どう考えても復讐になっておらず、特大ブーメランとなって辻口自身が苦しむことになる。
個人的には啓造にシンパシーを感じて読み進みました。
陽子の出自を知った夏枝は、これまで目に入れても痛くないというほど可愛がってきた陽子への愛情を失い、疎ましく思うようになり嫌がらせをするが、子供ながらよく出来た陽子は人を悪くいうことがない。そのことがよりいっそう夏枝を刺激し嫌がらせが執拗になっていく。
特に思春期を迎えた陽子の初恋を邪魔する夏枝の底憎らしさは圧巻で読み応えがありました。読者の多くは陽子がんばれで終盤を迎えると思います。
この救いのない物語はドッキリカメラもびっくするような結末に至りますが、とにかく面白かったです。
後で知りましたが、この話はキリスト教で言うところの原罪(生まれながらに背負った罪)がテーマなんだそうです。陽子=原罪という解釈でしょうかね。いつしか父・啓造は陽子を愛おしく思うようになり、兄・徹に至っては陽子に惚れてしまう始末。美人というのは罪深いもんです。
作者の三浦綾子氏は旭川出身で、この小説も旭川が舞台。情景描写がリアルなのはそれ故かと合点がいきました。いつか旭川に行く機会があれば三浦綾子記念文学館にも行ってみたい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
かなりハマりました!
人間の心理を本当に上手に表現されている作品だなと思いました! -
辻口病院長夫人の夏枝が医師村井と逢引している時、3歳の娘ルリ子は母がそとで遊びにいってらっしゃいと言われ外へ行き、誘拐され殺害されてしまうところから始まる。小学生の頃、ドラマで見たことがあったがほとんどストーリーは覚えていなかった。病院長の辻口啓造は浮気をしていた妻の夏枝が許せず、そのために死んだルリ子が不憫で、ルリ子を殺した犯人の娘を養女として引き取る。娘を殺した犯人の子を知らずに育てていた夏枝の驚きと哀しみ。陽子を妹だと思い愛情を注ぐ長男の辻口徹など、登場人物の感情が生き生きと描かれ、人間の持つ良心とか悪意が、自分も同じ立場ならと考えさられます。この作品は朝日新聞に1964年に連載された作品ということだが、60年近く前の作品とは思えない。下巻が楽しみです。
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「汝敵の敵を愛すべし」を屈折した愛と憎悪で実践しようとする啓造の原罪が描かれていく。本作は、筆者の「一千万円懸賞」受賞作。三浦商店の店主をしていた筆者は夜中執筆し、役所勤めの夫に読んでもらったそう。懸賞の一千万円は、教会など療養中にお世話になった人で今困っている人や家族へ贈ったとのこと。本作のみならず、本作を生み出した筆者の人生や生き方からも愛とは何かを考えさせられる。子供がいないという筆者にとって本作は子供のような存在だとか。啓造がどう変化するか、真実を知った夏枝はとうなるのか下巻が気になって眠れない。
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前から読んでみたいと思っていたのでやっと読んだ。
もっと早く読めばよかったと思ったくらいおもしろくてのめりこんだ。
自分の娘を殺した犯人の子供を育てる話、というのは聞いていたのだが、その犯人の子どもを引き取るまでの啓造の嫉妬深さとか、夏枝の浮気心とか、そこで既にあらすじほど単純な話でもないと感じた。
そこからの登場人物の心の動きがリアルでストーリーも目を離せない感じ。すごくすごい(←語彙力) -
上下感想。
周りからどんなに人格者だと言われても、人間が様々な感情を持ち得ることは、昔も今も同じこと。特に怒りや嫉妬、憎しみ等を飼い慣らすのは難しい。
本作を、自分とは無関係の物語として興味本位で読み進め、啓造や夏枝に幾度となく憤慨したけれど、実は誰もが、彼彼女等の感情と決して無関係じゃないんじゃないか?
明るい部分も暗い部分も含め、己を知り、自分の中で折り合いを付け、許し許されて、人は生きていかなくてはならない。
本作に説教臭さはない。
ただ純粋に人間の未熟ゆえの罪に向き合い、その葛藤を、細やかな感情の機微とともに描き出した名作だと思う。
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大学生の頃に読んで衝撃的だった作品。あれから10年以上は経ちますが、タイトルを見ただけで胸が軋むほどの鮮烈さで読み返すにも勇気がいるような…でもまた読み返したいような、、胸にズッシリと来るけど、「生きる」について強烈に考えさせられました。あの頃の悩んでいた私にとって支えにもなった忘れ難い一冊です。