八月の六日間

著者 :
制作 : 大武 尚貴 
  • KADOKAWA/角川書店
3.66
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本棚登録 : 1752
感想 : 280
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  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041015544

感想・レビュー・書評

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  • 7月21日
    予約をして二ヶ月待った。まだその時はこの公共施設は購入に至っていなかったので、早々に手配して配給は二番目のチケットを手に入れていたにもかかわらず、ここまで待つことになったのである。図書館のお姉さんが「これですね」と持ってきてくれた。そうそう、これこれ。ネットではみていたけど、実物の表紙の艶々した手触りに、女性のような細やかさを感じた。

    実は私は一つのミッションを抱えていた。以下の新刊本の紹介を読んで「!!あの本の続編が始まった」と思ったのである。

     40歳目前、文芸雑誌の副編集長をしている“わたし”。
     元来負けず嫌いで、若い頃は曲がったことには否、とかみついた性格だ。
     だがもちろん肩書がついてからはそうもいかず、上司と部下の調整役で
     心を擦り減らすことも多い。
     一緒に住んでいた男とは、……3年前に別れた。
     忙しいとは《心》が《亡びる》と書くのだ。
    そんな人生の不調が重なったときに山歩きの魅力に出逢った。
     山は、わたしの心を開いてくれる。四季折々の山の美しさ、恐ろしさ、様々な人との一期一会。
     いくつもの偶然の巡り会いを経て、心は次第にほどけていく。
     だが少しずつ、しかし確実に自分を取り巻く環境が変化していくなかで、わたしはある思いもよらない報せを耳にして……。 (以上引用終わり)

    私はこの「わたし」という一人称の主人公に読み覚えがある。北村薫のデビュー作「空飛ぶ馬」から始まる《円紫さんと私》シリーズの日常の謎を解く傑作の数々。その第五作「朝霧」において、「わたし」は編集者に成って終わった。あれから十数年しか経ってないから40歳目前というのは勘定が合わないけれど、「空飛ぶ馬」の大学一年生が89年刊行だったことを考えると、勘定が合う。《円紫さんと私》シリーズがまた始まるのか!と考えたのであった。処が、本の書評やAmazonの書評を読んでもその気配がない。ただ、北村さんのことだから、何処かに謎が隠されているかもしれない。私はその謎に挑むことにしたのである。

    しかし、35頁目で「高校時代、演劇部にいたことまでしゃべってしまった」と読んで、早々に「…違うかも」と思ってしまった。《円紫さんと私》シリーズで彼女は高校時代演劇部には在籍していなかったのである!(後で確かめると、高校3年間生徒会の役員をしていた)

    7月22日
    「わたし」は35歳で男と別れ、38歳で槍ヶ岳に登り、39歳で小学校からの親友と死に別れている。で、その年はどうやら大震災のあった年になっているようだ。「わたし」にとって、原田という男と名もなき親友との別れは、とてつもなく大きなことのように思えた。事件になるほどは大袈裟ではないけれど、日常に潜む深い傷を、北村さんはどのようにして癒すことが出来るのか。

    7月23日
    やっとまとまった読書する時間がもてる。まだ三章分が残っているけど、最後まで行きつける。登山も読書も何処かに「これがヤマだった」という箇所がある。そこを過ぎると、どんなに傾斜がキツくても勢いがつくのである。

    「わたし」は山の上や仕事の中で、いい出会いを重ねながら、次第次第と自分を取り戻してゆく。
    もしかしたら、あの《円紫さんと私》シリーズの「わたし」は、この主人公が落ち込んでいる時に絶妙なタイミングで助け舟を出す同じ編集者の「藤原ちゃん」なのではないか、などと想像してみる。だとすると歳もあっている!いやいや、ちょっとあり得ない。名前を明かしてしまうのもルール違反だし、結婚もして子どもも出来て、あまりにも完結し過ぎる。

    登山初心者には、とてつもなく魅力的な山女小説なのかもしれないが、私はこれで登山に目覚めることはないだろうと思う。けれども「既視感有りあり」だったことを告白せざるにはおられない。

    私はかつて当ての無い20日以上の外国旅行(韓国)をしたことが二回ある。一週間ほどは10数回。其処でとんでもないトラブルで参ったこともあるが、素晴らしい出会いと景色や経験に、やはり止められなくなるのである。

    「八月の六日間」を読む三日間が終わり、私はまた日常に戻った。
    2014年7月23日読了

  • ブクログで評判になっていたので、読んでみた。出版社に勤める女編集長が、日常のいろんなことを抱えながら、山に登り、そこで出会った人々や景色が綴られる。同年代、山が好き、そして、旅のお供の文庫選び。共感できる部分がたくさんあって、楽しく読めたんだけど、山がほぼほぼ中央アルプスだったのが、残念(雪の裏磐梯はあったけど)ぜひ、続編として、他にもいろんな山のエピソードを読んでみたい。

  • あることをきっかけに山にハマった女性の登山の様子を描いた連作短編集。槍ヶ岳などかなり本格的な登山に1人で挑みます。

  • 距離を絶妙に計りながら…社会や組織の中で働き、恋愛をし、交友を保つ都会での日常。閉じ込めるモノは多いながらも、私として、個として、一人としてのON・OFFの切り替えは、山歩きあり、書籍ありの"命の洗濯"感…満載。終章のくるめ方がまた良いなぁ♪。澄んだ素の息づかいと時の刻みが心地好く、読む側にもフゥーッと元気を与えてくれる山女通信!?。

  •  山ガールという言葉を聞くようになったのはいつごろだろう。北村薫さんの3年ぶりの小説作品は、帯によれば“働く山女子”小説だという。

     出版社で多忙な日々を送る主人公は、同僚に誘われたのをきっかけに登山に目覚める。仕事が一段落し、長い休みが取れると、計画を練って山に向かう。各編扉にルートのイラストが載っているが、巻末によれば本格的なルートであるという。

     軽装で実力に見合わない難しい山を目指し、遭難する登山者が後を絶たないが、彼女は実力に見合った山で3年間経験を積んでから、これらのルートに挑んでいる。それでも何度もひやっとするのだから、ずぶの初心者ならどうなるか、推して知るべし。

     ひたすら山の描写が続くのかと思ったら、半分くらいは彼女の仕事やプライベートの話であり、山の描写はそっけない。それもそのはず、彼女は写真をほとんど撮らない。記録を残すことより、山に身を委ねる今この瞬間を大事にしているようだ。

     小説というよりは日記に近いかもしれない。その日の出来事を時系列順に、ありのままに綴る。正直、山の素晴らしさが伝わってきたとは言えない。だが逆に、変に脚色されていない分、想像の余地があるとも言えるのではないか。

     単独登山を好む彼女だが、山には出会いがあるし、人との交流を何が何でも避けているわけではない。プライベートの独白から察するに、むしろ人恋しいように察せられる。本作中最も印象的なシーンは、実は山ではないとだけ書いておく。

     気軽な気持ちで登りに行くことがないよう、くれぐれもご注意ください─と、巻末で読者に釘を刺しているが、できれば経験を積み、その目で確かめてほしいというメッセージとも受け取れる。背伸びをせず、自分のペースを守ること。人生においても然り。

     彼女は今日も忙しく働きつつ、次の計画を練っているのだろう。

  • 図書館で表紙が見えるように置かれていた本。なんとなく気になり借りてきた、ジャケ買いならぬジャケ借り。

    驚くほど良かった。
    編集の仕事をする女性が、仕事の傍ら登山をする話。登りながら、仕事や人間関係や亡くした友人のことを考えたり、下界に戻って仕事に勤しんだり、山だけじゃなく、日常ときちんと繋がっているところがすごく良かった。

    仕事についたばかりの頃の上司とのシーンが良かった。別れた人とのことが引っかかり続けていた主人公に、「自分がいつ死んでたら、この子は幸せだったんだろうって思うよ。でも、生きるしかない。どんな行き違いかあったって、その子のことを思うしかない。」という言葉。ずっしりと私の心に残った。
    家族との問題ほど辛いものはないと私は思う。
    この人は、迷い悩み苦しんだすえ、ここまで到達したんだろうなぁ。母親だなぁ。

    この本との出会いに感謝

  • 読んだだけで山登りに実際に行ってきた気分になれる。主人公は編集社に務めるアラフォー女性、あまりにもその設定や山登りの過程がリアルだから、作者もおんなじような方なんだろうと思ったらまさかの男性、しかも七十歳の大御所作家さん。
    私は人生で一度も山登りをしたことがない、山より海派、なぜわざわざ苦労して山なぞ登る、というような人間で、それに反して長期の休みが取れれば嬉々として山に行くほど山登り大好きな父のことを怪訝な目で見つめることもしばしば。
    ですが、この本を読んで父を含め、山登りが大好きな方々の思いが少しわかるような気がしました。
    まだまだ若いし、いつかは友達とか誘って高尾山から山登り、挑戦してみようかなあ。
    それにしても、作中の中に何度か出てくる槍ヶ岳、読んだだけでも壮観な景色が想像できる。
    いつかは行ってみたいかも、、

  • 主人公はアラフォー編集者で本が好きという設定。それは、自立した独り身の、責任のとれる大人の女性。親友の死や大好きな彼との別れ、心をすり減らす仕事など『人生の不調が重なったとき』山歩きと出逢った。単独行動で出かける山の様子は、自分が主人公になって、山を歩いているような気分になれる。

  • この作家の本は2冊目。 面白いなぁ。表現とかがひねくれてないけど、ストレートでもないけど納得できる。 爽やか~。 源氏と平家の件が良かったな

  • 山に行きたくなる作品でした。


    ーーー

    ・正義が勝つとは限らないーーなんて、小学生だって知っている。勝つのは、多くの場合、力の強い奴や声の大きい奴、頭のいいやつや可愛い奴だ。

    ・喜びは、片方にあるのではない。その間にある。

    ・夢には色はないという。

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著者プロフィール

1949年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。大学時代はミステリ・クラブに所属。母校埼玉県立春日部高校で国語を教えるかたわら、89年、「覆面作家」として『空飛ぶ馬』でデビュー。91年『夜の蝉』で日本推理作家協会賞を受賞。著作に『ニッポン硬貨の謎』(本格ミステリ大賞評論・研究部門受賞)『鷺と雪』(直木三十五賞受賞)などがある。読書家として知られ、評論やエッセイ、アンソロジーなど幅広い分野で活躍を続けている。2016年日本ミステリー文学大賞受賞。

「2021年 『盤上の敵 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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