ラスト・ワルツ (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA/角川書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041040232

感想・レビュー・書評

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  •  ワルキューレとアジア・エクスプレスの二つの物語はメディアの本質を語ってくれる。まず前者では、ナチスドイツが実際に用いたプロパガンダを取り上げている。具体的な手法を知りたい人は『わが闘争』(角川文庫)や『ヒトラー演説』(中公新書)などを読むといいが、この話を読むと、人は無意識のうちに報道側の思想に染まること、人が音楽と映像によって理性を失ってしまう恐ろしさがわかる。
     後者の話に関して、本編のp296とp299で情報の扱いに対する苦労が描写されている。この話で鍵となる伝書鳩は、諜報活動が盛んであった当時、欧州において意外な活躍をしたとある。電信通信による傍受を防ぐために、あえて古典的なやり方で情報を伝えるのである。しかし、日本軍はこのような情勢を見ずに伝書鳩を過去の遺物と見なして切り捨てた。このように、たとえスパイたちが命がけで情報を収集したとしても、その情報を利用する者が有効に活用できなければ徒労に帰すのだ。

  • D機関にしてはなんだかちょっと優しかったり、詰めが甘かったりして、違和感があった。

    それはそういうことでしたか!

    いや〜裏切りませんな!
    いや裏切るんですけどね。

  • だいぶ前に読了。
    以下、メモ。

    華族に生まれ陸軍中将の妻となった顕子は、退屈な生活に惓んでいた。アメリカ大使館主催の舞踏会で、ある人物を捜す顕子の前に現れたのは―(「舞踏会の夜」)。ドイツの映画撮影所、仮面舞踏会、疾走する特急車内。帝国陸軍内に極秘裏に設立された異能のスパイ組織“D機関”が世界で繰り広げる諜報戦。ロンドンでの密室殺人を舞台にした特別書き下ろし「パンドラ」収録。スパイ・ミステリの金字塔「ジョーカー・ゲーム」シリーズ!

  • シリーズで1番小粒な印象。
    世界観は面白いが、お話がややスリリングではない。
    あくまでも過去作品と比べてたが。

    期待値が高かっただけに残念。

  • スパイって大変ね

  • 『ジョーカー・ゲーム』の第四弾。
    最後まで面白かった。

  • 『ジョーカー・ゲーム』シリーズ三作目。
    いつもながら、誰にも知られることなく(承認欲求などというものを持つこともなく)己の才能とプライドのみを頼りに難しい任務を淡々とこなすD機関の活躍と、その鮮やかなどんでん返しがおもしろかった。

    「ワルキューレ」
    ドイツで活躍する日本人俳優兼映画監督の逸見に、日本からのスパイ雪村は内装技師として近づく。目立たないようにというスパイの鉄則を守りながら任務をこなす雪村だったが、日本大使館大使室の隠し部屋にユダヤ人映画監督が隠れていることに気づく。雪村は、二つの案件をまとめて解決するために映画ばりの爆発スタントを繰り広げ、自分は死んだことにした。
    こんな派手なことをD機関がするのかな? と思ったら最後にもう一回どんでん返し。雪村は海軍のスパイで、彼に情報を渡したり死体を手配していたのがD機関(前作『柩』に出てくるスパイ)だったとわかり、おー! となった。
    そして最後に二人のスパイが交わす言葉。雪村は、ナチスの宣伝政策は早晩破綻すると見抜いていて、ハリウッドで作られる反ナチスプロパガンダは世界の人々を魅了する、と考えている。そして伊号潜水艦で帰国する任務の途中で自分は命を落とす、日本はもはや手の施しようがないところまで来ている、と感じている。
    スパイたちの鮮やかな活躍と、それに値しない日本の状況の対比がつらい。

    「舞踏会の夜」
    これはシリーズを読んでいる読者なら、「この人が!」とラストで驚く一作だろう。私も「この方が御自ら!!」とびっくりした。
    奔放な侯爵令嬢千代子は、若い頃に謎めいた軍人に助けられ、いつかワルツを踊ってと約束する。彼はどうやらD機関の人間らしい。
    時が過ぎ、彼女は陸軍中将と結婚していた。恐らく最後の舞踏会になると思われる日、彼女はある男を待っていた。
    諦めていたとき、ワルツが流れる。そして「踊って頂けますか」という誘い。仮面で顔を隠しているが、あのときの男だ。ワルツを踊る夢のようなひとときが終わると、彼は言う。「二度とこのようなことはなさいませぬよう」
    令嬢が待っていたのはあのときの男ではなく、夫から盗み出した陸軍の情報を渡す相手。そしてあのときの男は、ペンダントにカクしていたマイクロフィルムを抜きとっていったのだ。男の手は、手袋の上からでもわかるくらいひんやりとして、作り物の手のようだった……。
    いつもながら、D機関にとっては合理的な行動であっても、相手や読者にはちょっとした情というか粋のようなものが見える瞬間があって、心をグッと掴まれる。

    他、ロンドンでの密室殺人「パンドラ」、高速鉄道という密室でのスパイ対決「アジア・エクスプレス」(子どもに協力してもらうところと、鳩がよかった)。

  • 今回もまた様々な視点で書かれていて、粒揃いな感じで面白かったです。
    私は多分「ストーリーの裏で暗躍しているD機関のスパイ」ではなく「思わぬピンチを招きながらもなんとか切り抜けて任務を成功させるD機関のスパイ」が見たいんだなぁと、ここまで読み終えて思いました。

    続きは出るのかこれで最後なのかはわかりませんが、この先D機関の面々はどうなっていくのかは気になるので(もう5年以上音沙汰ないようなので期待薄ですが)待ち続けたいです。

  • D機関シリーズ最終作。
    シリーズ通して言えることですが、
    これを読んでしまったら他のスパイ小説が
    読めないんじゃないかと思うほどの完璧さ…。
    これまでの3作と比べると、
    派手さはないけどひたすらD機関のスパイ達を
    陰に徹した役割で描かれてる。
    アジア・エクスプレスはアニメ化作でもあり、
    やっぱり映像にすると見栄えがあるんだよなぁ。
    『ジョーカー・ゲーム』から始まり、
    最後まで結城中佐の魔王の貫禄には驚かされました…
    最高ー!!
    D機関シリーズが、こういうシリーズもので一番好きです。

  • 多くの人間が営みを続ける中、ある一瞬まるで都市伝説のように遭遇する影。
    曖昧にして強烈な印象だけを残して消えるD機関のスパイ。
    今回の短編たちは人の関心を集める死の傍での綱渡りが描かれてた。
    それを一番象徴するロンドンでの密室殺人。
    巧みなプロット...。惚れ惚れ。

    クールで知的なのに絶妙にとっつきやすいこの文章を読んでるだけでめちゃめちゃ気持ちいいのでアタリとかハズレとかあんまりない。
    4作読んだけどどれが一番好きだったかなあ。またぜんぶ並べて1人あーだこーだやるのも楽しそう。

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著者プロフィール

一九六七年生まれ。二〇〇一年『贋作『坊っちゃん』殺人事件』で第十二回朝日新人文学賞受賞。〇八年に刊行した『ジョーカー・ゲーム』で吉川英治文学新人賞と日本推理作家協会賞をダブル受賞。他の著書に『象は忘れない』『風神雷神』『二度読んだ本を三度読む』『太平洋食堂』『アンブレイカブル』などがある。

「2022年 『はじまりの島』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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