- Amazon.co.jp ・本 (751ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041102749
感想・レビュー・書評
-
冲方丁による、徳川光圀の生涯を描いた大河小説。「天地明察」に続いて2本目の時代小説です。
戦国の世が終わりをつげ、武断から文治へと時代が移る中、生来暴れん坊であった光圀も成長するにつれて詩歌と学問に情熱を向けるようになり、「詩で天下を取る」という大志を抱くようになります。加えてその学識を見込んだ伯父の義直から「大日本史の編纂」という一大事業を受け継ぎ、生涯に渡ってこの事業に取り組んでいくことになります。
自分は正統の世継ぎではないというコンプレックスを抱えた光圀のキャラクター描写が非常に特徴的です。「自己の存在意義」は冲方氏が頻繁に描くテーマでありますがこの光圀伝でも顕著にあらわれています。その鬱屈した心情を「膂力で書を征服する」と形容されるほどに学問にぶつける様は非常に迫力があり、圧巻。
また、当時としては非常な長寿を全うした光圀は、そのために多くのかけがえのない人を看取ることになります。時に無慈悲に訪れる今生の別れは、泰平の世とはいえ、現代よりも死が身近にあった江戸の世の死生観を伝えるようです。
何故、人は生きるのか、生きた証として何を遺すのか。かけがえのない人との幾多の死別を通じて、人から人へ受け継がれて行く歴史の重みをひしひしと感じ、深く感動しました。700ページを超える長編ですが、息をつかず一気に読み終えてしまいました。
もしこのレビューを読んで興味を持っていただいた方がいたら一つアドバイスを。史実に沿った出来事がこの物語の中でも重要な伏線になっているため、予備知識が無いほうが楽しめます。
間違っても読了前にウィキペディアを参照したりしてはいけません!
詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
時代物に疎くても背景が分かり易かった。幼少から没前に至るまで悩み、向上し、人間を育て、支えられる光圀という人の歴史がわかった。
周りで親しい人が先に死んでいくのは辛かっただろうな。義のため愛する人を切るのは辛かっただろうな。やりたい事がまだ沢山あるのに時間が残っていないことを悟るのは辛かっただろうな。
天地明察も大好きなので、安井算哲がちゃんと出てきてくれたのが嬉しかった。算哲の周りも光圀の周りも志で人が繋がっていた。
冲方さんが光圀を書きたいと言っていて、こんな素敵な物語を書いてくれた事になんだか感謝してしまった。
13'6.10 -
徳川光圀と言う人を堪能した。
幼き日から、藩主となり、そして退くまでの光圀の喜び悲しみ、そして野望、葛藤が生き生きと描かれていた。
また光圀の傍に纏わる人達も、光圀の人生に重要な役割を果たしていた。
そんな様子を丁寧にじっくりと味わった。
詩歌、史書などと、光圀の学問に対する探求心も深く伝わってきた。
史書に拘った人が、後の水戸藩の運命を知ったらさぞかし面白かったろうと思った。
“連綿と続く、我々一人一人の、人生である” 最後の一節が全てであると思う。 -
今まで読んだ本の中でベスト10に入るほど面白かった!
テレビで知られる水戸黄門のイメージとはガラリと違う、熱く血潮たぎる男、水戸光圀のお話。そしてその男に魅了される人々、魅了されすぎた人。
悪人と言われている紋太夫が誰よりも光圀に惹かれていて、惹かれすぎて色々狂っていく所、泰姫の懐の深さ、朱舜水の祖国を思う心、一つ一つの描写がとても切なく随所で泣かされました。-
「ベスト10に入るほど面白かった!」
そうなんだ、、、気にはなるけど、文庫化待ちで読んでません。早く文庫にまらないかなぁ、、、「ベスト10に入るほど面白かった!」
そうなんだ、、、気にはなるけど、文庫化待ちで読んでません。早く文庫にまらないかなぁ、、、2013/03/14
-
-
ひたむきな姿勢を貫く人間には心揺さぶられる。そしてそんな人間を描くのが、この作者はうまいなと思った。前半は、悩みもがきながら己が義を探す若さ溢れる勢いが魅力的。後半は、やっと見出した義をつかむ一方で、次々に向き合わねばならなくなった幾多の死と、追い求める側から追い求められる側へシフトする中で生じた、「ずれ」とも呼べる思考の飛躍がもたらした悲哀に引き込まれた。出会ってもすぐにすれ違う関係もあるというのに、愛し合い、時に暗い感情を芽生えさせる縁はどこまでも濃く、その業の深さにため息が出る。
外面的には光圀は完全無欠に近いヒーロー型だが、その人間性は非常に味があり、また周りの人物も愛しく感じられる者ばかりなので、読んでいてとても心地よかった。久しぶりに『天地明察』を読み返したくなった。 -
こ、これが「天下の副将軍水戸光圀公」の一代記か。
ひたすらに「義」の何たるかを求め、それを貫いた、乱世から泰平への繋ぎとなった時代の稀代の大名の一代記だ。
一代記であるが故もあって、見送る人々が多いのが悲しい。
終章にも記されれいるが、幕末にあって会津と水戸が辿った道がすべて得心のいくような物語であった。 -
光圀伝読了。歴史を紡ぐ物語、という話になると思いきや、徹頭徹尾水戸光圀という、一人の人生を描いた物語だった。異形ではあるが、その人生を通してみることで、異形の人は「義」の一字を貫こうとして生きてきたことが伝わる。
「天地明察」は歴をなす、という一つの目的を持った人間として晴海が描かれた。一方の「光圀伝」は,水戸光圀がどのような目的を持ったか、というレベルではなく、まさに彼の生を描いた作品。だからこその750ページだし、読み終えても分かりやすい答えはない。ただただ、冲方がみた光圀が描かれるだけ。
史実に基づく分、奔放さで言えばやはり、過去の冲方作品には及ばない。がしかし、光圀とその父親、強烈な個性を持ち苛烈さを持つ男を描くからこそ、歴史小説でありながら冲方丁という作家の個性が生きたのだろうなぁ。
そして、親友たる読耕斉や山鹿、最後まで「兄貴」であった頼重などが、本当に気持ちの良い人間たちで。それが鼻につくところもあったのに、読めば読むほど彼らの存在が大きくて。後半の藩主としての光圀の姿を見ていると、余計にそう思ってしまう。
作品として素晴らしいのが、少年であった光圀が、藩主になるまでの間、読んでいて自然に歳を重ねているのだ。傾奇者として江戸を渡り歩く時期の話が好きなのだが、自然と落ち着きを持つようになっている。それ以降の月日の流れが早いのは仕方ないが、未熟ながらもまっすぐ歳を重ねていく光圀の姿がいい。
とにもかくにも、冲方丁の歴史小説デビュー作は「天地明察」ではなく「光圀伝」だ!と、声を大にして言いたい。これが冲方丁ならではの時代小説なのだと思う。
…実は、光圀伝を読んでいて思い出したのが桜庭一樹の「荒野」。これも、主人公の歳のとり方がすごく自然に感じられた作品だったし、何か終着点がある話でもなかった。どちらも、丁寧に主人公の人生を追った作品。 -
水戸黄門こと徳川光圀の一生を描いた物語。
TVで放送される黄門様像が創られたものだとは知っていたが、こうも違ったのかと驚かされる。
豪快で強く、詩歌を愛し、義を貴ぶ。
そんな新たな光圀像を見つけることができた。
長くを生きた光圀は多くの出会い、別れと共に学び、成長していく。
光圀のキャラクターはもちろん魅力的なのだが、光圀を支える妻、友人もまた魅力的な人物達で、物語を彩ってくれる。
光圀の取り組んだ「大日本史」編纂の大事業。その重さ、歴史を知ることは今を生きることに繋がっている。
多くを学んだ老齢の光圀が語る「明総浄机」と、進行している成長の過程が交錯していく展開が面白い。
再読すればまた新しい発見があるのだろう。
冒頭の紋太夫の謎も、最後には成程と思わせ、途中「天地明察」と同じように難しく感じる部分もあったが、読んで良かったと心から思える一冊だった。 -
なんともすごい大作です。
水戸光圀の生涯が書かれたこの作品、まさに大河小説と呼ぶにふさわしいと思います。なんという読み応え、読む醍醐味が十分に堪能できて満足の一冊です。1週間かけて読了しました。
幼少期から引き込まれます。兄への複雑な思いが切ないし、父への畏れもリアルでした。
青年期も良かったなぁ。
光圀の破天荒ぶり、もやもやする心のうちはとても興味深かったし、江戸の街で若く滾るパワーや人との出会いが格別に面白かったです。
がむしゃらな学問への探究もよし、光圀の人物像にはとても惹き付けられました。
知識人たちとの語らう知の世界には心が震えました。
自分が学問をするわけではないのに(^ ^;)、宇宙を臨むような広がり感じられました。感動!
壮年期がまたじっくり楽しませてくれました。
光圀が歴史に残る人物となっていく生き様が、濃く深く描かれていて力強く圧巻でした。
周囲を取り巻く大きな渦のような政治の世界と人物たちを通し、光圀が成長していくなかで、不思議となにか自分にも教えられることがあるように感じました。人から何かを学んでいく光圀の明晰さ、柔軟さ、心の強さがいい。一方、伴侶を得ての光圀の真っ直ぐさも楽しく読みました。
そして未曾有の火災、多くの死別を経験した光圀の、晩年の思いは胸に迫るものがありました。若い頃には思い至らなかったことにふと気づいたり、ある時は自分の父は昔どんな思いでいたのかと考えたり、懐かしさを感じたり、若き立場には帰れない自分を思う。
涙が出そうになった場面が何度もあった。
光圀が人の世は…。と感じたように自分も人の生きることの移ろいを感じずにはいられませんでした。
大河のような光圀の人生がずっしり迫り、なんとも重厚な小説でした。
見事に書ききった冲方丁さん、本当にすごいことだと思います。
PS. 電車では本が重くて腕がつらかったです。上下分かれていても良かったのでは? -
歴史小説が苦手なので、正直挫折しそうになる。
でも、天地明察の面白さを思い出し、とにかく読み進める。
しんどかったのは最初の方だけで、
後半に進むにつれて、どんどんと惹きこまれる。
読後は最後まで読んで本当に良かったと思える。
『水戸黄門』というテレビドラマからくるイメージ。
老人、聖人君子、旅。
本作品を読むと、そのイメージが変わる。
父親に対する思い、水戸家の世子という立場の葛藤、
さまざまな苦しさから逃げて、やんちゃをした青年が、
自分の夢や目標を見つけ、素晴らしい人との出会いがあり、成長していく。
人との出会いがあれば、その分だけ人との別れがある。
現代との違いは、その別れの形がほぼ確実に死であること。
長生きであった光圀が、詩と言葉をもって大切な人々の死に向き合う姿に、涙が出た。
安井算哲との絡みもあり、天地明察を読み返したくなる。