父と私の桜尾通り商店街 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041118962

感想・レビュー・書評

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  • 何かやらかしそうな人がいっぱい出て来て不穏‥‥を通り越して薄気味悪い(褒め言葉)。

  • 今村夏子さんっぽい、優しい文章なのに何かゾワっとする短編集。巻末のインタビューにもある通り、一生懸命なのにズレている人達の物語は何だか痛々しくヒヤヒヤするが、何だか惹きつけられる。

    自分自身が一生懸命でも何か周りとはズレてる事が多かったからなよかな?それともこういうずれてる感覚は程度の差こそあれみんなに普遍的に存在する感覚なのだろうか。

    「白いセーター」ではちょっとしたズレが重なってどんどん大きくなっていく流れにハラハラして最後は物悲しい。「ルルちゃん」も登場人物が微妙に怖いし「ひょうたんの精」は不思議なファンタジー。「せとのママの誕生日」はこの短編集で一番の不気味な物語。愛なのか復讐をなのか曖昧な誕生日の祝い方が滑稽でもあり怖くもある。

    一番のお気に入りは表題作かな。やる気のなかった娘が変なタイミングでやる気を出していく様が一見健気ながら何とも自分勝手。最後はどうなったのか…

    全体的に今村夏子さんのテイストに溢れていてとても面白かった!「あひる」や「むらさきのスカートの女」で興味を持たれた方は是非。

  • 今村夏子を読むのは4冊目。
    単行本は2019年刊行。
    2022年の文庫化に際して「冬の夜」を追加。
    単行本のカバーイラストが美麗だが、文庫版も面白いな。
    本には初出が書かれていないので、wikipediaからコピペしておく。

    全部読み終えて共通しているなと感じたのは、時間の経過があるから短編にも係わらず厚みがあるな、と。
    また寓話的な話もあるので、なおさら時間経過を導入して、ありそうな話にしたのかな、と。
    以前の作品がどうだったか精緻に振り返りはしないけれど。

    ■白いセーター  文学ムック『たべるのがおそい』vol.3 2017年 ★
    冒頭数行読んで、あーどこかで読んだな、と思い出した。
    よく憶えていたなという意味ではなく、その後の展開をぼんやりとしか憶えていない自分への戒めとしてメモしておく。
    「たべるのがおそい」に収録されていたのを2017年に読んだのだった。
    ラストの境地に至るまでの細部がもう、辛くて辛くて。
    100円均一で買ったあれを見てくれただろうかという一文が利く。

    ■ルルちゃん  『文芸カドカワ』2017年12月号
    不用意に自分のことを喋ってしまうことって、ある。しかも普段になく、熱く。
    後に反省するのだが、その瞬間だけは、相手に全幅の信頼を置いていたような気がする。
    その無根拠な信頼を、後々思い出してゾッとしたりすることもある。
    そこまで計算していないのかもしれないが、登場する女性3人が鏡像関係のようになっていて、繰り返していくんだな、と。

    ■ひょうたんの精  『文芸カドカワ』2017年10月号
    これは不思議な話だ……。
    わたしがなるみ先輩について語るのに対して、後輩が( )内でツッコミを入れてくるのにもかかわらず、気にせず語るわたしの姿、がむしろ、どうにも怖いというか。

    ■せとのママの誕生日  『早稲田文学』増刊女性号
    寓話度が高い本作品中でも最も……まるでグリム童話にでもありそうな。
    しかし、マッシュルームとかカリフォルニアレーズンとか細部が笑えて、やがて恐し。
    これこれ、今村夏子はこれよ、とにんまりしてしまう。

    ■冬の夜  『文芸カドカワ』2017年8月号 ※文庫化の際に収録
    不穏度半端ない。

    ■モグラハウスの扉  単行本書き下ろし
    ズレた中年女性モノ、と思いきや、語り手自身もまたやはりどこかズレていて、「一緒に行きます」と言うが、さて彼女らの駆ける先の未来はどんなものか……。
    少し前に王谷晶「完璧じゃない、あたしたち」を読んだ。
    全っ然ベクトルが異なる作品なので並べて論じる人もいないだろうと思うが、本作、仄か~にシスターフッドものと言えなくもない、しかし今村夏子がシスターフッドを取り入れたらこんなに変になるという一例かもしれない。

    ■父と私の桜尾通り商店街  『文芸カドカワ』2016年9月号
    正直このタイトルを見て、あー今村夏子も山田太一路線に行ったのかと少し落胆したが、杞憂だった。
    本作は、寂しい、辛い、疎外感たっぷり、なのにユーモラスで、ユーモラスなのに危うい、まごうことなき今村作品だった。
    語り手の辛辣さがいちいち面白い。
    届けられない「さくらお通信」をごみ置き場で拾って読み込む姿勢が、本当は人が好き/本当は人が嫌い、で揺れているようで、それが劇的に奏功する終盤……大変技巧的だ。
    「私だけでも大丈夫ー?」と大きな声を上げた彼女は、そして商店街のあの人やこの人やは、いったいどうなったんだろう……闇「たまこマーケット」。

  • 一言で言うと、とてもシュールな短編集です。

    あとがきに、著者の今村さん自身、「一生懸命さが痛々しいというか、見ていられないです。でも、そこが魅力だと思います。」と書かれていますが、まさに、そのような人達のオンパレードです。一般的な常識からはズレていて、何かの拍子に、感情を爆発させる。人間の心の奥底に潜む、どうにもならない、やりきれない気持ちに、物悲しくなります。

    どの短編も、この後、主人公達がどうなるのかを、読み手に任せた終わり方になっているので、読み終わった後、自分なりに、想像をふくらませるのが、面白い本だなぁと思いました。

  • 今村夏子さんの作品を初めて読みます。
    不思議な世界観。私にとって『せとのママの誕生日』は一番難解でした。
    巻末のインタビューを読むと作品への理解は深まりますが…
    分かりやすい面白さはないけれど、他の作品ももう少し読んでみたいなというのが現時点の感想。

  • 「父と私の桜尾通り商店街」については、単行本を持っているので文庫化されたこの本を買おうか迷っていたのだが、単行本には収録されていない「冬の夜」という話が文庫本には収録してあったので迷わず購入。この一冊の中では、「ひょうたんの精」「父と私の桜尾通り商店街」が好き。今村夏子さんの小説は、いつも行動の読めない何かに手を引っ張られて今まで考えたこともなかった景色のある場所へ連れていかれるような気持ちになる。そして独特な雰囲気の物語、やっぱり、すごく好き。なぜだろう、いつも、どの話も、ものすごいスピードで読まされてしまう。今村夏子さんの新刊はなかなか出ないのでゆっくり読みたいのに、いつもあっという間に読んでしまう。だから何度も読んでいる。この読ませる力、本当にすごいなぁといつも思う。文庫化に伴って収録されたという「冬の夜」、この話を通して今村夏子さんは何を伝えたかったのだろうか…。どんな話だったのかを、一度読んだだけでは、理解出来ていないように思う。ただその雰囲気だけは、なんだか怖いような、何というのか…楽しいとか、面白いという雰囲気ではない、なにかものすごく怖い何かが隠れているような気がしてしまう、そんな感じがした。何度か読んでいったらまた変わってくるだろうか。また何度も読んで、そしていろんな方の感想を読んでみて、自分なりに噛み砕いていきたい物語だった。

  • 7つの短編集。出てくる人みんなあまり関わりたくない感じの人たちだった笑 個人的には今村さんの作品は読みやすいけどオチはなくいつも読み終えたあと気持ち悪い?不安な気持ちになる。でも読んでしまうし、この本どんな本だったっけ?ってならない気がする。

  • 行間から漂う「ぞわぞわ」という不穏さを巧みに操った、ある意味魔術のような作品集だったように思います。
    決定的な対立や事件が起こるわけでもなく、これといったわかりやすい結末で終わるわけでもないけど、だからこそ後を引く、スッキリとさせてくれない読後感がクセになってしまう。一種の中毒性みたいなものを感じます。

    表題作の「父と私の桜尾通り商店街」では、店をたたむはずだったパン屋の「私」が、最後にやってきたお客さんに執着して徐々に暴走していく様子が、ブラックながらもどこかチャーミングかつ、ユーモアもあるように描かれていて面白い。

    人とのつながりへの希求、承認欲求だとかで、私の行動は解説できるのかもしれないけど、そういう細かいところを、説明でなく、私の言葉や感情、行動で、ちょっとずつ狂っているところを見せていく手腕が素晴らしかったし、いい意味で気持ち悪くてよかった!

    そうしたブラックでシュールな面白さと、一種の狂気みたいなものは他の作品でも表現されています。
    たとえば「モグラハウスの扉」の工事現場の男性に執着する女性教諭も、読みようによってはホラーなんだけど、ギリギリでユーモアと不穏さの間をせめぎ合っている感覚、危うさみたいなものがいいなあと思います。

    他にも「ルルちゃん」の最後の最後で誰の何がおかしいのか分からなくなっていく感覚、「せとのママの誕生日」のどこまで彼女たちが本気で、どこからが冗談なのか、全く説明されないまま、奇妙な展開が延々と続いていくのも印象的。

    一方でリアルな描写も光ります。
    夫や義理の姉、その子どもたちに振り回される妻を描いた「白いセーター」
    二人の出産したてのお母さんの様子を細かく描写していく「冬の夜」
    二編ともどこかにありそうな風景や会話、トラブルをリアルに描きます。
    それでいてそれぞれ短編の結末に明確な結末がなく、その後の展開を想像させることでぞわぞわさせるのも一種の技のように思います。

    ぞわぞわというのは不穏さや不気味さのことになるんだろうけど、それを直接的に描写せず、徹底して登場人物たちのずれてる会話や思考、行動から描いているように感じました。

    そうしたずれが不穏でもあり、ずれているがゆえに一種の笑いやユーモアにもなる。だからこそなんとも言いがたい感覚の作品が、この短編集には集まっているのかと思いました。
    そしてそのようにずれを描く視線が、今村さんの作品の魅力の一つなのかと思いました。

  • 一体私は何の物語を読まされてるのでしょう笑笑
    何かズレてる人が多く、掴みどころのない不思議な短編集。それが魅力なのかな??

  • 大好きな今村夏子さん。読むのは本書で5作目だが、世間から見るとズレている人を描くのが抜群で、痛々しいほど純粋でピュアな姿に毎回胸が痛くなります。
    冒頭の短編『白いセーター』は一番リアルに起きそうな設定で怖く、一気に今村ワールドへと引き込まれた気がしました。
    文庫化で追加されたという『冬の夜』は終わり方としては一番前向きで明るく感じられてホッと一息つけました。
    最後の2編『モグラハウスの扉』と『父と私の桜尾通り商店街』は、登場人物たちの純粋さから来る暴走ぶりが滑稽で笑えるユーモアもあり、一番好きかもしれません。

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著者プロフィール

1980年広島県生まれ。2010年『あたらしい娘』で「太宰治賞」を受賞。『こちらあみ子』と改題し、同作と新作中短編「ピクニック」を収めた『こちらあみ子』で、11年に「三島由紀夫賞」受賞する。17年『あひる』で「河合隼雄物語賞」、『星の子』で「野間文芸新人賞」、19年『むらさきのスカートの女』で「芥川賞」を受賞する。

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