- Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041118962
感想・レビュー・書評
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何かやらかしそうな人がいっぱい出て来て不穏‥‥を通り越して薄気味悪い(褒め言葉)。
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今村夏子さんっぽい、優しい文章なのに何かゾワっとする短編集。巻末のインタビューにもある通り、一生懸命なのにズレている人達の物語は何だか痛々しくヒヤヒヤするが、何だか惹きつけられる。
自分自身が一生懸命でも何か周りとはズレてる事が多かったからなよかな?それともこういうずれてる感覚は程度の差こそあれみんなに普遍的に存在する感覚なのだろうか。
「白いセーター」ではちょっとしたズレが重なってどんどん大きくなっていく流れにハラハラして最後は物悲しい。「ルルちゃん」も登場人物が微妙に怖いし「ひょうたんの精」は不思議なファンタジー。「せとのママの誕生日」はこの短編集で一番の不気味な物語。愛なのか復讐をなのか曖昧な誕生日の祝い方が滑稽でもあり怖くもある。
一番のお気に入りは表題作かな。やる気のなかった娘が変なタイミングでやる気を出していく様が一見健気ながら何とも自分勝手。最後はどうなったのか…
全体的に今村夏子さんのテイストに溢れていてとても面白かった!「あひる」や「むらさきのスカートの女」で興味を持たれた方は是非。 -
一言で言うと、とてもシュールな短編集です。
あとがきに、著者の今村さん自身、「一生懸命さが痛々しいというか、見ていられないです。でも、そこが魅力だと思います。」と書かれていますが、まさに、そのような人達のオンパレードです。一般的な常識からはズレていて、何かの拍子に、感情を爆発させる。人間の心の奥底に潜む、どうにもならない、やりきれない気持ちに、物悲しくなります。
どの短編も、この後、主人公達がどうなるのかを、読み手に任せた終わり方になっているので、読み終わった後、自分なりに、想像をふくらませるのが、面白い本だなぁと思いました。 -
今村夏子さんの作品を初めて読みます。
不思議な世界観。私にとって『せとのママの誕生日』は一番難解でした。
巻末のインタビューを読むと作品への理解は深まりますが…
分かりやすい面白さはないけれど、他の作品ももう少し読んでみたいなというのが現時点の感想。 -
行間から漂う「ぞわぞわ」という不穏さを巧みに操った、ある意味魔術のような作品集だったように思います。
決定的な対立や事件が起こるわけでもなく、これといったわかりやすい結末で終わるわけでもないけど、だからこそ後を引く、スッキリとさせてくれない読後感がクセになってしまう。一種の中毒性みたいなものを感じます。
表題作の「父と私の桜尾通り商店街」では、店をたたむはずだったパン屋の「私」が、最後にやってきたお客さんに執着して徐々に暴走していく様子が、ブラックながらもどこかチャーミングかつ、ユーモアもあるように描かれていて面白い。
人とのつながりへの希求、承認欲求だとかで、私の行動は解説できるのかもしれないけど、そういう細かいところを、説明でなく、私の言葉や感情、行動で、ちょっとずつ狂っているところを見せていく手腕が素晴らしかったし、いい意味で気持ち悪くてよかった!
そうしたブラックでシュールな面白さと、一種の狂気みたいなものは他の作品でも表現されています。
たとえば「モグラハウスの扉」の工事現場の男性に執着する女性教諭も、読みようによってはホラーなんだけど、ギリギリでユーモアと不穏さの間をせめぎ合っている感覚、危うさみたいなものがいいなあと思います。
他にも「ルルちゃん」の最後の最後で誰の何がおかしいのか分からなくなっていく感覚、「せとのママの誕生日」のどこまで彼女たちが本気で、どこからが冗談なのか、全く説明されないまま、奇妙な展開が延々と続いていくのも印象的。
一方でリアルな描写も光ります。
夫や義理の姉、その子どもたちに振り回される妻を描いた「白いセーター」
二人の出産したてのお母さんの様子を細かく描写していく「冬の夜」
二編ともどこかにありそうな風景や会話、トラブルをリアルに描きます。
それでいてそれぞれ短編の結末に明確な結末がなく、その後の展開を想像させることでぞわぞわさせるのも一種の技のように思います。
ぞわぞわというのは不穏さや不気味さのことになるんだろうけど、それを直接的に描写せず、徹底して登場人物たちのずれてる会話や思考、行動から描いているように感じました。
そうしたずれが不穏でもあり、ずれているがゆえに一種の笑いやユーモアにもなる。だからこそなんとも言いがたい感覚の作品が、この短編集には集まっているのかと思いました。
そしてそのようにずれを描く視線が、今村さんの作品の魅力の一つなのかと思いました。 -
一体私は何の物語を読まされてるのでしょう笑笑
何かズレてる人が多く、掴みどころのない不思議な短編集。それが魅力なのかな??
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大好きな今村夏子さん。読むのは本書で5作目だが、世間から見るとズレている人を描くのが抜群で、痛々しいほど純粋でピュアな姿に毎回胸が痛くなります。
冒頭の短編『白いセーター』は一番リアルに起きそうな設定で怖く、一気に今村ワールドへと引き込まれた気がしました。
文庫化で追加されたという『冬の夜』は終わり方としては一番前向きで明るく感じられてホッと一息つけました。
最後の2編『モグラハウスの扉』と『父と私の桜尾通り商店街』は、登場人物たちの純粋さから来る暴走ぶりが滑稽で笑えるユーモアもあり、一番好きかもしれません。