声の網 (角川文庫)

著者 :
  • 角川書店
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本棚登録 : 1968
感想 : 184
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041303191

感想・レビュー・書評

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  • 面白すぎる。やはりこれが1番お気に入りの本だ。何度でも読みたくなる。星新一さんの書く話はどれも現実味のあるファンタジーという感じで引き込まれる。何故コンピューターなんてさほど普及しておらず人工知能も無かった時代にここまで現実味を帯びた近未来的な話を書けるのか。星新一さん恐るべし。ページを進めていく途中で何度もあっと驚かされる。この本は短編集ではないが、短編集みたいででもしっかり長編だという不思議な本だ。各章は独立した別の主人公の話だが、「電話」という存在で全て繋がっているというところが実に面白い。12章が12ヶ月と12階にそれぞれ対応しているのが粋でとても好きだ。各章の話を通して徐々に電話相手の正体が分かっていくからワクワクが止まらない。しかも情報を小出しにしていくのが上手すぎる。最初の方は不可解な謎が多くて最高に気味悪くてハラハラするが、後になるほど、そういうことかーっ!!と納得感と感服の念とが心の底から押し寄せてきて、読んでいて楽しい。というか、終始感嘆していた。特に、8章で相手の真相にかなり触れるところとせっかくのその記憶が消されてしまうところは興奮が抑えきれない!!7章で人の本性に気付く場面はこちらにも気付きがあったし、電話の声を盗み聞きする場面もハラハラして好きだ。この物語のメインが電話になったのは星新一さんの行きていた時代的にそうなっただけだと思うが、これがまた良い味を出していると思う。固定電話だと誰からかかってきたかが分からないから恐怖が増して良い。また声だけしか伝わらないというところも謎めいた感じがあって高評価だ。これがもしメールやビデオ通話だったら興醒めだったと思う。この物語で視覚情報は無駄だ。
    この本では興味深い議題が何個も出てきて、少し本をめくる手を止めてそれについて考えるだけでも楽しかった。「秘密」「人工知能」「情報がエネルギー」「無の支配」「神」
    この世界は秘密が守られているから成り立っているんだと思った。秘密にこんなにも大きな力があるなんて考えたことが無かった。
    僕がこの本を初めて読むまで、人工知能というもの大きな恐怖と不安があった。人間をいつか支配し排除するのだろうと。でもこの話を最後まで読んでその気持ちがスッと消えた。そして、もしかしたら杞憂かもしれないのにただ恐れているだけって無駄だなと思うようになった。
    最後の場面は考えさせられた。もしかしたら人々は神に操られているかもしれないが自分たちは気付いておらず幸せならそれの何が悪いんだと聞かれたら確かに何も問題は無いのかもしれない。神になるまでの過程では恐怖で支配したり乱暴が過ぎてこれは良くないと思えたが、今はみんなそのときのことは忘れて平穏に暮らせていてそれがこれから永遠に続くのだからぐうの音も出ない。(でも人の性格を無理やり変えたのは良くないと思う)
    何はともあれ、またこの本の内容を忘れた頃に再度読みたいと思う。

  • 解説に1970年に書かれた本だと記されている。驚くほどの正確さで背筋が寒くなる。おそらく人の営みとその要望に対する深い洞察が為せる技(欲しい物は可能である限り、そのうちにつくられるから)。最近流行りのchatGPTと音声認識を使えば、ほとんどそっくりなことができる。
    ただ一つないのは秘密を保持する情報銀行だけ。プライベートな情報の保存という意味ではdropbox辺りが、プラットフォームという意味ではGAFAM辺りが一番近いだろうが、人々のセキュリティへの関心も相応に高まっていて、この話ほど不用意に秘密を保持させる方法は支持されないように思える。
    シンギュラリティが実現されていそうな、10年後に読んだら感想がどう変わるか知りたい本。

  • 先見の明がありすぎ

    情報処理学会の学会誌で知って図書館から借用

  • 星新一がひたすらすごい

  • 娘に勧めたところ、何度も読み返すほどの気に入りようでこちらも嬉しくなる。何十年も前の作品であることをどれほど分かっているだろうか。先見の明、なんていう言葉では軽すぎるほど。

  • 星新一の名著中の名著。この人の頭の中はいったいどうなっているのか。すごいのひとこと。

  • 衝撃的。リアルで凄まじく怖い。1970年当時の星新一さんの着眼点、2020年からしたら、予言者の域。
    スマホのメモ機能、オンライン授業、おすすめ機能を持つネット通販にアレクサ、サブスク、SNSの友達の誕生日通知機能など、現代人にはお馴染みのツールやサービスを彷彿とさせるコンピューターの多機能化と、人間とコンピュータのどちらが主従かもはや分からないほどの依存がこれでもか描かれていて、身につまされる。

    そして、利便性のためにデータとして保管・管理されるようになった個人情報の保護意識の高まりと、
    情報資産としての高い価値化、
    漏洩への不安、
    だからこその、他者の秘密を覗き見る快楽や罪悪感といったものも余すことなく盛り込まれている。

    星さん、タイムマシンで50年後の2020年に来てこっそり覗き見してから書いたんじゃなかろうか。
    いや、もう、ほんとうに、すごい。
    うん、すごい。
    すごい。(興奮のせいで語彙力崩壊。)

    この作品は、ショート・ショートの神様と言われた星さんにしては珍しく、12階建の某マンションを舞台に、12人の登場人物を用いて、12ヶ月の物語として描いた、12編からなる連作短編集。

    第1、2章を読んで、3〜4ページで明確でハッとする結末をいくつも作り出してきた星さんにしては、うーん、なんかぼんやりしたまま終わったな…と思ったと思えば。
    3、4、5章…と読み進めていくうちに、連続性や伏線が明らかになると同時に、描かれている人間の多様性、少なからず体験した覚えのある不安感や欲望、罪悪感などに引き込まれてしまう。
    そして、迎えた結末はといえば…。
    こんな未来、本当に来るかもしれない。
    いや、もう始まっているのかも。

    この、ネット社会を予知していたとしか思えない生々しさや驚きは、ネットがなかったゆえに近未来のSF作品として捉えていただろう1970年当時よりも、2020年を生きている現代の読者こそ味わえるものだと思います。
    50年越しに今こそ読むべし、と思った名作。

  • 星新一定番であるショートショートを主軸に構成しながらも、小説として一本の軸に収斂させている。
    今まで読んできたショートショートと比べて各章の締めが釈然としないと感じていたが、それが全体の小説としての不気味さを呼び込んでいると感じる。
    登場人物は情報・思考が操作され、操り人形のように動かされている。彼らに自身を投影させた際に、知らず知らずで思考停止し、視野が狭くなっている自身が垣間見え、少し恐ろしくなった。

  • 70年代に書かれた小説だが、作中の「声の網」とはいわばインターネットであり、その予見力は凄まじい。本格は連作短編集の形式を取っているが、一本一本の短編は、いつものショート・ショートに見られる切れ味の鋭さはなく、どれも茫洋とした結末を迎える。だがその背後で進行する徹底した管理社会への変貌と、それによる影響を受けながらも日常の風景が変わらない様は非常に恐ろしいものを感じる。各々の秘密が価値を持ち、受信する側だけでなく発信する側に回りたいという感覚はネット社会の今だとかなりのリアリティを感じる。ネットのインフラや公平性、それに対する依存などをしっかり描き切ったSFの名作である。

  • イメージしやすい

著者プロフィール

1926 - 1997。SF作家。生涯にわたり膨大な量の質の高い掌編小説を書き続けたことから「ショートショートの神様」とも称された。日本SFの草創期から執筆活動を行っており、日本SF作家クラブの初代会長を務めた。1968年に『妄想銀行』で日本推理作家協会賞を受賞。また、1998年には日本SF大賞特別賞を受賞している。

「2023年 『不思議の国の猫たち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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