哀しい予感 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
3.57
  • (474)
  • (599)
  • (1409)
  • (69)
  • (12)
本棚登録 : 5129
感想 : 491
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041800010

作品紹介・あらすじ

いくつもの啓示を受けるようにして古い一軒家に来た弥生。そこでひっそりと暮らすおば、音楽教師ゆきの。彼女の弾くピアノを聴いたとき、弥生19歳、初夏の物語は始まった。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 弥生とおばさんは、事故現場である恐山に行き、
    やっと、何かがひとつ終わった。
    誰しも多かれ少なかれ、過去の悲しい出来事や、後悔はあると思うが、弥生とおばさんがやっと清算できて良かった。
    弥生とおばさん程の辛い出来事ではないかもしれないが、私も過去にあった事を思い出し、どうしようもないのに頭を悩ませ、気分が落ち込むことが多々ある。
    私の場合はもう99%清算できないが、その出来事が故に失ったものと、得たものがある。
    せめて得たものを大事にして生きていきたいと、読み終わった後に強く思った。

  • 2024年、最初の読了。こういう、徐々に秘密が明らかになる冒険譚、好きだなあ。

  • こちらの作品、私が高校生くらいの時に初めて小説を購入して読んだ作品。
    改めて、すっかりおばさんになった今現状で読んでみて、あの時とは違う感覚を味わった。
    ものすごく、古い作品なのに、そんな違和感なく、さすが吉本ばななさんだなぁと!
    設定も、今のドラマや映画でも通ずるものあり。小説の中の繰り広げられる世界が、頭にぱっと浮かびました。
    主人公、姉、弟、父、母、姉の恋人の登場人物。家族愛ともいうべきか、初恋ともいうものか。とにかく、一つ一つの表現が甘くうっとりしてしまった。例え描写が、優しくて心が温まるストーリーでした。

  • 初、吉本ばなな作品。
    1ページ目から世界観に引き込まれて一気読み。
    読み終えて、あとがきやら解説やらを読んで驚き。こちら80年代に書かれた作品でした。(そういえば携帯電話が出てこないなと後から気づいたくらい)
    時代を感じさせない、いつ読んでも、空気感だったりの描写にうっとりとなる一作だと思う。
    小説と同じ初夏にもう一度読みたい。

  • 文章がとても綺麗でした

  • P138 単なる正直さじゃなく、もっと意思のある正直な感情をさらけ出すところを、自分も含めてこのところずいぶん見た。たとえひとと時のきらめきでも、移ろうものであっても、瞬間に全てを込めた信じる者たちが訴えかける。そのことは心動かす。哲生はまっすぐに私を見続けたまま言った。

  • お風呂で、アヒルのおもちゃと出会うシーンと、哲生に抱きすくめられたときの、カーディガンの貝殻のボタン。音楽の先生の姉が、口に入れてくれた飴玉。
    記憶に残るシーンにあふれた作品。

  • p56
    夜の電話はいつも少し淋しい。真実はわかればいつも切ない。夢とうつつのはざまで、子供のような気持ちでぼんやり聞いていた。

    p64
    あそこにはもっと何かちがうものがあった。そう長続きするとは思えないほど幸福な物語みたいな何か……

    p68
    この人は、時間の止まった古城の中で、失われた王族の夢を抱いて眠る姫だったのだと私は思った。もうこの世にその栄華を知るものはたったひとり、心はいつもそこへ還ってゆく。何と高慢な人生なんだろう。病いのように彼女にとりついたその強情なものは何だったんだろう?

    p69
    「……私は、今も、忘れられないの。ずっと、呪いや祝福のように、体から抜けないのよ。」

    p83
    まっすぐ私を見すえる瞳には恋の色だけがあって私は困惑した。

    p101
    知らない人にすぐなじむのは、哲生の特技だった。つまり他人なんてどうでもいいと思っているのだ。

    p101
    時々、彼はこういう無邪気な態度になる。

    p103
    恋する男はみんな相手を特別なものと思うものだが、この人の言っていることはよく分かる気がした。

    p103
    『ないしょですが……』とか言ってね、

    p104
    ずっと、恋してたんだな。そして、それは僕だけではなった。それはずっと感じていた。

    p104
    うん、あんなに楽しかったことはない、今まで。最高だった、彼女と恋愛するのは。

    p106
    そうやって、うまくやりながら育ってきた。でも、肝心なのは、置き忘れてきた部分なんですよ。誰とも分かちあえない。

    p115
    するとしないとでは何もかもが180度違うことがこの世にはある。
    そのキスがそれだった。

    p118
    はたから見れば微笑ましいという程度のこの生活態度の違いが、おばにとって恐怖だったろうことはよく分かった。彼女は単に教師としてのモラルや年齢差におびえたのではなく、彼の健全さを異星人のように嫌悪したにちがいない。ずっと守り続けてきた自分の小さな、だらしない暮らしが変わることにおびえたのだ。私にはその気持ちが、とてもよくわかる気がした。若気の至りという言葉の通りに、恋の嵐が過ぎ去れば彼はまた元の日々へかえってゆくかもしれないことの、その率はあまりに高い。どう考えてもおばは、きちんとつきあう恋人にするには変わりすぎている。
    おばの人としての弱さをはじめてちらりと見たような気がして、少しつらくなった。こわいものや、いやなものや、自分を傷つけそうなものから目をそらすのが、おばのやり方だった。

    p140
    私は言った。確かめたかった。
    子供の頃から。
    他の人と比べるたびに。
    この子でないと思うとつまらなかった。

    p142
    いいかぜんな気持ちで私にあてて手紙を書いているところだった。私にあてて、来るかどうかわからない私のことを思い浮かべて……私は、おばの旅行をむしょうに止めたかった。ここでつかまえないと、あの人は一生こんなことばっかりやってるように思えた。そんなことだけじゃないんだ、と教えてあげたかった。

    p153
    夕空を背にして、風に吹かれてにっこりと微笑んだ姉の大人びた笑顔に、その手のぬくもりに悲しい気持ちをすっかりあずけた。
    わけもなく悲しく、みんな優しかった。
    ああ、あれほど美しい夕方の中、私の小さな心いっぱいにその予感は満ちていたと思う。
    その日以来、家族はもう二度と、その幸福な生活を営んでいた町に戻ることはなかったのだから。

    p162
    青に沈む湖は、山々を背にしてひっそりと澄んだ水をたたえていた。

    p163
    もう、二度とない、貴重な。一度きりの。

    p163
    私は答えた。家へ帰るのだ。厄介なことはまだ何も片付いていないし、むしろこれから、たくさんの大変なことが待ちうけている。それを、ひとつひとつ、私が、そして哲生が乗りこえていかなくてはいけない。それは不可能なほど重々しいことに違いない。それでも私の帰るところはあの家以外にないのだ。運命、というものを私はこの目で見てしまった。でも何も減ってはいない。増えてゆくばかりだ。私はおばと弟を失ったのではなくて、この手足で姉と恋人を発掘した。
    風が強くなった。まるでビロードの幕がゆっくりと降りてくるように、空がだんだん暗くなり、星がひとつ、またひとつと浮かびあがる。

  • 吉本ばなな「哀しい予感」
    装丁に記された 主人公の弥生19歳 同い歳であることに親近感を持ちつつ手に取ったこの本は、時計が狂ったように進んでいく旅と記憶の本だった。彼女が衝動的に家を出てしまうことはもう無くなるのではないかとおもう。

  • 弥生はおばと弟を失って、姉と恋人を手に入れた。

全491件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1964年、東京生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。87年『キッチン』で第6回海燕新人文学賞を受賞しデビュー。88年『ムーンライト・シャドウ』で第16回泉鏡花文学賞、89年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で第39回芸術選奨文部大臣新人賞、同年『TUGUMI』で第2回山本周五郎賞、95年『アムリタ』で第5回紫式部文学賞、2000年『不倫と南米』で第10回ドゥマゴ文学賞(安野光雅・選)、2022年『ミトンとふびん』で第58回谷崎潤一郎賞を受賞。著作は30か国以上で翻訳出版されており、イタリアで93年スカンノ賞、96年フェンディッシメ文学賞<Under35>、99年マスケラダルジェント賞、2011年カプリ賞を受賞している。近著に『吹上奇譚 第四話 ミモザ』がある。noteにて配信中のメルマガ「どくだみちゃんとふしばな」をまとめた文庫本も発売中。

「2023年 『はーばーらいと』 で使われていた紹介文から引用しています。」

吉本ばななの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×