ガリア戦記 (講談社学術文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (442ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061591271

作品紹介・あらすじ

前五八年以降、数年にわたりカエサル率いるローマ軍が、ガリアからブリタニアにいたる広範な地域をローマの勢力下におこうとして遠征を試みた貴重な記録である。当時のガリアやゲルマニアの情勢を知る上で必読の書として知られ、また、カエサル自身の手になるラテン語で書かれた簡潔にして流暢な文体は、文学的にも高い評価を受けている。タキトゥスの『ゲルマニア』とならぶ古代研究の最重要史料。

感想・レビュー・書評

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  • 世界史でも有名なガイウス・ユリウス・カエサル(Caesarシーザー 紀元前100~紀元前44)の書いた「ガリア戦記」。優れた武人だった彼がいかに文才溢れた人だったか……余計な装飾なし、質実剛健、的確で怜悧で美しい、ときに直接話法が挿入され、まるで戯曲のようなメリハリ……ほんとうにびっくり仰天です!

    「確かにすばらしい。それはむき出しで、率直で、優雅である。裸体が着物を脱いでいるように、あらゆる修辞的装飾をかなぐり捨てている」(キケロ「プルトゥス」)

    紀元前900年ころから欧州(今のフランス、ベルギー、北イタリア、スペイン、ドイツ、イングランド)の広大な地域を移動しながら、主に農耕に勤しんできたケルトの多種多様な民族。当時のローマは彼らをガリア人と称し、紀元前59年~51年、カエサルは、このだだっ広いガリアの地を東奔西走しながら征服していきます。読んでいるだけで眩暈がしそうなほど仕事中毒なカエサル、信じられません、一体こんなすごい戦記をいつ書いたのだろう? う~ん、忙中閑あり!?

    もっとも歴史はつねに多面的で、ガリア人(ケルト人)からみればローマのカエサルという男は恐るべき征服者です。「ガリア戦記」をながめてみても、平和や防衛の名のもとに、征服のための戦争をなかば正当化している様子が伺えます(現代でも頻繁に耳にするような話)。考えてみれば、2500年前のペルシャの戦争、ペロポネソス戦争、ギリシャとローマの戦争……いつの世も人間は戦争や破壊に明け暮れているのだと思うとしょんぼりしてしまいます。それでも当時のそういった時世を理解することができ、ローマの風習や政治・規律、元老院の様子(このあたりは『プルタルコス英雄伝下』が面白いですよ♪)、ガリア民族の興味深い記述を目にしていると、こんなに凄い書物を残したカエサルという人物や、それが後世にまで残った歴史の奇跡に驚いてしまうのです!

    「ガリア戦記」は、ローマ屈指の詩人ウェルギリウスの「アエネーイス」にも多大な影響を与えたようです。確かに来る日も来る日も戦争に明け暮れていたローマという国、でもそのローマでさえも抗えない「時」という怪物にいずれは呑み込まれていきます。人間の営みの途方もない栄枯盛衰……当時の詩人らの作品をながめてみても、平和を希求する彼らの哀愁が伝わってきます。
    それから2000年たったいま、あいかわらず内戦や紛争に明け暮れている世界、当時とさほど変わらないのではなかろうか……そんなことをつらつらと考えてしまいます。これも読書の醍醐味ですね♪ 後世のシェイクスピア、モンテーニュ、ゲーテ、ナポレオン……といった人々に霊感を与えてきたこの本、みごと壮大!

    ***
    整えた髪にアクティウム戦勝の月桂冠を戴き、
    平和女神パクスよ、おいでください。
    全世界で優しくあり続けてください。
    敵がいなければ、凱旋を祝う理由もありませんが、
    その間はあなたこそが将軍たちにとっては
    戦争よりも大きな栄光となるのです。
    兵士が携える武器は
    防衛のための武器だけでありますように。
    荒々しいラッパの音が告げるのは、
    ただただ祝祭の行列でありますように。
    近隣から最果てまで、
    世界中がアエネーアスの血統におののきますように。
    もしローマを恐れない国があったとすれば、
    その国はローマを愛しますように
            ――オウィディウス

  • ガリア戦記
    著:カエサル,G.J.
    訳:國原 吉之助
    講談社学術文庫 1127

    難読書、地名、人名ともなじみがないので、カエサルが率いている軍団がどのように動いているのか、イメージがしにくい。本書後ろに座標が入った地図と、その後ろに地名辞典とその座標が載っているのでそれを頼りにするしかない。ガリア(=フランス)領内をローマの大軍がくるくると回っているのである

    ガリア=ほぼフランス(+ベルギ全土、+オランダ、+スイス、+ドイツ、+イタリア)、つまり、ガリア戦記とは、ローマ人カエサルから見た、フランス討伐記なのである

    ゲルマニア=ドイツ、ブリタンニア=ブリタニア=UK、
    ローマ帝国から見ると、ゲルマニア人の来襲にて、その通り道となる、ガリアと、イタリアのすぐ南にそびえるアルプスの向うに広がるガイアの地は、軍事上の緩衝地帯、非武装中立地帯として安全保障上の重要地域なのである。カエサルでなくとも、ローマの属州として、ローマの僚友として取り込んでおきたくなるだろう。

    そして、カエサルは、その部族間の要請にしたがって出兵したり、レヌス川(=ライン川)と対峙しているゲルマニア人と戦闘する

    いずれにせよ、この時代は、アルプスの街道が整備され、大兵団が何度も、行き来している。
    スキピオと、ハンニバルのように、アルプスを越えた部隊に強襲されることはなくなっていたのである

    <難解な地名と、部族名(抄)>

    ガリア

     ベルガエ人 (アクィタニ人とは、ガルンナ川)
           (ケルタエ人とは、マトロナ川)
           (ゲルマニア人とはレヌス川

     アクィタニ人 (ベルガエ人とは、ガルンナ川)
      ガルンナ川に始まり、ピュレネー山脈に及び、ヒスパニアの大西洋岸に達する

     ケルタエ人(ベルガエ人とは、マトロナ川)
      ロダヌス川、ガルンナ川と大西洋とベルガエ人の領土

     ゲルマニア人 (レヌス川の北岸にすんでいる民族)=ドイツ人

    当時、ガリア人(=フランス国家)という概念はなく、部族が合同と、離散を繰り返していた
     ヘルウェティイ族 47 7E(ケルタエ人の部族、勇猛)
      ★オルゲトリクス
     セクアニ族 47 5E レヌス川下流、ケルタエ人の北東(元老院よりローマ国民の友)
      ★カタマンタロエディスの息子、カスティクス
     ハエドゥイ族 47 4E
      ★ドゥムノリクス ディウィキアクスの弟」
     ラウラキ族 48 7E
     トゥリンギ族 48 8E
     ラトビキ族 48 7E
     ポポイ族 47 2E
     アッロプロゲス族 45 5E
      都市:ゲナウァ
     サントニ族 46 2W
     トロサテス族 44 1E

    アルプスの部族
     ケウトロネス族 46 6E
     グライヨケリ族 45 6E
     カトゥリゲス族 45 6E などなど、たくさんあって、しかも狭い地域に集中している場合もあり

    目次
    第1巻 1年目の戦争(BC58)
    第2巻 2年目の戦争(BC57)
    第3巻 3年目の戦争(BC56)
    第4巻 4年目の戦争(BC55)
    第5巻 5年目の戦争(BC54)
    第6巻 6年目の戦争(BC53)
    第7巻 7年目の戦争(BC52)
    第8巻 8年目と9年目の戦争(BC51,BC50)
    解説
    専門語略解
    地図
    部族名・地名索引
    人名索引

    ISBN:9784061591271
    出版社:講談社
    判型:文庫
    ページ数:442ページ
    定価:1300円(本体)
    1994年05月10日第1刷
    2012年10月30日第38刷

  • 戦国時代が好きな人におすすめ。ローマ帝国とガリア人の戦いが淡々と描かれているのだが、下手な歴史小説よりも断然面白い。

  • ローマ人の物語を読んだときからいつか読もうと思っていた本。
    2000年前の話が生々しく伝わってくる。幾つもの惨殺すら記述するのだから。勝者の弁と言う当たり前の事を抜いても、それ程多くない人数で、戦いを勝ち抜いてきた所、特に、事前の情報収集を元に作戦を立て、実行に移し、相手の降伏の交渉においては、武器を一箇所に集めさせ、大量の捕虜を取ると言った一連の組み立て以外に、兵士の昼夜分かたずの力戦、設営なども興味深い。
    解説の年表にある、25歳の時に、「修辞学を学ぶ」と言う箇所は、この戦記だけでは無く、カエサルの政治家、軍人としてのベースになったんだなと。

  • 7年に及ぶ戦争を淡々と表現していますけど、的確な状況の把握、明確な決断根拠・目的が記録されていて、とても2000年以上前に書かれた手記とは思えませんでした。
    世界を動かす人間力はどのようなものか、スケールを感じさせてくれました。

  • 忍耐力がなければ読み切れないと思っが、最後のアレシアの戦いは圧巻だった。

  • 塩野七生氏が著書の中で絶賛していたので試しに読み始めてみたが、読み始めた時は「それほどか?」という印象。

    塩野氏が歴史家でも研究者でもないのに歴史書のような装丁、引用でミスリードしながら嘘混じりの誤解・勉強不足の内容を平気で書くことや『ローマ人の・・』の書き方への嫌悪を差し引いても、
    1) 原文で読んでいないこと、
    2) 私が日本語・英語の優れた報告書(= より進んだ時代の洗練された形式)に慣れていること、
    3) 同時代のローマ人のレベルを知らない(日本書紀を読んだ経験から、同時代人はかなりの野蛮人であり、簡潔に系統的に書けるのはかなりの知識人、才能であろうことは想像できるが・・)こと、
    の3つの要素がネガティブな印象に影響している可能性は大いにある。


    巻末の解説や用語集から先に読んだ方が時代背景や当時のローマの制度などを知ることが出来て戦記の内容が理解しやすい。
    解説にある、カエサルの書いた原本はこの世にもはや存在せず、残る複数の写本は10世紀以降の物であることや、写本にかなりな差異があることは考えてもみなかったことで、驚くと共に納得した。
    戦記中ではガリア人が極めて薄弱に記述されているが、それも社会体制の変革期であったことなどが細く解説されておりこれもわかりやすい。
    8年間にわたる遠征の経路やガリアの部族の地図もあって、内容を理解するのに役立つ。
    カエサルとは別の著者が補足的に書いた8,9年目の部分については、解説では「泥沼に入り込んだような・・」と酷評しているが、訳者の力量か、そこまでひどくはない印象だった(ただ、それ以前の文章よりも"劣る"感じのする部分は何カ所かあった)。

    解説込みで読み直すと、
    (写本で多くの人が手を加えていることを勘案しても)これだけの文章を極めて短時間でまとめ上げるのは驚異的であると感じた。ましてや、手書きのため時間がかかり、紙(羊皮紙)も貴重で推敲も十分に出来ない時代であろうから、その点を含めて恐ろしいほどの才能を持っていたのだと感じる。
    最後まで読んでみて「内乱記」も読んでみたいと思う内容だった。

  • カエサルの文才がよく分かる1冊
    途中カエサルの死後に他者が挿入した箇所と読み比べてみると彼の文章を書く能力の高さがよく分かる

  • 紀元前後のヨーロッパについての貴重な記録。

  • ラテン語文献の傑作らしいけどラテン語読めないので和訳版ではそこはよくわからないーーーーー前58年以降、数年にわたりカエサル率いるローマ軍が、ガリアからブリタニアにいたる広範な地域をローマの勢力下におこうとして遠征を試みた貴重な記録である。当時のガリアやゲルマニアの情勢を知る上で必読の書として知られ、また、カエサル自身の手になるラテン語で書かれた簡潔にして流暢な文体は、文学的にも高い評価を受けている。タキトゥスの『ゲルマニア』とならぶ古代研究の最重要史料。

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