りっぱな兵士になりたかった男の話

  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (170ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062177627

作品紹介・あらすじ

カスパールは、小屋を見はりつづける。たとえ、敵がひとりもやってこなくても…。イタリアアンデルセン賞受賞作家がユーモアをまじえて描く、戦争のむなしさ。

感想・レビュー・書評

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  • あっという間に、読了。
    タイトル通り、軍の指導通りに「りっぱな兵士になるための9カ条」を暗記し、繰り返し、ある日、上官の命令に従って、何のためなのかも聞かずに山の上の小屋の監視の任につく一人の男。初日から、赤白紋の牛:ももちゃんに出会い、その飼い主の老人に出会ってペースを乱されるも、必死にりっぱな兵士であり続けようとする。
    やがて、彼が出てきた町は敵に占領されてしまい、戻ることもできない中、退去の命令が来ないために、最初の命令を守って、ずっと一人で小屋に居続ける兵士。そんな兵士と会話を楽しみ、何かと世話を焼いて一緒に食事をする老人。長い日々の果てに、彼が守ることを命じられていた小屋は雷で燃えてしまう。それでも命令を守り続けようとする兵士だったが、ある日、仲良くなった老人が小屋に来なくなってしまう。
    迷い、悩んだ末に、兵士は初めて命令を破り、山を下りていく…。

    兵士になるということは、自分で考えるのを止めるということだ。
    この命令にどういう意味があるのか、これをすると何が起こるのか、など、自分で考えてしまうと上官は兵士をコマとして使えなくなるので、命令に忠実な兵士を作り上げていく。りっぱな兵士とは、つまり、そういう人間だろう。

    最後に、老人に問われて自分の名前を教え、その牛も失い、兵士カスパールは、ついに「りっぱな兵士になるための9カ条」を書いた紙を破り、山を下る決心をする。
    それまでに、10年もの歳月がかかった…。

    今、世界のあちこちで戦争が起こっている。ありふれた市民が兵士となり、銃や兵器を手にして戦闘を行っている。当たり前の精神では、その任務はこなせない。
    考えることをやめるのだ。それが、りっぱな兵士になるコツだ。
    しかし、人はやがて、ものを考え始める。その先にあるのは、いったい何だろうか。

  • 図書館の児童書の棚でたまたま目について、何気なく借りた。きっとウクライナでの戦争がこの本に私を出合わせたのだろう。いつだって戦争がもたらすものは勝利であろうがなかろうが、無残だ。カスパールは、街に降りた。どうするんだろう。もうひとりぼっちだ。

  • 絵本

  • 兵士とは、あまりにも単純過ぎる人間の末路…
    イタリアアンデルセン賞

  • じいさんと牛が好きだ。
    死んでからそーいえば名前も知らなかった、というのが
    ちょっとせつない。
    じいさんからの兵士が来て寂しさがまぎれた、
    そのうち一緒に暮らして、コーヒー飲んだりできたらいいなあって気持ちがもっとせつない。
    占拠された町はそのまま。
    そうして、いつかこの町も違う国に壊される、かも。
    だれが愚かで、何が正しいのか、わからなくなるなあ。

  • 若い兵士が、誰も来ない山の上の風車小屋を見張る命令を受け、一人毎日小屋を見張るが、まったく何も起こらない、という始まりで『タタール人の砂漠』みたいな話か?と思ったが、まさか同じイタリアの作家が真似するわけないしな、と思いながら読み進める。
    乳牛を飼う老人と交流するうち、町は敵の爆撃を受けて、敵に占領されてしまう。
    しかし、兵士は小屋の見張りの任務を解かれていないのだから、町に行くことはできない。
    兵士が信じる「りっぱな兵士であること」と、人間として生きることの矛盾を寓話的に描いた小説で、子どもにも読みやすいとは思うし、悪くはないのだが。
    ネズミの寿命は2年くらいだし、乳牛は妊娠・出産しなければ乳は出さない。(哺乳類は何だってそうだが。)
    この本を読むと乳牛は一年中、妊娠・出産しなくても乳が出るみたいに思える。
    老人は一人で暮らし、誰とも交流していないようだから、牛を交配させられない。農作物は自分で作っていたとしても、ハムやコーヒーを手に入れるためには、人と交流しなければならないはず。
    老人の死後、兵士は一人で老人の家で、牛とネズミと暮らし、誰とも会わず10年近く暮らしたのか?
    牛は乳を出さないまま?しかも牛よりネズミが長生き?
    そんなバカな。
    寓話にしろ、信じるに足るリアリティは必要。出産しなくても乳のでる牛のいる、まったく別の宇宙の星を舞台にしてる訳じゃないんだから。

  • 親切なおじいさんだと知っていても、疑うところが面白い。

  • イタリアの児童文学。ももちゃんっていう牛、ほんとはなんて名前だったのか気になる。

    兵隊の愚かさ、戦争の悲しさとか、そういう感想だけでなくて、何だかいっぱい…!読んだ子ども一人ひとりが、色々なことに頭をめぐらせて、自分にとって大事なことを見つけられる作品だと思う。登場人物のプロフィールはわからず、土地も敵も具体的なことは不明で、記号的に書かれているんだよね。

    兵隊はいつまでも来ない命令を待ち続け、融通が利かず、立派な兵隊を目指すわりには寝坊ばかりで、相当愚かなのだが…最後、全てを看取ってから小屋を立ち去る後姿は、決して愚か者のそれではない。この馬鹿真面目さも、ここまで来ると尊敬してしまうかも。

  • ユーモラスなシーンもあり、また人懐っこくも勇敢な老人との交流は心温まるものがあるけど、やっぱり無意味になった命令を、愚直に守り続け、山の風車を見張り続ける主人公の姿は、もの悲しく、虚しい。

  • ★★★★☆
    カスパールは上官にあるものを預けられ、山の上の風車を見張るように命じられる。
    「りっぱな兵士であるための九か条」が書かれたメモを胸のポケットにしのばせ、命令を実行しに向かう。
    が、山頂には古ぼけた風車と強い風しかなく、ネズミとウシのモモちゃんとその飼い主のおじいさんしかいなかった。
    おじいさんとカスパールと二匹の動物たちのノンキなやり取り、ふもとの町を覆っていく戦争の暗雲、そして…。
    少し「野ばら」を思い出しました。
    静かに、戦争とは何か、人の幸福をは何かを考えさせる本です。
    サヤカさんの挿絵も物語の雰囲気にぴったりでした。
    (まっきー)

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