出口のない海 (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062754620

感想・レビュー・書評

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  • 人間魚雷「回天」を搭載し、西太平洋の戦線へ出撃した伊号第47潜水艦に乗り組んだ潜水艦通信士のNさんと、この夏知り合い、当時の状況についてお話を聞きました。
    たまたまNさんも本書「出口のない海」を読んでいたところで、「小説だから誇張はあるだろうけど」と勧めてくれました。それで本書を買い求め、昨夜、胸を締め付けられるような思いで読了しました。
    当事者にお話を聞いたうえで、それをテーマにした小説を読むというのは、記憶にある限り初めての経験でした。
    本書には、回天の搭乗員の「北」が伸ばし放題伸ばした髪を海風になびかせる場面が出てきます。「長髪は特攻隊員の特権だ」(P244)。
    伊号47潜水艦に乗り組んだNさんは、出撃を控えた回天の搭乗員4人が部屋の中で途方に暮れているのをたまたま見かけたそうです。やはり、髪を伸ばし放題伸ばし、途方に暮れていたそう。「それはもう異様な雰囲気でした」と語っていました。
    自分の身体もろとも敵艦に体当たりする特攻兵器・回天―。あまりにも非人間的で、むごたらしい兵器です。
    回天に搭乗することになった主人公の「並木」は、当初は逡巡していましたが、祖国のため、家族のため、散華する覚悟を決めます。結末がどうなったか書くのは控えますが、死を運命づけられた者の気持ちが微細に描かれ、衝動を抑えられませんでした。
    回天の搭乗員は89人が戦死し、15人が訓練中に死亡、2人が終戦時に自決したとされています。
    Nさんも戦争で多くの戦友を失いました。戦争は亡くなった当の本人、ご遺族だけでなく、生き残った者の人生をも残酷に切り裂きます。
    Nさんにはお孫さんがおり、小さいころから野球に没頭したそうです。試合を見に行くのが当時のNさんの一番の楽しみでしたが、ふと、「自分だけがこんなに幸せでいいのだろうか」と考えてしまうことがしばしばあったのだそうです。今も自家菜園で取れた野菜を口にした時などに、同じ気持ちになるといいます。
    戦争を体験した方は、普段は口にしませんが、自責の念から逃れられないのでしょう。それはほとんど一生続くようです。
    一方で、戦争を知らずに育った人たちが大半となりました。若い方には「日本って米国と戦争したのですか?」と驚く方もいて、Nさんは「悔しい」と話していました。お気持ちは痛いほどよく分かります。
    祖国のため、家族のために戦った方たちのことを、私たちは忘れてはいけないでしょう。
    近く、Nさん宅に再びお邪魔して、本書についての感想をお互いに交換するつもりです。

  • 死を命じられた青年の心の葛藤が凄まじい。暗く救いのないお話。娑婆に未練がうんとあるのに、、切ない。
    初めに主人公が死んでしまうことを明かした上で物語は進むが、分からないままのほうがドキドキ感があってよかっか気がする。

  • 第二次世界大戦末期。
    潜水特攻魚雷「回天」に志願した
    野球を愛する成年の物語。

    ただ、死ぬのが怖い、辛いだけでなく
    その葛藤も描かれているので
    読んでいて本当に胸が痛かった。
    敗戦の覚悟をし、特攻の無力を受け入れた上で
    それでも逃げられない状況。
    逃げてはいけないとされた時代。
    生きて帰った事を非難されるなんて…

    個人的に、主人公並木の出撃が決まり、
    ひと時の帰郷が許され家族と過ごし
    軍に戻る時、小学校六年生の弟が敬礼して
    「お国のために立派に死んできてください!」
    と言った時、心から怖いと思った。

    こんな小さい子が兄に死なないで
    欲しいとすがらず
    国の為に死ねと言う時代が、
    それが正しいと教育された時代が
    あったということが怖かった。

    「永遠の0」を読んでもっとこの国の歴史を
    知るべきではないかと思って
    この本を読んだけど、とても心が痛んで
    辛かった…でもまた戦記ものを
    読んでみようと思う。
    戦争を知らない私たちの世代が
    できることのひとつだと思うから。

  • 横山さんにしては珍しい?戦争もの。「回天」という名の人間魚雷。こんなものがほんの数十年前に実際にあって、まかり通っていたことが恐ろしいし悲しい。『出口のない海』というタイトルがまた素晴らしい。

  • 第二次世界大戦の終わりごろ。
    人間魚雷「回天」への搭乗を決意し、海に散ったある若者の話です。
    彼は、甲子園で優勝した投手であり、大学野球でも期待されていた。
    野球が続けられない状態になっても、夢をあきらめずに頑張っていた。
    なのになぜ、「回天」を志願したのか。


    特攻隊とか、人間魚雷とか
    こういうものが、まだそう遠くない時期の日本には
    存在していたんだと思うと、率直に、恐ろしい。

    だって、これに乗ったら、
    「もしかしたら生きて帰れるかもしれない」
    とさえ、思うことができないんだから・・・。

    どういう発想で、こういうものを開発したのかと思ってしまう。
    人間の「使い捨て」を前提とした道具をつくること自体が、狂っている。

    戦争をテーマにした本を読むと、あまりにも理不尽で
    絶望的な気持ちになる。


    時代は変わった。
    けれども、べつのかたちで、理不尽なことはたくさん起きている。
    それを越えられない、根底に横たわっているものは
    戦争をしていた時代のそれと、つながっているような気もする。


    過去から学べることは、まだまだたくさんある。

  • 『永遠の0』もそうだけど、戦争にはこのような世界があったんだな~

  • 横山さんの本は大体読破したけど、やっぱり横山さん=警察小説なのかな。これは微妙でした。戦争モノで、回天という人間魚雷に乗ることになった青年の物語。以前読んだ永遠の0は神風特攻隊として命を落とした人の話だったが、今回のテーマは所謂神潮特攻隊の予備隊として死と向かい合う男の話。回天は、本物の魚雷に操縦席を取って付けたようなシロモノで、それだけに神風より人間爆弾の印象が強く残った。そして、ここの主人公は、高等教育を受けた大学生であり、幼い頃から軍部教育を受けて来た者と違い、お国のために死ぬのが本望とは思っていない。彼らがなぜ魚雷に乗るのか、そのへんの心理描写もおもしろい。けれど永遠の0を読んだ後ではイマイチぱっとしなかった…のでこの評価。横山さんの本はほとんど読んだけど、第三の時効が最高だったと思う。

  • 電車の中で涙が出てきて困った。

  • 横山秀夫さんの本は、すべて読んだつもりでしたが、文庫本の背表紙のあらすじを読んで、これはまだだったなと読み始めたら、やっぱり止まらなかった。
    戦争はほんとに恐ろしい。人が人でなくなってしまう。そんな中で人であり続けられた主人公。こうやって死んでいった人が多勢いたんだと思うと…そして今もそんな恐ろしい戦争は世界で続いているんだと思うとやるせない。理不尽としか言いようがない。

  • 『人間魚雷』
    自分は出来ることなら乗らない選択肢をしたいかな。乗る人間は「英雄」と胸を張ることができるかも知れないが、その人を大切に想う残された人間は「英雄」と想うことができるのだろうか。
    私は、大切な人は「英雄」になんかならなくていいから、「弱者」としてでも生きていてほしいと願うのだろうな。そう願いたい。
    『人間魚雷(回天)』があったから救われた命もあったとは想うけど、やっぱり人間魚雷なんてものは存在してはいけない。戦争は絶対に無意味なものなのだ。

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著者プロフィール

1957年東京生まれ。新聞記者、フリーライターを経て、1998年「陰の季節」で松本清張賞を受賞し、デビュー。2000年、第2作「動機」で、日本推理作家協会賞を受賞。2002年、『半落ち』が各ベストテンの1位を獲得、ベストセラーとなる。その後、『顔』、『クライマーズ・ハイ』、『看守眼』『臨場』『深追い』など、立て続けに話題作を刊行。7年の空白を経て、2012年『64』を刊行し、「このミステリーがすごい!」「週刊文春」などミステリーベストテンの1位に。そして、英国推理作家協会賞インターナショナル・ダガー賞(翻訳部門)の最終候補5作に選出される。また、ドイツ・ミステリー大賞海外部門第1位にも選ばれ、国際的な評価も高い。他の著書に、『真相』『影踏み』『震度ゼロ』『ルパンの消息』『ノースライト』など多数。

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