- Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062755191
感想・レビュー・書評
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夜が明けていく雰囲気が伝わってきた。
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ただの一夜の物語。一夜のうちにある、登場人物の感情の機微をつぶさに拾っていた。
物語は夜が明けて終わりを迎える。
その夜明けがマリに対してどのようなものであったかは、村上春樹の作品らしく克明には記述されない。ただ、物事が明るい方向へと向かっているとは分かる。
視点の使い方や描写には毎度感嘆させられる。
私もこんな含みを持った夜を送ってみたいものだ。
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村上春樹っぽさをあまり感じない、ちょっと変わった作品のように感じた。それでもあちら側とこちら側、そこの境界は曖昧だよねっていうどの作品にも顔を出す村上作品特有のものはある。
カメラから見る視点(私達)はどういう意図があったのかちょっとわからなかった。
街に、部屋に、陽の光が差し始める時間の描写は素敵だなと思った。 -
村上春樹ということでかなり期待していたが僕にとっては普通だった。
大学生の僕は深夜、または早朝の友達と歩くことも多いので
夜の持つ不思議な感覚、力には共感しやすかった。
全ての話がぶつ切りの終わりを迎えて、結末は分からないままだが
それでもなんとなく希望を持たせてくれる後味の良い作品ではあった。
ただ、エリの見ている夢の解釈や顔のない男の正体がイマイチ理解できなかった。
P247
世の中にはね、一人でしかできんこともあるし、二人でしかできんこともあるよ。それを上手いこと組み合わせていくのが大事やねん。
P280
心臓の鼓動まで、私たちは分け合うことができた。
P281
君はとても綺麗だよ。そのことは知っていた? -
なんかいつもの村上春樹と違う感じ。設定も、ラブホテルが出てきて馴染みにくい。途中のマリと男の子の掛け合いも、なんかくどく感じた。村上作品でめんどくさいと思ったのは初めて。
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村上春樹の著作の中では、比較的手に取りやすいボリュームの作品です。
即興的で着地らしい着地のないストーリーは村上春樹の小説って感じがしますが、他の作品と比べると、心に広がる読後の余韻みたいなものはなかったかなぁという印象です。
良くも悪くもあっさりしてますね。
まさしくそんな描写がありましたが、淡々と流れていく場面を定点から眺めているような、距離感を感じる小説でした。 -
★真夜中には真夜中の時間の流れ方があるんだ(p.96)
■三つのメモ
・我々という視点と夜に隠されていた個人、夜という可能性、夜というハレ、夜という隠蔽性、夜の住人と覚醒界の住人、夜の圧迫、夜の記憶、夜とファミレスやコンビニ、夜という不健康、夜の拒絶、夜との共感、夜と睡眠、夜と逃走、夜の追跡、夜による覚醒、夜からの覚醒。
・マリとエリと高橋、エリと顔のない男と白川、白川と郭冬莉とバイクの男、郭冬莉とカオルたちとマリ、マリと高橋とカオル、高橋と音楽と法律、健康志向と不健康志向、睡眠と覚醒、夜と夜の終わり。
・視点はカメラのように深夜の都市をさまよう。それは記述に巻き込まれ「我々」と呼ばれるようになった読者か。
■てきとーなメモ
【一行目】目にしているのは都市の姿だ。
【veritech】そういうブランドかもしれない、あるいは企業のネーム入りなのかもしれない銀色の軸の鉛筆。消しゴムがついている。白川の傍らに六本あり芯はすべてこれ以上ないくらい尖っている。後に浅井エリがめざめたとき床に転がっていた鉛筆も同じものだが芯は丸くなっている。
【アイ・キャント・ゴー・フォー・ザット】ホール・アンド・オーツ。マリが行った「すかいらーく」でかかっていた。
【朝】《窓の外は急速に明るさを増している。窓に下ろされたシェードの隙間から、鮮やかな光の筋が部屋に入り込んでくる。古い時間性が効力を失い、背後に過ぎ去ろうとしている。多くの人々はまだ古い言葉を口ごもり続けている。しかし姿を見せたばかりの新しい太陽の光の中で、言葉の意味合いが急速に移行し、更新されようとしている。たとえその新しい意味あいのおおかたが、当日の夕暮れまでしか続かないかりそめのものだとしても、私たちはそれらとともに時を送り、歩を進めていくことになる。》p.286
【浅井エリ】不自然なほど深く眠っている女。その室内で電源プラグが外されているテレビが勝手に起動をはじめた。後にエリの眠るベッドは画面の中に移動しこちら側には無人のベッドがある状態となる。本の半ばでようやく目覚めるがその部屋は彼女の部屋ではない。床はリノリウム張り。窓の外には風景はなく窓は開かない。白川が深夜に働いているオフィスと似ている。いろいろアレルギーを持っている。動物の毛、杉花粉、ブタクサ、鯖、海老、塗りたてのペンキ等々。異常な量の薬を飲む薬マニア。《君のお姉さんと向かい合って長く話しているとね、だんだんこう、不思議な気持ちになって来るんだ。最初のうちはその不思議さに気づかない。でも時間がたつにつれて、それがひしひし感じられるようになってくる。なんていうか、自分がそこに含まれていないみたいな感覚なんだ。彼女はすぐ目の前にいるのに、それと同時に、何キロも離れたところにいる》p.183
【浅井マリ】日付が変わる直前のデニーズで本を読んでいる女。浅井エリの妹。スタジャンにレッドソックスの帽子。薄い知人の高橋が声をかけた。外で出されるチキンは薬物まみれなので食べない。中国語が得意なようだ。
【ある愛の詩】高橋はこの映画のストーリーを間違えて記憶している。あるいはわざと違えて語った。
【アルファヴィル】ラブホテル。ゴダールの映画に同じ題名のものがあるらしい。銀河系のどこかの架空の都市。深い情愛を持ってはいけない。情愛を伴わないセックスはあるのでラブホテルの名前向きかもしれない。
【アレッサンドロ・スカルラティのカンタータ】白川が早朝、運動しているときに聴いていた。
【イギリス組曲】バッハ作曲。イヴォ・ポゴレリチのピアノ演奏。白川が聴きながら働いている。
【エイプリル・フール】バート・バカラック。高橋がデニーズから出ていくときに流れていた曲。
【エリ】→浅井エリ
【顔のない男】浅井エリの眠る部屋のテレビ画面に写っている男。マスクで顔はわからない。白川との関係は不明。制裁を受けた後の白川という深読みも可能ではあるけど現在得られる情報では無理がある。
【カオル】タカハシ・テツヤに聞いてデニーズにいる浅井マリに声をかけてきた大柄な女。元女子プロレスラー。中国語がわかる人間が必要らしい。ラブホテル「アルファヴィル」のマネジャー。
【カラス】《二義性はカラスたちにとって、人間たちにとってほどは重要な問題ではない。個体維持に必要な栄養分の確保、それが彼らにとっての最重要事項だ。》p.290
【記憶】コオロギ《それで思うんやけどね、人間ゆうのは、記憶を燃料にして生きてるものなんやないなかな。その記憶が現実的に大事なものかどうかなんて、生命の維持にはべつにどうでもええことみたい。ただの燃料やねん。》p.250
【郭冬莉/ぐお・どんり】客に殴られ金品を奪われた十九歳の美しい中国人娼婦。マリ《ほんの少しの時間しか会わなかったし、ほとんど話もしていないのに、今ではなんだかあの女の子が、私の中に住み着いてしまったみたいな気がするの。彼女が私の一部になっているような。》p.192
【暗い】マリ《暗いのって、けっこう疲れるんだね》p.271
【バイクの男】精悍なホンダのバイクを駆る。目つきが鋭くポニーテール。郭冬莉の属する売春組織のメンバーのようだ。怖そう。郭冬莉を痛めつけた白川を追っている。夜の象徴のようでもある。
【クリエイトする】高橋《音楽を深く心に届かせることによって、こちらの身体も物理的にいくらかすっと移動し、それと同時に、聴いている方の身体も物理的にいくらかすっと移動する。そういう共有的な状態を生み出すことだ。たぶん》p.136
【ゴー・アウェイ・リトル・ガール】パーシー・フェイス楽団。マリと高橋が出会ったときにデニーズに流れていた曲。
【コオロギ】カオルのとこで働いている。関西弁。《本名は捨てましてん》p.56
【孤児】高橋《つまりさ、一度でも孤児になったものは、死ぬまで孤児なんだ。》p.218
【コムギ】カオルのとこで働いている。本名。
【裁判】高橋《そうだな、タコのようなものだよ。》p.142。《そいつの前では、あらゆる人間が名前を失い、顔をなくしてしまうんだ。僕らはみんなただの記号になってしまう。ただの番号になってしまう》p.143。《一人の人間が、たとえどのような人間であれ、巨大なタコのような動物にからめとられ、暗闇の中に吸い込まれていく。どんな理屈をつけたところで、それはやりきれない光景なんだ》p.145
【質問】高橋《頭にふと浮かんだことを声に出しただけだよ。君が答える必要はない。ただ自分に問いかけているんだ》p.25
【ジェラシー】ペット・ショップ・ボーイズのヒット曲。マリが行った「すかいらーく」でかかっていた。
【視点】《物理的にはその場所に存在しないし、痕跡をのこすこともない。言うなれば、正統的なタイムトラベラーと同じルールを、私たちは守っているわけだ。観察はするが、介入はしない。》p.41。《肉体を離れ、実体をあとに残し、質量を持たない観念的な視点となればいいのだ。そうすればどんな壁だって通り抜けることができる。どんな深淵をも飛び越すことができる。》p.158
【地面】コオロギ《私らの立っている地面いうのはね、しっかりしてるように見えて、ちょっと何かがあったら、すとーんと下まで抜けてしまうもんやねん。それでいったん抜けてしもたら、もうおしまい、二度と元には戻れん。あとは、その下の方の薄暗い世界で一人で生きていくしかないねん》p.233
【白川】アルファヴィルの防犯カメラに写っていた男。仕事のできるサラリーマンという感じだが郭冬莉を殴打し衣服と金品を奪っていった男に間違いはない。なぜそんなことをしなければならなかったのかは不明だが単にもうひとつの闇の顔を持っているというだけのことかもしれない。
【人生】高橋《なんで僕らはみんなべつべつの人生をあゆむようになるんだろうね?》p.25。高橋《人にはそれぞれの戦場があるんだ》p.36
【深夜】《この時刻の街は、街そのものの原理に従って機能している。》p.7。バーのマスター《真夜中には真夜中の時間の流れ方があるんだ》p.96。ゆったりと見えないものを内包しながら。
【早朝】《海の水と川の水が河口で勢いを争うように、新しい時間と古い時間がせめぎ合い、入り混じる。自分の重心が今どちら側の世界にあるのか、高橋にもうまく見定めることができない。》p.268
【ソニームーン・フォア・トゥー】ソニー・ロリンズの曲。終夜練習の最後あたりで高橋がトロンボーンのソロを吹いた。
【ソフィスティケイティッド・レイディー】デューク・エリントンのレコード。マリがカオルに連れていかれたバーでかかっていた二枚目。
【タカナシのローファット】牛乳らしい。白川の妻らしい女が白川に買ってきてくれと頼んでいた。高橋は一度うっかり手にとったが顔をしかめて棚に戻した。モラリティーの根幹に関わるらしい。
【高橋テツヤ】トロンボーンをやってる男。プロにはなれそうにないので司法試験をめざすことにした。ビジネスライクになれそうもないタイプなのでもし弁護士になれても苦労しそう。《「長い話が多い人なのね」/「そうかもしれない」と彼は認める。「どうしてかな」》p.153。よく人から打ち明け話をされるタイプ。あーそれはぼくもそうです。モットーは《ゆっくり歩け、たくさん水を飲め》p.208
【チキンサラダ】高橋《僕に言わせてもらえれば、デニーズで食べる価値があるのはチキンサラダくらいだよ。》p.14
【である】村上春樹さんは「である」を使わないタイプのようなんで個人的には心地よいです。
【デニーズ】《店はどこをとっても、交換可能な匿名的事物によって成立している。》p.7
【テレビ】浅井エリの部屋と思われる部屋にある。電源プラグが外されているのに起動し椅子に腰掛けマスクを被っている男が映し出される。
【都市】《広い視野の中では、都市はひとつの巨大な生き物に見える、あるいはいくつもの生命体がからみあって作りあげた、ひとつの集合体のように見える。》p.5
【トロンボーン】タカハシ・テツヤは「ブルースエット」というレコードの「ファイブスポット・アフターダーク」という曲によってトロンボーンにめざめた。
【謎】「視点」の存在。眠り続けるエリ。エリが転移した向こう側。向こう側にいた顔のない男。白川の行動。白川のオフィスと画面の向こう側の関係。エリはどうなったか。
【名前】高橋《自分の名前って、そんな簡単に忘れられないものなんだよな。他人の名前なら、覚えてなくちゃならないものでも、どしどし忘れちゃうんだけどね》p.24
【二義性】《運ばれている彼らは、一人一人違った顔と精神を持つ人間であるのと同時に、集合体の名もなき部分だ。ひとつの総体であるのと同時に、ただの部品だ。》p.290
【逃げ切れない】《逃げ切れない。どこまで逃げてもね、わたしたちはあんたをつかまえる》p.262。《その言葉の謎めいた響きは、ひとつの隠喩として彼の中に留まることになる。》p.267
【バクダン・ジュース】スガシカオ。高橋が朝食べるものを探しているセブンイレブンで流れていた。
【マイアイデアル】ベン・ウェブスターのレコード。マリがカオルに連れていかれたバーでかかっていた。
【マスク=仮面】《マスクの真の不気味さは、顔にそれほどぴたりと密着しているにもかかわらず、その奥にいる人間が何を思い、何を感じ、何を企てているのか(あるいはいないのか)、まったく想像がつかないところにある。男の存在が良きものなのか、悪しきものなのか、彼の抱いている思いが正しいものなのか、歪んだものなのか、その仮面が彼を隠すためのものなのか、それとも彼を護るためのものなのか、判断するための手ががりがない。》p.76
【マリ】→浅井マリ
【私たち】観察者。視点。読者はなぜ勝手に「私たち」の中に入れられてしまっているのか。 -
2023/07/19
初の村上春樹作品を読了。
ページ数が少なくとっつきやすいため読んでみた。
想像していた作品と異なり驚くとともにもやもやしている。
ただ、人は記憶を消費して生きている、というフレーズは心に残った。 -
久しぶりに村上春樹さん作品を再読。
気軽に読めるページ数だったけど、内容は相変わらず重め。ワールド全開。
私の場合、自分の気持ちが元気な時にしか村上さんの作品は読めない。そして感情移入させることができるととても楽しめる。 -
悪くはない。
村上作品の中では中間的な面白さ。
わりにサラッとしていて、「深夜帯」に馴染みのある現役大学生としては親近感の湧く作品だった。