浜村渚の計算ノート 5さつめ 鳴くよウグイス、平面上 (講談社文庫)
- 講談社 (2014年3月14日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062777766
感想・レビュー・書評
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数学教育の復活を目指すテロ組織「黒い三角定規」と闘う中学2年生浜村渚の活躍を描くシリーズ5さつめ(第6弾)です。
今回は第log10000章(つまり第5章)で浜村渚が修学旅行で京都に来ました。
オビに「京都の町は碁盤の目。二次関数の舞台になっちゃうんです♪」とありますので、やや展開が読めてしまうキライもありますが、京都の通り名に詳しくない方には、楽しめるかもしれません(詳しい方は、途中でだいたい想像つくかも)。
今回特に楽しめたのは、第log100章(つまり第2章)『鳩の巣が足りなくても』でした。
ここでは、「黒い三角定規」のメンバとして、中高一貫校の数学教師を解雇されたぽっぽ・ザ・ディリクレが登場します。
ディリクレと鳩の巣と言えば……、そう、「鳩の巣原理」ですね!
「鳩の巣原理」とは、
「n個の鳩の巣にn+1羽以上の鳩が入ろうとすれば、少なくとも1つの巣には鳩が2羽以上入らなければならない」
という原理です。
言ってみれば、「当たり前」となってしまう(だからこそ“原理”)話なのですが、これが数学では強力な論法として登場します。これを初めて用いた数学者がディリクレなのです。
本書では、この原理の証明は載っていませんでしたが、あえて証明してみましょう。
このような当たり前と思える事柄の証明に力を発揮するのは、「背理法」です。
そのために結論の「少なくとも1つの巣には鳩が2羽以上入る」を否定してみましょう。「すべての巣には鳩が1羽以下しか入らない」となります。
すなわち、n個の鳩の巣のそれぞれには、鳩が1羽いるか全くいないかになりますので、鳩の総数を考えるとそれはn羽以下になります。
ところが、問題の設定では鳩はn+1羽以上いることになっていますので、これは矛盾です。
よって、結論を否定した「すべての巣には鳩が1羽以下しか入らない」とした仮定が誤りであったことになりますので、「少なくとも1つの巣には鳩が2羽以上入る」が成り立つことになります。
この「鳩の巣原理」を使うと
「座標平面上にA~Eまでの5つの格子点(x座標,y座標が共に整数である点)が存在するとき、A~Eの中に中点も格子点になるようなペアが少なくとも1つは存在する」(P.145)
というような結構難しい問題も解決できちゃいます。ぜひ、考えてみてくださいね。
なお、浜村渚はこの「鳩の巣原理」の中にある一種の“やさしさ”で事件を解決してしまいます。
「そもそもディリクレは『鳩の巣原理』とは言わず、『部屋割り論法』と言っていたんだけどなぁ」というゲスな突っ込みを入れていた私は、この数学愛にやられてしまいました。
確かに気がつかなかったなぁ。
他には、難関中学入試では押さえておきたい「パップス・ギュルダンの定理」なども登場しますが、個人的に気に入った小ネタは、
「バナッハさんとタルスキさんに頼んだら、もう1個(バランスボールを)増やしてもらえるかもしれません」
という渚のセリフ(P.53)です。バナッハ・タルスキの定理が現実世界で実現できたら、スゴイでしょうねぇ。
ややネタバレになりますが、物語としてはキューティ・オイラーがいよいよ「黒い三角定規」と袂を分かつ展開になっていることも気になります。もともとキューティ・オイラーはテロ組織に似つかわしくなかったのですが、これからは「黒い三角定規」から独立したキューティ・オイラーと渚の絡みも楽しみです。
さらに、今回の解説はなんと、あの結城浩さんです。結城さんの「浜村渚の数学ノート」への見方もわかって面白いです。
ミルカさんと浜村渚の「夢のコラボ♪」が見られる日も近い?詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
今回もまたおもしろい数学の定理たちが登場して、勉強にもなるし、楽しめるしでよかったです。
鳩の巣定理はすごく綺麗な証明方法だと思いました。
(2014/04/25) -
後書きを読むと、数学ガールの結城先生は、まだ本音では、このシリーズを認めてないのかな?
丁度、イチローの日米通算安打記録を認めないピートローズのように。
確かに大学レベル以上の高等な数学も扱う数学ガールに対して、浜村渚の扱う数学は、少し数学をかじった者にとっては常識で初歩的なものばかり。
しかし、数学ガールが淡い青春物語を絡めた「数学解説書」なのに対し、浜村渚は数学を使った「ミステリー小説」だ。分野も違えば読者ターゲットも違う。
この作品の妙味は、毎回、事件に数学がどんな風に関わってくるのかという奇想天外なアイデアの斬新さと、結城先生も指摘した鳩の巣原理のオチのように、テロリストをも改心させる浜村渚の数学愛に溢れた解釈の面白さにある。 -
二次関数とかがあって、京都を舞台に、なんだか奇奇怪々な事件が発生し、いろいろな京野菜が置いてあるという「京野菜殺人事件」が発生。さあ果たしてどうなるのか?
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読んでて、数学嫌いながらも、ほーってなる。渚ちゃんみたいな子が周りにいたら数学好きになりそう笑 数学とほかのいろんなことを関連づけているのがいつもすごいと思う。鳩の巣論、これを読んですぐあとの数学の授業で説明されて、渚ちゃんだーって思いました笑
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面白かった。
二次関数すら覚束なくなっていた自分の頭に絶望した。
簡単な数学の問題集でも買おうかしら。 -
(収録作品)遊星よりの問題X/鳩の巣が足りなくても/パップス・ギュルダン荘の秘密/京都、別れの二次関数