浜村渚の計算ノート 5さつめ 鳴くよウグイス、平面上 (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062777766

感想・レビュー・書評

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  • 数学教育の復活を目指すテロ組織「黒い三角定規」と闘う中学2年生浜村渚の活躍を描くシリーズ5さつめ(第6弾)です。

    今回は第log10000章(つまり第5章)で浜村渚が修学旅行で京都に来ました。

    オビに「京都の町は碁盤の目。二次関数の舞台になっちゃうんです♪」とありますので、やや展開が読めてしまうキライもありますが、京都の通り名に詳しくない方には、楽しめるかもしれません(詳しい方は、途中でだいたい想像つくかも)。

    今回特に楽しめたのは、第log100章(つまり第2章)『鳩の巣が足りなくても』でした。

    ここでは、「黒い三角定規」のメンバとして、中高一貫校の数学教師を解雇されたぽっぽ・ザ・ディリクレが登場します。

    ディリクレと鳩の巣と言えば……、そう、「鳩の巣原理」ですね!

    「鳩の巣原理」とは、

    「n個の鳩の巣にn+1羽以上の鳩が入ろうとすれば、少なくとも1つの巣には鳩が2羽以上入らなければならない」

    という原理です。

    言ってみれば、「当たり前」となってしまう(だからこそ“原理”)話なのですが、これが数学では強力な論法として登場します。これを初めて用いた数学者がディリクレなのです。

    本書では、この原理の証明は載っていませんでしたが、あえて証明してみましょう。

    このような当たり前と思える事柄の証明に力を発揮するのは、「背理法」です。

    そのために結論の「少なくとも1つの巣には鳩が2羽以上入る」を否定してみましょう。「すべての巣には鳩が1羽以下しか入らない」となります。
    すなわち、n個の鳩の巣のそれぞれには、鳩が1羽いるか全くいないかになりますので、鳩の総数を考えるとそれはn羽以下になります。
    ところが、問題の設定では鳩はn+1羽以上いることになっていますので、これは矛盾です。
    よって、結論を否定した「すべての巣には鳩が1羽以下しか入らない」とした仮定が誤りであったことになりますので、「少なくとも1つの巣には鳩が2羽以上入る」が成り立つことになります。

    この「鳩の巣原理」を使うと

    「座標平面上にA~Eまでの5つの格子点(x座標,y座標が共に整数である点)が存在するとき、A~Eの中に中点も格子点になるようなペアが少なくとも1つは存在する」(P.145)

    というような結構難しい問題も解決できちゃいます。ぜひ、考えてみてくださいね。

    なお、浜村渚はこの「鳩の巣原理」の中にある一種の“やさしさ”で事件を解決してしまいます。

    「そもそもディリクレは『鳩の巣原理』とは言わず、『部屋割り論法』と言っていたんだけどなぁ」というゲスな突っ込みを入れていた私は、この数学愛にやられてしまいました。

    確かに気がつかなかったなぁ。

    他には、難関中学入試では押さえておきたい「パップス・ギュルダンの定理」なども登場しますが、個人的に気に入った小ネタは、

    「バナッハさんとタルスキさんに頼んだら、もう1個(バランスボールを)増やしてもらえるかもしれません」

    という渚のセリフ(P.53)です。バナッハ・タルスキの定理が現実世界で実現できたら、スゴイでしょうねぇ。

    ややネタバレになりますが、物語としてはキューティ・オイラーがいよいよ「黒い三角定規」と袂を分かつ展開になっていることも気になります。もともとキューティ・オイラーはテロ組織に似つかわしくなかったのですが、これからは「黒い三角定規」から独立したキューティ・オイラーと渚の絡みも楽しみです。

    さらに、今回の解説はなんと、あの結城浩さんです。結城さんの「浜村渚の数学ノート」への見方もわかって面白いです。
    ミルカさんと浜村渚の「夢のコラボ♪」が見られる日も近い?

  • 今回もまたおもしろい数学の定理たちが登場して、勉強にもなるし、楽しめるしでよかったです。
    鳩の巣定理はすごく綺麗な証明方法だと思いました。
    (2014/04/25)

  • 後書きを読むと、数学ガールの結城先生は、まだ本音では、このシリーズを認めてないのかな?
    丁度、イチローの日米通算安打記録を認めないピートローズのように。
    確かに大学レベル以上の高等な数学も扱う数学ガールに対して、浜村渚の扱う数学は、少し数学をかじった者にとっては常識で初歩的なものばかり。
    しかし、数学ガールが淡い青春物語を絡めた「数学解説書」なのに対し、浜村渚は数学を使った「ミステリー小説」だ。分野も違えば読者ターゲットも違う。
    この作品の妙味は、毎回、事件に数学がどんな風に関わってくるのかという奇想天外なアイデアの斬新さと、結城先生も指摘した鳩の巣原理のオチのように、テロリストをも改心させる浜村渚の数学愛に溢れた解釈の面白さにある。

  • 二次関数とかがあって、京都を舞台に、なんだか奇奇怪々な事件が発生し、いろいろな京野菜が置いてあるという「京野菜殺人事件」が発生。さあ果たしてどうなるのか?

  • 2016.05.08
    読了。
    鳩の巣の話が好きでした。
    あと、この巻で解説を書いていた結城浩さん、恥ずかしながら初めて知りました。
    数学ガールもそのうち読んでみようかな?

  • 読んでて、数学嫌いながらも、ほーってなる。渚ちゃんみたいな子が周りにいたら数学好きになりそう笑 数学とほかのいろんなことを関連づけているのがいつもすごいと思う。鳩の巣論、これを読んですぐあとの数学の授業で説明されて、渚ちゃんだーって思いました笑

  • 面白かった。   
    二次関数すら覚束なくなっていた自分の頭に絶望した。  

    簡単な数学の問題集でも買おうかしら。

  • 計算ノートも5冊目。今回はマジックキューブと放物線。判別式D=b2-4ac とかやったわぁ~(>_<)懐かしい~。

    修学旅行で京都に行く渚たちと、黒い三角定規の犯行声明を聞いて向かう武藤刑事。
    京都の町は京野菜連続殺人や放火でビリピり状態。連続殺人は三角定規に関係ないと思ってたらいつもの調子で数学的視点から共通点をみつけだしてしまう。

    武藤にだけ聞こえた、キューティーオイラーの助けて、という声や連続殺人の真相も最後に明らかになる。

  • (収録作品)遊星よりの問題X/鳩の巣が足りなくても/パップス・ギュルダン荘の秘密/京都、別れの二次関数

  • 青柳碧人による数学ミステリシリーズ第6弾。
    さすがにややネタが尽きてきたのか、息切れしてきたのか、はたまた趣向を変えてみたのか、テロ組織「黒い三角定規」に関わりのないエピソードも含まれていて、これまたベタな展開で道に迷って怪しい建物にたどり着くという、ホラーなどでおなじみのシチュエーションにニヤリとさせられた。
    一方で、ドクター・ピタゴラス亡き後の黒い三角定規がどんなことをしていくのかにも注目が集まる。特に、初期からの登場キャラクターたちが新体制の中でどんな位置付けになっていくのか、興味は尽きない。
    もちろん、本題(?)の数学ネタも小難しい話かと思いきや、相変わらずとてもわかりやすく解説され、例によってそれがちっとも説教くさくなく、それでいてきちんと腑に落ちる。それだけでなく、こんなに数学って面白いんだよね、という気にさせられるのだから、やっぱり作者はすごいと思う。

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著者プロフィール

1980年千葉県生まれ。2009年『浜村渚の計算ノート』で第三回講談社birth小説部門を受賞しデビュー。「ブタカン」「西川麻子」「猫河原家の人びと」などシリーズ多数。2019年刊行の『むかしむかしあるところに、死体がありました。』が各ミステリーランキングや書店年間ランキングにランクインし、本屋大賞にもノミネートされた。

「2023年 『あかがみんは脱出できない(1)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

青柳碧人の作品

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