今こそアーレントを読み直す (講談社現代新書)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062879965

感想・レビュー・書評

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  • 文章が読みやすいし、内容もわかりやすい。すいすい読める。この著者の他の著作も読んでみようかという気になった。

  •  20世紀のドイツの思想家であるハンナ・アーレントの思想を解説した本。

     アーレントに特徴的なのは、全体主義の危険性を唱えつつも、それに対して明確な解決策を述べないこと。自他、善悪といった二項対立、異質の排除といった「わかりやすさ」に与しないのが彼女らしい考え方。

     ちなみに彼女はイデオロギーに基づく「善」をちらつかせるナチス、ボリシェヴィキといった「世界観政党」に注意し、利害から離れて「善」とは何かを議論すべしという、決して楽ではない道を示している。その過程で人間の内側に人間の内側の全体主義を望むメンタリティを炙り出す。

     アーレントは「人間らしさ」という、皆わかっていそうでわかっていないことも問題として採り上げている。「ヒューマニズム」といえば今では「人道主義」と訳されることが多いが、元々は古代ギリシア、ローマへの回帰が訴えられたルネサンス期における人間らしさ、人間の本質を求める潮流=「人文主義」を指す。

     この中で彼女は人間の最重要条件を古代ギリシア以来の、他の人格を前提とする「活動」に求める。この「活動」こそが自分のみならず他者への配慮を伴う「公共性」を生み出す源泉であり、政治の基本的条件である。

     そもそも、人間らしさというのは愉快なものであるとは限らない。フランス革命においてロベスピエールは人間の「共感」を政治原理として強力に推進し、偽善性を否定しましたが、「弱者に共感しない者」に対し排他的、攻撃的になり、恐怖政治に走った。

     偽善(hypocrite)の語源は古代ギリシア語の「役者」(hypocrites)の見せかけの善であり、人間の善良な本性に懐疑的なアーレントにとっては、見せかけの全否定は人間性の全否定につながる。だから、必要以上に人を偽善者呼ばわりする人間は疑って掛かるのが賢明である。

     アーレントの名前は知っていましたが、その思想の内容は知らなかったのでためになった。刺激的な一冊。

  • この本が書かれたのは2009年3月。
    2008年といえば、中国では四川大地震や北京オリンピックが、アメリカでは金融危機やオバマ大統領(アメリカ初のアフリカ系大統領誕生)といったタームが飛び出した時期。地球上の各地域で起きた出来事が一国の問題ではなく、他国に影響を及ぼすことが明らかになった年ともいえる。
    そんな諸々の出来事に対し、政治家やコメンテーターは「分かりやすい」言葉で問題を浮き彫りにし、「分かりやすい」解決法や敵を提示する。そこで人々は「分かった」ような気になる。
    だからこそ、自分の頭で考えることの重要性を繰り返すアレントについて仲正さんは論じる。(のだと思う。)

    本の内容は、アレントの著作を順を追って見てゆくというスタイル。
    一つの著作を取り上げても大作でまとめるのが困難なのに、それを全部扱うわけだから漏れる概念や思想も出てくる。
    それでも、仲正さんはアレントが独自に意味づけた単語を使い、巧みに橋渡しをしてゆく。(だからこそアレントの概説書、それも新書としてはうまいと思う)

    そうして見たアレントは、結局どのような問題にも答えを出さないという姿勢を持っていたということが見える。例え意見を述べたとしても、それをして「こうすべきだ」と人々を扇動したり、誘導したりはしない。
    彼女は意見を人々に押し付けるのではなく、ただ述べているだけ。まるで、それに対する応答を期待するかのように。
    自分の意見を述べているのだから、右派にも左派にも属さないし、自らのオリジナリティが光るともいえる。そんな何処にも与さないアレントが浮かび上がる一冊である。

  • アーレントの魅力とは「わかりにくさ」にあると指摘する著者による、非常に「わかりやすい」アーレント解説書。

    本当にアーレントはこんなわかりやすい話をしてるのか、と思ってしまうほどわかりやすい。たとえば、「どの物語にも回収されちゃいけないよ」とか「人間本性なんてものが良いものに決まってるなんてヘンだよ」といったことをアーレントが述べている、と著者は述べる。アーレントの本から「答え」を出してしまったら、なんか非常に「わかりやすい」本に、つまり、アーレント本来の魅力も損なわれていると感じるのだ。

    そんなことは著者も当然わかりきっていて、それでも「わかりにくさ」をわかりやすく伝えるため、あえて話を「わかりやすく」している。新書だし、別にその方法自体には全然文句はない。だけれど、そうした「わかりやすくできる、わかりにくい部分」のほかに「なかなかわかりやすくならない、わかりにくい部分」がアーレントにはあり、それこそが著者が一番惹かれてるところなんじゃないか。本書を読むとそう感じるだけに、「もう少しわかりにくい」著者の解説書を読んでみたいという気にさせられる。

    個人的に非常に興味深かったのは最終章「傍観者ではダメか?」。アーレントって活動の概念からも明らかなように、だいたいの場合、直接の政治参加を訴えた思想家として紹介されることが多い。その強調が行きすぎて「直接参加にあらずんば人間にあらず」くらいアーレントは言ってしまってるイメージを持っていた。

    が、傍観者=スペクテイターの働きについてもアーレントは述べている、という著者の指摘は、これまで自分が抱いていたアーレント像が書き換えられる感じで興味深かった。

    古代ギリシア的な公共性=ポリスの復活、古代礼賛といったアーレント理解に対し、思考としての均一性だけはなんとか避けようとしているという「ミニマム」なアーレント的「べき論」解釈にも納得した。アーレントは人間の活動力はこうなれ!などとは言っていない。それはまさに我々皆の問題なのであって、唯一の答えがあるかのように問題を取り扱ってはならないと彼女は言っているのだから。

    あれだけ活動の素晴らしさや、労働のダメさを指摘しつつ、まるで古代=理想のような思想のクセに、それでも「答えは一つじゃない」って一体どういうことだよ?・・・って、こういうところがアーレントの「わかりにくい」ところであり、おもしろいところだと思うわけだ。

    最終章を除いて、話は非常に理解しやすい。意識的に持ち出される「わかりやすい」例もあるため、初学者や今までアーレントに触れたことがないという人でも、ついていくのは難しくないはずだ。

  • ハンナ・アーレントはドイツ出身、アメリカ合衆国の政治哲学者・思想家。
    ドイツ系ユダヤ人。1906年~1975年。
    ナチスによるユダヤ人迫害を逃れるため、
    フランスを経由してアメリカに亡命した。

    この本はアーレントの現代的な意味を読み解いている。
    アーレントが政治学者として注目されるきっかけとなったのは
    『全体主義の起源』という著作。
    「全体主義」を、西欧近代が潜在的に抱えてきた
    矛盾の現われとして理解しようとする。

    「全体主義」は全近代的な野蛮の現われではなくて、
    大衆民主主義社会に起因する問題だと見た。
    しかも、この三巻構成の著作を通して
    現状を打開する処方箋を示そうとはしていない。
    ここが「あえて」だと思えるかどうかが
    アーレントのファンになれるかどうかの分岐点であると著者はいう。

    全体主義発生の過程は
    「反ユダヤ主義によって全体主義のための物語的な素材が用意され、
     国民国家の生成と帝国主義によって大衆社会が醸成され、
     その経済的・社会的存立基盤が大きく変動し、大衆が動揺し始めた時、
     そうした大衆の不安を物語的に利用する世界観政党・運動体が出てきた」
    と著者はまとめる。

    ここが白眉であるが
    「肝心なのは、各人が自分なりの世界観を
     持ってしまうのは不可避であることを自覚したうえで、
     それが『現実』に対する唯一の説明ではないことを認めることである」
    とする部分だ。

    誰でも自分の考え方や思想が正しいと
    無意識のうちにフィルターがかかっていく。
    それは右も左もない。
    その危険性を常に意識することが大切だ!
    というのがこの著書の勘所だと感じた。

    そして、このことは「党派性」への危機感へとつながっていく。
    群れをなすととかくその「党派」内の物語に左右されがちだ。

    また、ナチスの悪の象徴的なアイヒマンの裁判を傍聴して
    アーレントはこう分析したと著者はいう。
    「平凡な生活を送る市民が平凡であるがゆえに、
     無思想的に巨大な悪を実行することができる」

    さらに
    「『社会的領域』において阻害が進行し、
     人間らしさが失われていくにつれ、
     人々は『親密圏』の中に、
     “人間”らしい魂の繋がりのようなものを
     求める傾向を強めていく」とアーレントは指摘するという。
    そこにのめり込んでしまって、公的活動を放棄する危険性を語っている。

    アーレントは
    「未来」志向の「意志」と対比する形で
    「判断」を「過去」志向の精神の作用として性格付けている。
    そして、「判断力」は、「過去」と「現在」と「未来」を、
    そして個人の「精神の生活」と「活動的生活」を結ぶ、
    極めて重要な能力だと、著者はラスト近くで位置付ける。
     
    まとめとして
    「彼女の『政治』哲学からすれば、
    右であれ左であれ、『人間の自然な本性』を一義的に定義し、
    人民を最終的な『解放』へと導こうとするような思潮は、
    『複数性』を破壊し、全体主義への道を開くものに他ならない」

  • アーレントは人間の条件として3つあげている。
    それは「労働」「仕事」「活動」である。

    このなかでもっとも力点を置くのは、「活動」である。
    それは物理的な暴力によるものではなく、言語や身振りによって他の人に対して働きかけ、説得しようとする営みである。
    これは人にしかできない。
    いいかえれば、「世界」には自分一人がいるわけではなく、複数の人格が存在していることを理解したうえで、お互いの人格に影響を与えあおうとする営みである。

  • 短いですがこちらに↓
    http://esk.blog9.fc2.com/blog-entry-697.html

  • [ 内容 ]
    「分かりやすさ」を疑う。
    アーレント的思考が、現代社会を救う!
    閉塞した時代だからこそ、全体主義を疑い、人間の本性・公共性を探る試み。

    [ 目次 ]
    序論 「アーレント」とはどういう人か?
    第1章 「悪」はどんな顔をしているか?
    第2章 「人間本性」は、本当にすばらしいのか?
    第3章 人間はいかにして「自由」になるか?
    第4章 「傍観者」ではダメなのか?
    終わりに 生き生きしていない「政治」

    [ POP ]


    [ おすすめ度 ]

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    読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)

    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 著者の宣言通り、アーレントの思想を紹介することよりも、現代社会の諸問題をアーレントの思想を著者の解釈で論じるという読み物として非常に面白い本。まあ、どんな本でも突き詰めれば著者の解釈ではあるのだが、この著者ほど、そうしたことに意識的になって、刺激を与えてくれるものもなかなか無いのではないか。

  • 内容忘れた。
    印象薄い。
    かっこつけた。

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著者プロフィール

哲学者、金沢大学法学類教授。
1963年、広島県呉市に生まれる。東京大学大学院総合文化研究科地域文化専攻研究博士課程修了(学術博士)。専門は、法哲学、政治思想史、ドイツ文学。難解な哲学害を分かりやすく読み解くことに定評がある。
著書に、『危機の詩学─へルダリン、存在と言語』(作品社)、『歴史と正義』(御 茶の水書房)、『今こそア ーレントを読み直す』(講談社現代新書)、『集中講義! 日本の現代思想』(N‌H‌K出版)、『ヘーゲルを越えるヘーゲル』(講談社現代新書)など多数。
訳書に、ハンナ・アーレント『完訳 カント政治哲学講義録』(明月堂書店)など多数。

「2021年 『哲学JAM[白版]』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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