今こそアーレントを読み直す (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062879965

感想・レビュー・書評

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  • これは必読だと思う。
    ひとつに、とても「わかりやすい」。
    ふたつに、読んでるとすごくモヤモヤするし、考えさせられるということ。
    アーレント・仲正はおそらく遂行論的矛盾を犯しているけれども、それでも読む価値がある。

  • ハンナ・アーレント本を読んで、仲正先生ならばどのように解説するかと興味をもって読んでみた。

    ハンナ・アーレントの生涯や著作について、仲正先生なりの理解や解釈を加えつつ、この日本の文脈等で説明してくれる。ハンナ・アーレントの著作によれば、悪人がいるわけでもなく、環境や思想が人の行動を変化させていくという面については、誰にでもあてはまると思った。

    さっと読めて、アーレントの本質がわかりやすい本だと思う。

  •  「複雑なものは複雑なままに…」の言葉に惹かれて購入。アーレント入門書だがどうも翻訳者自身による本のようで、やさしくアーレントの哲学に導いてくれる。私ももっと詳しく知りたいと感じた。全体主義がなぜ起こるのかが自分の思っているよりずっと容易なのではと思えた。そして、自由であるために個人とセカイ(社会、政治、他者など)がどう関わっていけば良いのか、そんな疑問に答えてくれているような気がする。再読せねば

  • [2013-01-25]
    1回目読了

    ナショナリズム=「国民意識」の起源

    19Cのフランス革命とナポレオン戦争
    フランスの侵略に対する他のヨーロッパ各国の対抗意識
    =統一国家の必要性→「国民」意識の萌芽
    =19Cヨーロッパ諸国の歴史はフランスに対抗するための「国民国家」生成を巡る歴史


    国民国家形成の過程=「自己内部に存在する」異分子の排除

    ⇒「自己の純化」には、自己の内部に敵をつくる必要性がある。
    ←異分子としてやり玉にあげられたのがユダヤ人。
    既に「市民社会」の概念が発展していた当時の時点でユダヤ人は各国民の内部に入り込んでいたため。



    全体主義の理論的根拠とされたフランス革命

    「全体主義」の理論的根拠とされたルソーの「自然状態」と「全体意思」。
    アーレントはこの2つが結びついてフランス革命の指導者たちを「解放の政治」へ向かわせてしまった、とする。
      ・「人間不平等起源論」において、ルソーは貧富の差が生じる前の、所有の観念がない原始的人間を理想とする=「自然状態」
      ・「社会契約論」において、ルソーは国家の成立には「一般意思」が形成されている必要があるとする。
    一般意思とは、各個人の意思を離れた国家としての意思(法人に類似)のことをいう。ルソーは、この「一般意思」が表明されたものが「法」であり、各人がこの一般意思に「拘束」されることを承認することで国家が成立するとする。

    ロベスピエールをはじめとするフランス革命の指導者たちは「自然状態」にある人間を理想とし、これを弱者に類似する者とする。そして、貧困にあえぐ弱者に「共感」し、その「解放」を図ることの重要性が説かれた。すなわち、これが「一般意思」となっていた。
    →「共感の政治」は、理念に共感しない者を排除し、政治体制をより純化していく過程を経る。
    ⇒「全体主義」へと陥る。


    アメリカ革命と憲法 constitution

    このようなフランス革命の解放の理論に対し、「自由な空間」を「創造」すべきものとしてconstituteすることに成功したアメリカ革命をアーレントは評価する。


    「自由とは何か」(p81-)、アイザイア・バーリンの「全体主義と積極的自由」についても参照。

  • 少し飛躍と誤用あり、読み易さが残念

  • 全体主義を批判したハンナ・アーレントに関する本。

    全体主義が形成されるメカニズムに関するアーレントの分析はなるほど!と思った。

  • アメリカの政治哲学者ハンナ・アレントに関心を寄せていいるけれど、実際には「積ん読」状態を解消できない人(=私)向けの解説書(かな・・・?)。

    彼女の系譜をたどりつつ「どういう問題に取り組んできて、何を発見し、どのように思想形成され、世の中にどう影響を与えてきたのか」という、ふつうに期待するような解説とはちょっと違い、筆者の自己解釈に基づきアレントの思想の核心部分のみ丁寧に解説しているといった感じ。
    解説は難解すぎず、面白い。味のある大学の先生の講義を聞いているようで、つい引きこまれてしまった。いろいろな発見もあった。

    そもそも「新書」の題材とするのは容易でないテーマだと思うが、レベルも量もちょうどよく収まっている。『カント政治哲学の講義』の解説あたりは、やや詰め込み過ぎ感があったが・・・。(これ以上難しかったり、これ以上量があると通勤読書には向かない。)

    一度読むだけではもったいなく、時期をあらためてまた読んでみたいと思う。(ただし、この本で「わかったつもり」が深められれば良く、アレントを読んでみようとは、やはり思えない。)

    (Z市図書館蔵)

  • ハンナ・アレントはドイツで生まれ、ナチスの迫害を逃れてアメリカへ渡った政治思想家。ちなみに女性。

    このアレント(著者の読み方だと『アーレント』)をもう一度読み直しませんか…というのが本著の首長である。

    確かに、最近の東京電力を見ていると、『エルサレムのアイヒマン』そのものだと思う。

    『エルサレムのアイヒマン』は、ナチスの高官としてユダヤ人を大量にガス室へ送り込んだアイヒマンの裁判の傍聴記録だ。

    世間の人は思う。「あれほどの大量虐殺をしでかした悪魔のような人間なのだから、さぞかしの巨魁が法廷に出てくるのだろうと」 ところが、出てきたアイヒマンはさえない中年のオヤジである。しかも、堂々と自説を述べて論陣を張るのかと思いきや、組織のためにやったのだ、私は悪くないと自己弁護をしでかす始末。

    だからこそ怖いのだとアレントは言う。誰でもアイヒマンになる可能性を秘めているのだと。アイヒマンを糾弾する人々は、果たしてアイヒマンと同じ境遇に立った時に、アイヒマンと異なる選択を選べるのかと。

    東京電力を擁護するつもりはない。しかしながら、東京電力幹部の記者会見を見ていると、まさしくアイヒマンを裁いた法廷はこのようなものだったのだろうと感じる。そして、東京電力を糾弾している輩も、アイヒマンを糾弾していた人間と同じ顔をしていたのだろうと。        



    さて、一度でもアレントを読んだことのある方は骨身に沁みて感じていることだろうが、アレントの文体は難渋である。著者である仲正氏に言わせれば、「わかりにくい」「もどかしい」内容が延々と続く。

    そのアレントをもう一度読み直す必要性がどこにあるのか。著者はそれを公共性の復活、人間の本性の確認に求める。

    うん、それは分かる。分かるのだが、著者は肝心なところで思い違いをしているようだ。

    「アーレントにしたがって考えている限り、我々がどれだけあがいても、アーレントが『人間の条件』で再発見したような意味での「人間性」を獲得するのは、ほぼ不可能であるように思われる。現代社会には、経済的利害から完全に切り離され、全市民が対等の立場で自らの意見を開陳することのできる「公的領域」など存在しない。このことをアーレントの公共性論の限界だとみなす政治思想・社会思想の研究者は少なくない。
     加えて、アーレントの議論は、そもそも古代ギリシアやローマのポリス的な共同体をモデルにしているので、同じような電牢を持たない文化圏に属する人々は最初から、彼女の想定する「人間性」を共有していないということになりかねない。実際、公共の場で自らの「意見」を呈示し、その優劣を競い合うことを通して、「市民」としてのアイデンティティを獲得するというのは、かなり特異な伝統である」
     (本著:p112-113)

    「特異な伝統」どころではない。公共の場で自らの「意見」を呈示し、その優劣を競い合うことなど、田舎にいけばいくらでも見ることができる。西欧的なディベートや議論の形式をとらないだけであって、本質は同じことなのだ。

    アレントの理論を「そのまま」導入すれば齟齬が発生するのは当たり前。本当に必要なことは、我が国の伝統的な決め方の論理の中に、アレントのエッセンスをどのように組み込むかではないのか?…と思う。

  • 非常に分かりやすく、面白かった!
    アーレントの主著『全体主義の起源』『イェルサレムのアイヒマン』『人間の条件』『精神の生活』について、それぞれ分かりやすく解説してくれる。

    アーレントが目指した理想の政治は、人間の複数性に基づくヘーゲル的な市民社会だった。
    その人間の本質を高め、共感の感覚を拡大するものを理想とし、複数性を潰そうとする思想を批判する。

    政治思想の一歩目に非常に有用な一冊だと思う。

  • 文章が読みやすいし、内容もわかりやすい。すいすい読める。この著者の他の著作も読んでみようかという気になった。

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著者プロフィール

哲学者、金沢大学法学類教授。
1963年、広島県呉市に生まれる。東京大学大学院総合文化研究科地域文化専攻研究博士課程修了(学術博士)。専門は、法哲学、政治思想史、ドイツ文学。難解な哲学害を分かりやすく読み解くことに定評がある。
著書に、『危機の詩学─へルダリン、存在と言語』(作品社)、『歴史と正義』(御 茶の水書房)、『今こそア ーレントを読み直す』(講談社現代新書)、『集中講義! 日本の現代思想』(N‌H‌K出版)、『ヘーゲルを越えるヘーゲル』(講談社現代新書)など多数。
訳書に、ハンナ・アーレント『完訳 カント政治哲学講義録』(明月堂書店)など多数。

「2021年 『哲学JAM[白版]』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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