- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062902854
作品紹介・あらすじ
美しい少年の人形を夜ごと愛撫する女。
夢によって浸透された存在になっていく現実の少年。
奇妙な透明感と、夢と現実の交歓。
高橋たか子の独特な神秘主義を端正な文体で感覚的に描く幻想美の世界。
男女の恋愛の、より深く深くと求めた内部の実在を鮮やかに浮かび上がらせた、
華麗なる三部作。
感想・レビュー・書評
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愛ではなかった。
玉男、澄夫、そして雪生、物語は展開し、やがて繋がっていく。
「他方、私のほうは、雪生という元型が日に日にはっきりしてきた。その元型はいわば私たちのなかにもあるのであった。二人で、それぞれ自分のなかを井戸を覗くふうに覗くと、いわば共有している、底なしの井戸の水が見え、その水の奥の奥に雪生という元型がちらちらと仄見える。いや、むしろ、雪生と私の関係という元型が仄見える。そうなのだ、関係そのものの元型があるのであった。
これまで経験したことのないそれを、私は私で発見していった。私自身も、やはり、そのようにして思い出しているのであった。そのことで自分が巨きくなっていく、いうにいわれぬ感じを味わっていた。存在の井戸から確実に汲み上げているものがあるのだ。
その元型そのものは普遍なのだが、思い出す能力がある人しかそれを知ることはできないらしい。私自身、殊更、そういう能力にめぐまれているらしい。他の能力において劣っている分だけ、いっそう。
しかも思い出し方というものがある。それが思い出す人の創造の部分である。私はこの世の何処にもありえぬ私固有の思い出し方を発見していった。」
「想像力とは、自分の知らないことを思い出す力のことだ。」
私は一切を知っている。だから私は思い出す。予め知っていることを。人はそれを創造と呼ぶ。
我々が新たに作り出したと思っていることは、すべて予め知り得たことだ。
だが、それを証明する手立てはない。
私が一切を知っているだなんて誰が知っている?それは神のみぞ知る、など、言いだした途端につまらないものになってしまう。
与えられたものとしての創造なんて、キリスト教の影響下にあるようで(実際そうなわけで)解せないが、文章は綺麗だしストーリーも面白い。
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「誘惑者」ですっかり嵌ってしまった高橋たか子2冊目。「人形愛」「秘儀」「甦りの家」の3編いずれも美しい幻想のうちに包まれた官能性にうっとりしてしまう。肉体を通り抜けて果たす男女の性愛は水晶のように透き通りながらも、深いところで血が通っていて酷く生々しい。作中にある「命の闇」はきっとそれを指すのだろう。特に美少年好きにはたまらないであろう「人形愛」がお気に入り。
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濃密なる薔薇迷宮の回廊にて蝋人形と火遊びにふけること夜ごと日ごと
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4/28
内容(「BOOK」データベースより)
『美しい少年の人形を夜ごと愛撫する女。夢によって浸透された存在になっていく現実の少年。奇妙な透明感と、夢と現実の交歓。高橋たか子の独特な神秘主義を端正な文体で感覚的に描く幻想美の世界。男女の恋愛の、より深く深くと求めた内部の実在を鮮やかに浮かびあがらせた、華麗なる三部作。』
人形愛
(冒頭)
『私は玉男を待っていた。玉男は十八歳である。』
『人形愛/秘儀/甦りの家』
著者:高橋たか子
出版社 : 講談社
文庫 : 320ページ
メモ:
アルベルト・マルティーニ「愛」
武満徹「愛」 -
2017.07.26
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正直、楽しむ、タイプの作品ではなくて、どこか勉強のような気持ちで読み終えた。
繰り返し語られるモチーフ、硬質なエロティシズム。ただ、これを書いた人が自分の親よりもはるか歳上の人なんだ、ということに少なからず衝撃。 -
高橋たか子 1932年(昭和7年)- 2013年(平成25年) 夫は作家の高橋和巳。(Wiki情報)不勉強につき初めて知る作家でした。さすが講談社文芸文庫らしいマニアックなチョイス。面白かったです。収録されているのは類似テーマの3作品(息子のような十代の美少年とアラフォー女性の謎めいた関係)。
個人的には最初の短編「人形愛」が一番好みに合いました。短編ゆえ余計な思想が最小限で創作物として完成度も高かった気がする。夢に出てきた蝋人形の美少年を「玉男」と名付け、夢のなかで愛撫を繰り返すうちに、現実の世界にも玉男そっくりの美少年が現れる。薔薇の咲き誇る庭、かつて夢見ていた理想の未来図、ラストでメビウスの輪がくるん、と繋がるように裏表が一体になる感覚が鮮やかでハッとさせられた。
「秘儀」あたりから少し難解になり、ルドルフ・シュタイナーのテオゾフィー(神智学)だの、ちょっと神秘主義思想が匂わされてくるのだけれど、廃屋と、またしても少年を模した蝋人形など、ゴシックな雰囲気が楽しめるのでまだ許容範囲。こちらの美少年は「澄生」で、最初主人公と母子かと思ったら、どうも違うらしい。謎めいた部分が多いけれど、西洋のゴシックホラー的に読めば面白いと思う。
「甦りの家」はプロローグ含めて3部構成、3作の中ではかなり長めで、その分小説としての面白さより作者自身の思想の主張が露骨になってきてちょっと興を削がれる。こちらもやはり息子のような年齢の美少年「雪生」を愛人?にしているアラフォー女性(どうやって生活してるのか、どこで彼と出会ったのかなどの説明は皆無)が主人公で、かといって官能恋愛小説ではけしてなく、主人公はせっせと自分の神秘主義的思想に少年を洗脳しようと、あれこれおかしなことを吹き込んでいる。彼女の言ってることはそれなりにわかるし興味深くはあるのだけれど、無垢の少年に対して支配的にふるまい、粘着質につきまとってる感じがちょっと気持ち悪くなってきて、苦手でした。
全体的に、植物的な官能、というような表現で統一されているので文章自体はとても好き。他の作品も読んでみたい。