銀河鉄道の父 (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (528ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065183816

感想・レビュー・書評

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  • 映画を観る前にと、読了。

    父親視点から語られる賢治像が、これまで持っていたイメージとは一味も二味も違う角度で見えて、賢治の人間臭さが非常に伝わってきた。放蕩っぷりが凄い笑。

    父親と息子。最も近い関係性だからこそ、上手く距離を縮められない互いの意地や不器用さが、終始絶妙に描かれていて、現代にも置き換えられる親子像がリアルだった。

  • 面白いです。

    フィクションなのでしょうか。
    宮沢賢治のお父さん目線で書かれた本。
    宮沢賢治は、お坊ちゃま育ちだったのですね。
    お父さんも学びたかったが、家業を継ぐことを指示され出来なった。そのため、子ども達を学校に行かせた。

    何が正しいのでしょうね。
    我が子の子育てにも悩みます。
    理系の大学生の次女。やりたいことがわからないから大学院に行くか考えていると。
    私は、だったら就職した方が良くないか?と思いますが…夫は、理系は今は大学院に行かないと就職に不利と。でもね、中途半端にプライドだけ高くなっても、仕事につかないとしょうがなくないかな…と思うのは私だけだろうか…。

  • 彼の作品はともかく、一生を俯瞰で見れば、理想は高いが腰の座らない、自立のできないパラサイト息子だった。
    だからかわいい息子だったのか、だけどかわいい息子だったのか。
    小説だと言い聞かせないと、これが事実だったんだと思ってしまう説得力。

    子どもの頃の賢治は、近所の子どもたちの遊びのリーダーだった。
    腕力があるわけでもないのに、友達は彼に従った。
    なぜか。

    ”ひとたび、――こうする。と言ったら何があっても意見を枉(ま)げなかった。なるほど無敵だろう。大人の世界もおなじだが、議論に勝つのは弁の立つ人間ではない。話を聞かない人間なのである。”

    理想主義者で、人見知りで、まっすぐで、勤勉で、体が弱くて、甘ったれ。
    ああ、我が子だったらたまらんなあ。
    ところが父・政次郎は違った。

    天保生まれの父に厳しく育てられた政次郎は、成績優秀だったのに、「質屋に学問は必要ない」と進学を許されなかった。
    政次郎の父・喜助は、傾いた家を建て直すため自分にも家族にも厳しい人だった。
    だから政次郎もそうなるはずだった。

    ”あやしてやりたい衝動に駆られた。(中略)家長たるもの、家族の前で生(なま)をさらすわけにはいかぬ。つねに威厳をたもち、笑顔を見せず、嫌われ者たるを引き受けなければならぬ。”

    ところが、厳しくしようと思う端から、愛情があふれ出てしまうのである。
    賢治が小学校に上がる前、赤痢になった時、隔離病棟で寝ずの看病をしたのは母のイチではなく、父の政次郎だった。
    さすがにそのようなことをする父親は、当時皆無である。

    でも、江戸時代の庶民の家では、職住近接で共働きが当たり前なので、割と父親も子どもの面倒を見ていたと聞いたことがある。
    明治初期に来日したイザベラ・バードも、日本人男性ほどよく子どもの面倒を見る人たちはいないのではないかと驚いていた。
    だから、政次郎は明治という新時代の父親(本文より)というよりも、時代遅れの男なのかもしれない。

    政次郎は賢治のことをとてもよく見ている。
    だから頭ごなしに怒るということがあまりない。
    ”子供のやることは、叱るより、不問に付す方が心の燃料が要る。”
    とはいえ、鉱物のための標本箱を買ってくれと言われて、500箱も買うのは親ばかじゃないか?

    そんな調子で賢治は亡くなる数年前まで親にお金を出してもらうことを当たり前だと思っていた節がある。
    地道にコツコツよりも一気に大きな話に夢を見るのである。
    当然全額親に出資してもらうつもりで。

    けれども、妹トシはそんな兄の長所も短所もわきまえたうえで、兄の応援をする。
    幼い頃から仲の良かった兄妹。
    ふらふらしている賢治よりよほどしっかりして、頭もよく、気働きのできるトシを「男だったら」と残念に思う政次郎。
    トシの死は、手放しで嘆くことができない分、賢治よりも政次郎の方が辛かったかもしれない。

    賢治が倒れたとき、そばで看病したのは政次郎だった。
    世間的な成功を収めることはできなかったが、賢治はやっぱり政次郎にとって大切ないとし子なのである。

    政次郎の信仰する浄土真宗と賢治の信仰する日蓮宗との対立。
    学問が許されなかった政次郎の、進学をしても結果を出すことのできなかった賢治へのもどかしさ。

    どこを取っても読みごたえのある作品でした。
    読んでいるとき、iPodからの音楽が一切聞こえていませんでした。
    そのくらい夢中で読める本。

  • 親になったらもっと泣けてしまうかもしれない、それくらいの愛を感じた。

  • 宮沢賢治の父親がこんなにも子思いで、親ばかとは。それに対して宮沢賢治はこんなにも我儘で穀潰しとは。もう二度と彼の童話や「雨にもマケズ・・・」の詩を同じように味わえないかも。でもこんな父がいたからあの銀河鉄道の夜が生まれたと納得もできる。

  • 父・政次郎の賢治に対する深い愛情がこれでもかと描かれている。病に倒れて弱っていく賢治と看病する父の姿を描くラストは切ない。

    映画も見てみたいし、改めて宮沢賢治の作品も読んでみたい。

  • 宮沢賢治は多くの有名な詩や童話を残している人だから、さぞかし立派な人間なんだろうなと思っていた。
    しかし、恵まれているからこその傲慢さがあったり、父親を尊敬するが故の劣等感を抱えていたり、あまりにも人間らしい賢治の人物像を見ることができた。
    政次郎に関しては、「父親でありすぎる」の一言で表せるような、子供のためにも厳格な父親でありたいという想いと、それでも辛い思いはしてほしくなくて甘やかしてしまう気持ちとで日々葛藤していて、賢治とのあまりにも親子を感じる接し方が愛しかった。
    まさに家族があってこそ、文士「宮沢賢治」が生まれたのだという物語に心を打たれ、改めて宮沢賢治の作品を味わいたくなった。


  • 教科書でしか読んだことがない宮沢賢治
    彼の人生が知れてとても面白かった!
    親バカな政次郎がすごく可愛いと思いながら
    読んでました。
    まさに親の心子知らずだなあと
    父親目線で賢治のことを知れて楽しかった

  • ・親の力ってすごい
    ・雨ニモ負ケズを「言葉で遊んでいた」という解釈をしたことに目から鱗
     一冊読み終えて賢治のイメージが変わり、解説文に書かれていたように、現代ではこの詩を少し真面目に捉えすぎているということに同意した
    ・作者の腕だと思うけど、昔の話なのに現代的な感覚で読めた。会ったこともない昔の人を本の中で蘇らせる?(創り出す?)小説家ってすごいなあ

  • 映画化されて、観る前には読んでおきたかった。
    宮沢賢治に持っていたイメージとは違う面を見た気がする。宮沢賢治といえば朴訥で、貧乏で不器用で、農民に寄り添って生きた人、そして薄幸な末に病気で早世するというイメージだった。
    それが田舎の資産家の家に生まれたからこそ、学をつけてもらえて、いろいろな事業に手を出そうとする。 それほど薄幸ではなかったのかな。石川啄木と重なってしまっていたのかもしれない。
    確かに若くして病気で亡くなるのはそうだが。
    「永訣の朝」の妹トシとの「あめゆじゅとてちて…」のところは有名で、もっと貧しいイメージだったが、わざわざ病室もしつらえて看病の末に亡くなっていたのか。

    宮沢賢治も、生前に文学的に認められていれば、とは思う。 でも早くに認められていたら、彼の独自の世界は花開いていたのだろうか。そんなことも思ってしまう。銀河鉄道などは他の人に思い浮かぶことはあったのだろうか。それがなければ松本零士の世界はどうなっていたのだろうか。
    スリーナインの世界観は変わっていたのかな

    父の目からみる賢治は、ちょっと新しかった

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著者プロフィール

1971年群馬県生まれ。同志社大学文学部卒業。2003年、第42回オール讀物推理小説新人賞を「キッドナッパーズ」で受賞しデビュー。15年に『東京帝大叡古教授』が第153回直木賞候補、16年に『家康、江戸を建てる』が第155回直木賞候補となる。16年に『マジカル・ヒストリー・ツアー ミステリと美術で読む近代』で第69回日本推理作家協会賞(評論その他の部門)、同年に咲くやこの花賞(文芸その他部門)を受賞。18年に『銀河鉄道の父』で第158回直木賞を受賞。近著に『ロミオとジュリエットと三人の魔女』『信長、鉄砲で君臨する』『江戸一新』などがある。

「2023年 『どうした、家康』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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