ミチクサ先生 下

著者 :
  • 講談社
4.01
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感想 : 40
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  • Amazon.co.jp ・本 (298ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065257432

作品紹介・あらすじ

皆が読みたい小説を書いてほしいんです!

「こんなに美しい富士山と海を、どんな文章でお書きになるのか、読んでみとうございます」鏡子の言葉は、金之助の胸の奥を揺り動かした。

英語教師として松山で子規と過ごした金之助は、次に赴任した熊本では鏡子を迎えて新婚生活が始まる。英国に留学している間に子規は亡くなり、帰国すると帝国大学の教師に。高浜虚子から子規ゆかりの句誌「ホトトギス」に小説を書いてほしいと頼まれ、初めて書いた小説「吾輩は猫である」が大評判に。やがて東京朝日新聞の社員として連載した数々の小説で国民作家となり、後進の文学者たちにも多大な影響を与える――。

処女作「吾輩は猫である」がいきなり評判となり、「坊っちゃん」で国民作家に。

『機関車先生』『いねむり先生』に続く「先生」シリーズ第三弾!

感想・レビュー・書評

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  • 面白かった。漱石が亡くなるところまで、きっちり終わっているので、読了感が満足。下巻は東京に戻り、猫を書き、小説家になっていくのだが、やはり英国留学と子規との別れ、吐血と漱石のバイオの山場はきっちりと抑えられている。
    猫は小学生高学年から読んで、各年代で読んでるが、何度読んでも面白いと思うねぇ。もちろん、好みでいうと、行人とか虞美人草とかのほうが好みなんだが、猫は今のラノベに近い痛快さとスピード感がたまらん。
     シェークスピア、読書論、芸術美術、人物、文章にも目利きをした漱石が、やさしくわかりやすく描かれている。個人的には、もうすこしメンタルアップダウンの激しい、エキセントリックで線の細いところのある歌舞いた人物を想像していたので、ちょっとズレはあるが、これはこれで楽しく読めた。

    p255
    「早稲田から輿に乗せられて、旅に出た。一流の船室で移動し、一流の宿に泊まり、一流の人々に挨拶を受け、金之助はたちまち体調を崩した。」

  • 伊集院静さんの○○先生シリーズ、且つ、夏目漱石先生ときたら読まないわけにはいかない。
    ノボさんとの交流と別れ(真の友との関係が羨ましい)、松山熊本での教師生活(教わった生徒が羨ましい)、帝大の講義や講演会(聴いてみたかった)、寺田寅彦他の弟子との交流(木曜会に入りたい)、鏡子夫人との生活(思っていたよりも素敵な夫婦だ)、そして猫との関係。
    3度目の漱石制覇がしたくなった。

  • 【文豪】という言葉が初めて使われたのが、漱石が亡くなって新聞や雑誌がこぞって追悼特集を組む中、『新小説』が発刊した『文豪夏目漱石、臨時号』だったそうだ。
    夏目漱石は、元祖‼︎文豪だったのだ。
    「日本の小説」というものの土台は漱石が作ったのかもしれない。

    この作品は、小説というより伝記かな〜などと思いながら読んでいた。
    時代背景が丹念に描き込まれ、歴史小説のようでもあった。
    その流れの中で、漱石が、有名な作品を次々と生み出すきっかけも分かり、興味深い。

    しかし、読み終われば、やはり小説らしく「人間」を描いた部分がよく思い出される。
    正岡子規との深いつながり。
    個性的な奥様・鏡子、子だくさんの家庭。
    漱石を慕って入り浸る寺田寅彦。
    異国の地で知る親友の死。
    福猫との別れでは、猫の訃報を葉書で友人に知らせる漱石先生である。
    毎日のように自宅に詰めかける学生たち。
    新しい才能を発掘し、活躍の場を与えたのも漱石先生だった。

    おしまいの、芥川龍之介が寺田寅彦に漱石の昔の話を聞く場面が良い。
    寺田は、漱石流「築山の登り方」を教えるのだ。
    山は、いかに早くてっぺんに登るかではない。
    どこから登っても、転んでもいい。
    むしろ汗を掻き掻き半ベソくらいした方が、同じてっぺんに立っても見える風景は格別。
    『ミチクサはおおいにすべし、と。

  • ■ Before(本の選定理由)
    上巻を読了。まだ小説は書いていない。
    正岡子規には死の影が近づいている。
    果たして漱石はその後どんな日々を過ごしたのだろう。

    ■ 気づき
    最後に会った日に正岡子規が漱石に送った句「秋の雨 荷物濡らすな 風邪ひくな」。死期を悟ったなかで、こんなにも気丈に振る舞い、ユーモアを大切にした姿に涙が止まらなかった。
    また、漱石が文学を志すのは意外に遅く、公費留学中のロンドンで、安アパートで一人、35歳の正月を迎えた朝だったという。

    ■ Todo
    この感慨を胸に漱石の小説を読み返したから、きっと違った風景=漱石の日々の断片を見ることだろう。分量で敬遠していた「吾輩は猫である」も読んでみよう。

    そして、何かを始めるのに、遅すぎるということは無い。
    自分の中の「兆し」の感覚を大切にしてあげよう。

  • 若くして亡くなり、波乱に満ちた人生だったと思いますが、実際、金之助本人としてはこんな感じで案外あっさりとしたものだったのかも知れません。月並みですが、漱石の作品を久しぶりに読んでみたくなりました。

  • 下巻では、「草枕」の舞台となった小天(おあま)温泉への旅行、イギリスへの給費留学、親友・正岡子規の死去などを経て、小説家としての地位を確立し、晩年に至るまでを描く。史実に沿いながらも、それぞれの場面が明るく生き生きと、また、鮮やかに読み手に伝わってくる。
    漱石(金之助)がイギリス留学中に発狂したのではと言われたその背景、教師生活がいやになり小説家を目指す上での苦悩もよく描写されていた。
    また、今更ながらではあるが「ホトトギス」に掲載された「吾輩は猫である」に始まり「坊っちゃん」、「草枕」、「三四郎」、「こころ」そして晩年を迎え、未完となった「明暗」など多数の名作を残したことの偉大さを実感した。加えて、執筆のきっかけやモデルについても触れられていて小説の舞台裏や漱石という人物の奥行を知れたのも良かった。
    さらに、寺田寅彦、中勘助、内田百閒、島崎藤村、志賀直哉、芥川龍之介など、そうそうたる顔ぶれの作家が漱石と交流があり、彼を慕っていたことにも驚かされた。
    日清、日露の戦争、文明開化など明治期の時代背景の挿入、ミレイが描いた水辺に浮かぶオフィーリアなど美術作品の紹介もあり、勉強になることも多かった。

  • 夏目漱石を取り巻く名だたる人物たち。
    時代考証も丁寧にされている。
    私たちは夏目漱石の作家としての顔しか知らないが、彼は49歳の生涯を終えるまでに数多くのミチクサをしている。しかしながら凡人とは違い、どのミチクサも一流だから感心してしまう。
    家庭人としては多少変わり者だった衒いもあるが、奥様の人物像も素晴らしく家庭はうまくいっていたと見られる。

  • 筆者による漱石の作品解説の様相もあり、漱石文学の魅力を知る書籍としても楽しめた。

    この時代、親しい人の死が人生の早い段階から身近にあるということが、文学に大きな影響を与えていたと感じる。幸福なことながら、それは現代文学が失った感覚なのかもしれない。

    またこの時代、文学というものが娯楽の中心、王道であったこと。これもまた今とは違った感覚なのであろう。

    • mktfryさん
      著者の病気により連載が途切れたときは、悲しかったです。完結してよかった。
      著者の病気により連載が途切れたときは、悲しかったです。完結してよかった。
      2022/08/01
    • kame3hoさん
      人並み外れた強運の持ち主なところ、現代の無頼派たる生き方もこの方の魅力ですよね。回復されてよかったです。
      人並み外れた強運の持ち主なところ、現代の無頼派たる生き方もこの方の魅力ですよね。回復されてよかったです。
      2022/08/17
  • ほぼ正岡子規との関係を通じて描かれる夏目漱石の生涯。

    漱石としての活動年数は短く、夏目金之助として書かれた本書はその実像に近く感じる。

    作者の小説は余り読んだことがないが、親しみやすくどこか暖かみやユーモアを感じさせるもので、本書にふさわしい。

    短い活動期間に、前例のない小説という形式を開拓し、傑作を多数残し、数多の後進を育てた漱石は正に巨匠、文豪であったが、人間的な魅力にも溢れた人物だったことだろう。

  • 生涯の友を失って無念だろうけど~流産した妻を湘南で労り,熊本の五高では寺田寅彦が始終出入りしていた。四年経過して,文部省の金で倫敦に留学し,不足する金に困りながら過ごす内に子規が死んでしまった。帰国した後の列車には妻と義父が国府津から乗り込んできて,新橋では娘二人を含む出迎えがあった。神経衰弱を理由に五高を辞職し帝大と一高で講師を務めても悪評が立ったのを糺してくれたのは子規の弟子・高浜虚子だった。ほとどぎす小説を書けと言ったのも虚子だった。教職を辞し,朝日新聞社員になっても,教え子や門下生を名乗る人物が出入りし,木曜以外は面会を断ったモノの,その中から物書き名人を次々に発掘していった。修善寺では死なず,家族・弟子・出版関係者に看取られて生涯を閉じる~羨ましいほどの友情で結ばれている,漱石と子規,そして漱石と寅彦。本人が飛び抜けた才能を持っていないと素晴らしき友は得られないだろう・残念!それにしても,漱石観が変わったし,鏡子さんも今までのイメージとちょっと違うのかもと思わされた。伊集院さんは優しい眼差しを持つ人かも知れない

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著者プロフィール

1950年山口県生まれ。’81年短編小説「皐月」でデビュー。’91年『乳房』で吉川英治文学新人賞、’92年『受け月』で直木賞、’94年『機関車先生』で柴田錬三郎賞、2002年『ごろごろ』で吉川英治文学賞、’14年『ノボさん 小説 正岡子規と夏目漱石』で司馬遼太郎賞をそれぞれ受賞する。’16年紫綬褒章を受章。著書に『三年坂』『白秋』『海峡』『春雷』『岬へ』『駅までの道をおしえて』『ぼくのボールが君に届けば』『いねむり先生』、『琥珀の夢 小説 鳥井信治郎』『いとまの雪 新説忠臣蔵・ひとりの家老の生涯』、エッセイ集『大人のカタチを語ろう』「大人の流儀」シリーズなどがある。

「2023年 『ミチクサ先生(下)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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