- Amazon.co.jp ・本 (190ページ)
- / ISBN・EAN: 9784072497975
作品紹介・あらすじ
ひんやりした春の朝、海に近い森の中で、ふたりの少女は盲目の兵士にであった。そして、ふたりにとって、かけがえのない冒険がはじまった-ほんとうの勇気とは?思いやりとは?愛情とは?心に深くしみいる寓話の傑作!オーストラリア児童図書賞受賞。
感想・レビュー・書評
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題名にまず惹かれ、表紙の絵を見て、絶対にこれは読もうと思った。表紙の絵も字も、配色も艶感も、全て見惚れる。
戦場から逃げてきた目が見えなくなった兵士さんを森で見つけた女の子のマルセル。妹のココや兄のパスカールも一緒に、兵士さんを助け、仲良くなり、故郷に帰してあげる計画を練る。
兵士さんはとても優しく穏やかで、ポケットに銀のロバのお守りを持っている。時々、子供達にロバにまつわるお話をしてくれる。そのお話には、悲惨な戦争の体験もあった。語られるお話では、動物も人も沢山死ぬ。児童書でこんなに沢山の死をしっかりと書くのは珍しい気もする。でも、それが戦争の実態である。
人を助けるために動物が犠牲になる、という話はよくあり、この本にも出てくる。どうして人のためなら動物が犠牲になっていいという発想になるのかさっぱり理解できないし、しかも、動物も使命感や優しさを持ってそうしているみたいに描く人間のエゴに呆れる。しかし、やはりこの本を読むと、ロバの健気な行動に深く感動してしまう自分がいて、申し訳ない気になる。
訳者のあとがきに、「一見シンプルなストーリーの中に、様々な味わいが隠されている」と書かれていた。読み終わって、何が書かれていたか思い返すと、確かに一つ大きな物ではなく、多岐にわたる色々があり、あまりはっきりと思い出せない。ただ、ロバのおまもりのイメージが心に頭に深く刻まれている。おまもりは、兵士さんが持ったままでいて欲しかったな。
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フランスの海沿いの小さな村に住む幼いマルセルとココの姉妹は、森で倒れている目の見えない兵隊さんを見つける。
兵隊さんは「シェパード・チューイ(中尉)」という名前で、病気の弟に会うために軍隊を離れて海の向こうのイギリスに帰ろうとしているんだって。兵隊さんは幸運のお守りを見せてくれた。
手のひらに入るくらいの銀のロバ。
ほっそりと立った耳、ぼさぼさのたてがみ、丸っこい鼻面、細くて丈夫な足、尻尾の先は丸くなっている。
ココは銀のロバに夢中なる。そのまま駆け出しそう。私を乗せて、兵隊さんを乗せて。
マルセルとココは、兵隊さんのことは秘密にすること、食べ物や必要なものをこっそり持ってくることを約束する。
でも兵隊さんを海の向こうのイギリスに返してあげるには、子供の自分たちだけでは力が足りない。
二人は兄のパスカールに知らせる。
パスカールは小さい妹たちをいつもからかう。でも私達の内緒の兵隊さんを助けるためには仕方がない。
どうやってここまできたの?そのロバはどこで見つけたの?戦争ってどんなこと?人を撃ったことはある?
そんな三人の子どもたちに、シェパード中尉はロバにまつわるお話を聞かせる。
身重のマリアを、そして産まれた幼子イエスを運んだロバ。
空が地上の人間や動物に腹を立て、もう雨を降せないと決めたときに空の心を動かしたロバ。
戦場で衛生兵に寄り添い負傷兵を運び続けたロバ。
そしてシェパード中尉の素晴らしい弟が見つけた、この銀のロバ。
この銀のロバは、信頼できる、勇敢な人が持っているものなんだ。
シェパード中尉は自分の経験した戦争を語らない。それはとても残酷で酷いものをたくさん見た。自分が戦場で役に立てると思った気持ちを吹き飛ばすくらいに。
だから家に帰ることにした。誰も気が付かない、シェパード中尉の部下が死んだことも、シェパード中尉が姿を消したことも。もうこの世を見たくないと思ったシェパード中尉の目は、歩くうちに見えなくなっていった。
<この戦争は人間同士の戦いではなく、目に見えない、恐ろしい力を持つ神や悪魔が人間を兵器代わりに使って戦っているのではないか。そうした神や悪魔はやりたい放題だ。(中略)人間を大切に扱おうなんて考えもせず、壊れたりなくしたりても、魔法で元に戻せると思っている。P100>
兄妹は、兵隊さんを逃がすためにもうひとり、大人の協力者を頼むことにした。足に障害を抱えるファブリーズだ。
自分自身に不甲斐ない思いを抱えるファブリーズは、シェパード中尉が脱走兵だと承知した上で協力を申し出る。
<思いきって勇敢なことができるチャンスなんて、人生でそう幾度もあるもんじゃない。金だなんて野暮なことを言って、おれのチャンスを台無しにしないでくれよ! P142>
シェパード中尉が出発した翌日、ココは一人で森に行く。
兵隊さん、どうして行っちゃったの。寂しいよ。
そして銀のロバ、本当に誠実で信頼できて勇気がある人が持っているといったあのロバは?
ココは、地面のくぼみを掘ってみる…
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非常に心に沁みる良いお話です。
穏やかな森で、穏やかなシェパード中尉ですが、彼の思い出す戦争はとても悲惨。英雄に憧れるパスカールは戦争の話を聞きたがるけれど、シェパード中尉はロバの話をします。
ヨーロッパではマヌケでノロマ者に例えられるロバですが、シェパード中尉のお話では、目立たないものこそ勇敢な心を持ち自分のできることをする、その行為一つ一つがこの世をいいものにしている、という象徴になります。
静かで穏やかで、とても芯の強いお話です。
<わたしは苦しみを知っています。でもだからこそ、みんなが苦しむのを見るのは耐えられないんです(中略)
自分の代わりに世界じゅうが苦しんでいるのを見るくらいなら、いっそ自分が苦しみに耐えるほうがましです。(中略)P87〜抜粋>
<この世界には、一生かかっても情を持って正しく生きることのできない連中がいる、その一方で必ず、孤独で、怯えていて、虐げられ、途方に暮れる者たちがいる。だが、そうした者たちが苦しみという重荷を背負っている限り、せめて彼らの目を楽しませるために、私はこの世界を美しく保つことを約束しよう。(中略)
雨は、何もかもを欲しがる者たちのためではなく、ほとんどなにも欲しがらない者たちのために降っているのだ。P88〜抜粋> -
不思議なタイトルと表紙の絵に惹かれて読んでみたが、これほど重厚な話とは思いもしなかった。
これで児童小説?いえいえ、映画にしても良いほどのお話だ。
ぐいぐいと読み手をひきこみ、読んだ後にはこのタイトルがじーんと胸に染み込む。
話の持つ清潔感と悲しみと、合間に差し込まれた4つの「ロバの逸話」が、勇気とか誠実さとか戦争の悲惨さとかこの世の神秘について、静かに教えてくれる構想になっている。
私のようになんとなく手に取ったひとは、話の持つ奥深さにきっと圧倒されるだろう。
森の中で倒れていた兵隊さん。
話は、この兵隊さんを見つけたマルセルという姉とココという妹の視点で進む。
キャラクターの書き分けも実に鮮やかで、兵隊さんを思いやる幼い姉妹の心の動きも
手に取るように分かる。
帰郷の手助けをしてあげたいのに、自分たちの力不足でどうすることもできないもどかしさ。
そんな二人に支えられながら、ふたりに温かい視線を送る兵隊さんの思いが、ロバの逸話を語らせていく。
このお話がとても魅力的で、聖書のキリスト生誕にまつわる話もあるし、史実に基づいた話もある。
作者の創作と思われる話もあり、この4つのお話の中に作者が子供たちに送りたい思いがしっかり詰まっているのだ。
何故にロバの話かというと、それがこの作品のキーワード。
そして、兵隊さんの持っていた銀のロバを、ココにプレゼントしてほしいなぁと読み手が思い出す頃には、ちゃんとそれがかなえられる素敵な仕掛けになっている。
この心地よい終わり方には、読後しばらく言葉が出ない。
舞台は(たぶん)第一次大戦の西部戦線あたりかと思われる。
正面切って戦争の悲惨さを唱えるよりも、はるかに説得力のある清らかで温かい話。
ああ、やっぱり映画化されてほしいな。
兵隊さんの役は・・と楽しい妄想の止まらないワタクシ。 -
日本ではロバが出てくるお話は然程多くはないと思いますが、ヨーロッパや中東では、愚鈍で愚か者、そして頑固で怠け者の象徴として登場するようです。
しかしロバは粗食に耐え、飼い主に従順な性格で、どのような辛い荷の運搬にも黙々と働いてくれる使役として、古代より人の側にいたそうです。
『 銀のロバ 』では、とても賢い従順なロバの話が4話綴られていました。
時代は第一次世界大戦、フランスの海岸沿いの町に住む10歳のマルセルと8歳のココ姉妹は、森の中で視力を失った兵士が倒れているのを見つけます。
その兵士シェパード・チューイは脱走兵なのですが、姉妹は彼を見つけた事を秘め事として興奮し、二人して彼を助けようと食糧を親に隠れて運びます。
チューイも姉妹の助けたいとの純粋な気持ちに感謝しつつ、徐々に3人は打ち解けていきます。
そしてチューイが大切に持っていた小さな銀製のロバにココは関心を示し、兵士はロバにまつわる話を姉妹に聞かせることになります。 -
何を隠そうロバが好きです。なので、タイトルと表紙の絵に惹かれてこの本を手に取りました。
物語は第一次世界大戦の最中、フランスのある森の中で、幼い姉妹が盲目の脱走兵に出会ったところから始まります。少女らは、傷ついた兵士を助けるために、大人には内緒で食料を運びます。そして、兵士を故郷のイギリスに帰してあげるために、幼い知恵を絞るのでした。
兵士は胸のポケットに、お守りの小さな銀のロバを持っていました。おとぎ話の中のロバは、のろまな愚か者として扱われることが多いようですが、ここで兵士の口から語られるロバにまつわる寓話はそうではありません。ロバはひかえめで働き者の、心優しい隣人として描かれています。そんなことは、本物のロバを間近で見れば、誰にだってわかることですよネ。朝露に濡れたブドウの粒のような瞳を見れば、ロバがとても美しい動物であることは一目瞭然です。この物語では、ロバを語ることによって人間の愚かさが浮き彫りにされていますが、同時に無償の愛の美しさも描かれています。胸に沁みる、優しいお話でした。 -
少女たちと兵士との触れ合いが、物語を優しく包んでいる。
だからこそ、一層際立つ、その中に潜んでいる戦争の残酷さ、人間の愚かさ。その対比が切ない。人間の作り出す世界は、こんな矛盾に満ちているのだ。
ロバが教えてくれる、本当の勇気、本当の思いやり、本当の愛。
読んでいると、つくづく、人間であることが恥ずかしくなってくる。どうして、人間って、こんなにも愚かなのだろうか?
それでも、少女たちの無垢な心は清らかで、強く・・・。やっぱり人間って、捨てたもんじゃないなあと思う。ああ、ここにも、矛盾があるのだなあ。
戦争の残酷さを描きつつも、同時に、人間の優しさや強さを教えてくれる物語には、絶え間ない紛争と貧困に満ちたこの世界に、ひとすじの光を与えてくれる気がした。 -
読んでいるうちにだんだんと惹き込まれました。
世界各地で起こってる紛争、戦争、物語の舞台の100年前と変わらない状況が繰り返されてることをひしひしと感じました。 -
あるひんやりした春の朝、イギリス海峡を臨む森の中で、マルセルとココ、ふたりの幼い姉妹は盲目の兵士に出会った。
彼は「シェパード・チューイ」。
海峡を越えた先にある故郷、家に帰りたい一心で軍を脱走しここまで歩き続けてきたものの、なにが原因か分からないまま視力が徐々に失われ、ついに目が見えなくなって森の中に座り込み、途方に暮れているしかなかったという。
大人にこのことが知れたら、彼は軍に連れ戻されてしまう。
マルセルとココは彼の存在をふたりだけの秘密にして、チューイに僅かな食料を運び、かわりにチューイはふたりにせがまれるまま、ロバにまつわる4つの物語を聞かせた。
やがて「自分たちだけではチューイを家に帰してあげることはできない」と判断したマルセルは、兄のパスカールに秘密を打ち明ける。
賢いパスカールはすぐにチューイを助ける方法を考え出す。
それは兄妹たちにとって、かけがえのない冒険のはじまりだった――。
明言されていませんが、作中のチューイ(中尉)の回想のなかでノーマンズランドという言葉が出たことと後書きから、舞台は第一次世界大戦中のヨーロッパ、フランスではないかと思われます。
幼い姉妹が失明して行き場を失った脱走兵を無事に逃がそうとする本筋のストーリーと、その兵士が子供たちに聞かせるロバにまつわるおとぎ話が絡み合い、戦時下が舞台ながら心の温まる、勇気と優しさの物語になっています。 -
第一次世界大戦、西部戦線のころをイメージしたらしい、フランスが舞台の小説。
といっても戦争のドンパチがメインじゃない。戦争のある時代の日常のお話。
幼い姉妹が、ある日森の中で目の見えない兵隊さんをみつけ、故郷のイギリスへ帰してあげようとする。
子供にとっては「スタンドバイミー」的な大冒険。
大人にとっては切実で命がけの綱渡りな「千一夜物語」。
兵隊さんがしてくれた四つの「ロバの話」を挟んで、おだやかな森の中と戦争のある外の世界が交差する。
子供らしさと若者らしさとリアルな世界のバランスがいい。
文章に森の空気や土のにおいがする。
「真夜中の動物園」はちょっとクドく感じたけれどこちらは違和感なく美しい。
妹が「お兄ちゃん」「お姉ちゃん」と呼んでいるのが気になる。
一度だけ「マルシーに~」というセリフが出てくるけどこれはマルセルの愛称…だよな?
いきなり出てくるから誰かと思った。