命もいらず名もいらず 下 明治篇 (集英社文庫)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (592ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087450668

作品紹介・あらすじ

攘夷と開国の狭間で混乱を深める日本。鉄舟は最後の将軍・徳川慶喜の意向を受け、命がけで西郷隆盛と直談判、江戸無血開城への道を開いていく。のちに明治天皇に任用された男の清貧で志高い生き方。(解説/縄田一男)

感想・レビュー・書評

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  • 「行動力」が信頼を得る
    山岡鉄舟が江戸無血開城を命を賭け西郷隆盛の敵本陣へ出かけ交渉し、江戸(徳川家)を守った。歴史では勝海舟とあるが鉄舟の明治維新政府への貢献度は高く、明治天皇からの信頼を勝ち取るなど鉄舟の信念「礼節を持って誰でも会い全力で取り組む」全ての行動力にあった、と読める。寝る暇もなく誰よりも素早く行動に移せる気迫力の鉄舟で圧倒させられる。 「信頼」とは「行動力の結果」なのだ。

  • H30.5.25 読了。

    ・「歴史上の人物で誰が好き?」と問われれば、山岡鉄舟というぐらい尊敬する人物の伝記。この上下巻は、宝物にしたい程に好き。
     何で30年前の教科書では、明治維新の話で山岡鉄舟が出てこないのか憤慨したい程。

    ・「勝つのも自分。負けるのも自分。勝負は時の運だ。勝っても奢らず。負けても卑屈にならず。」
    ・「命もいらず、名もいらず、官位も金もいらぬ人は、始末に困りもす。」
    ・「人を人として生かしているのは、ただひとつ、おのれの精神だ。こころが貧しい者は、なにをやっても中途半端にしかできない。こころが熟し、高き志をもつ者は、ついにことを成すことができる。」
    ・「懸命に生きていさえすれば、負けて、這いつくばり、なんの誉れがなくてもかまわない。負けることが悪いのではない。全力を尽くさなかったことが悪いのだ。」
    ・「惻隠の情をもって譲り合う者が増えれば、世の中は住みやすくなるはずだ。」
    ・「愚もまた才なり。」
    ・「禅で大切なのは、なによりも、その人間の生きる態度である。」

  • 西郷をして、「命もいらず、名もいらず、官位も金もいらぬ人は、始末に困りもす」と、言わしめた鉄舟。
    慶喜には、「お前は、まっすぐな男だな。はた迷惑なほど真っすぐだ」と言われ、「男として生きる」と頑なな信念をもって生き抜いた鉄舟。
    著者は、そんな鉄舟を鮮やかに、生き生きと描き切っている。
    維新後、様々な役職に乞われ、もめごとの解決のため東奔西走する鉄舟は、「おのれに恥じぬように精神を満腹にして生きよ」と、迷いのある人々に諭す。そして、常に座禅を組み、ひたすらおのれを磨き上げることに熱心だった。
    常人のレベルをはるかに超えた彼の生涯は、その交際範囲の広さから幕末の多様な人物が登場し、それに伴う様々なエピソードが語られる。文庫本上下合わせて1062頁になる大書も、読者をいささかも飽きさせることなく読み切ってしまう(もちろん、著者の力量に負うところ大であるが)。

    これほど魅力的な人物が主人公のドラマが、かつて作られたことがあるだろうか。最近低調なNHKの大河ドラマで企画すれば(単行本はNHK出版!)、視聴率間違いなしに受けると思うのだが(笑)。

  • ★3.5
    山岡鉄舟の生涯を綴った上下巻。
    実に長編だった。特に下巻は鉄舟や、色んな人達の想いをじっくり噛みしめるように読み進めた。

    自分の思うところを、突き詰め突き詰め、苛烈なまでに突き進んでいく姿は、良く…も悪くも?
    (旦那としての鉄舟は、勝手すぎる!と、つい現代の感覚でイラついてしまったり)

    けれど鉄舟はじめ、人を想う気持ち、志高く信念を持ち生きること、また、純粋に国の為命を掛けて奮闘した人々が、当時は多く存在していたということ。
    それぞれが自分の役割を全うしようとする姿には、本当に本当に頭が下がる。尊敬します。
    今の自分の在り方を問いたくなる。

    最後は無駄に感傷を引きずることのない、きっぱりさっぱりとした、山岡鉄舟に相応しい幕引き。
    激動の新時代を生き抜いた人間の一生が、確かにここにあり、共に駆け抜けた、と思わせる読後感だった。

  • 江戸城の無血開城を西郷隆盛と話をつけて成し遂げた人物。勝海舟かと思いきや彼の活躍があってこその無血開城らしい。
    物語は彼の幼少期から死に至るまでの一生を描く。ここで描かれているのは、まっすぐな気持ちを持ち続けた男子の一生だ。無血開城などの業績が出るまでは、剣術の修行に勤しみ、書道の修行と禅の修行と、一生懸命にやっているのは伝わった。が、結果的にそれらが世のためになったから良かったものの、一歩違えば遊んで暮らしただけなのではなかったか。それを見越した上での、父親からの自分のために生きろだったのかは、よくわからなかった。

  • 山岡鉄太郎の話だ。
    鉄太郎は、まっすぐだ。まさに、鉄のごとくに強靭で、意志が強く、そして素直である。
    そもそも人の間に垣根はない。垣根を作るのは自分で、また、壊すのも自分だ。垣根と思えば垣根、石の壁と思えば石の壁、何もない野原と思って進めばよいのだ。北辰一刀流の玄武館があるお玉が池に行くのをためらっていた山岡に剣の師である井上清虎が言った。
    山岡は、自分を戒めるために20ヶ条の教を書いている。その最後に、自分の心に恥じるかどうかだけが生きる規準である、と締め括っている。
    大勢の見物人が押し寄せる名所の桜などちっともありがたくない。たとえ、人に知られずとも、ひっそり咲いている山桜の方が気高く美しい。そんな心持ちの山岡だ。大事に臨んで、何より大切なのは、冷静沈着な心である。
    名を揚げるのは所詮、他人の評判を気にすることであろう。そんなものにこだわっていては、人間の器が小さく縮こまってしまう。大事なのは他人の評判ではなく、自分の信の気持ちだ。どこまでも本気であれば、他人がなんと批判しようと、春風のように聞き流すことができる。そう思っていた。
    自分のためになり、人のためになることをせよ。それが、山岡の父の遺言だった。自分を捨てきって他人のために生きるのは難しい。だから、とことん本気で、自分のためになって、なお、他人のためになることを行う山岡だった。名を惜しんで死んでみせて満足なのは当の本人だけだろう。死ぬのは簡単。しかし、死に急ぐのは愚の骨頂だ。汚名を着て生きてやり抜くのは辛い。どちらが本当の武士の道か。浪士を束ねる役になった清川、山岡は、命も捨て、名も捨て、最後まで役目を果たすと心に決めたのだ。名を惜しむというのは、武士として悪いことではないが、名を惜しまない、という心を聞くと、そちらの方が、心のありようとしては遥かに潔い気がする。名などいらぬ、と思えば、ありとあらゆる呪縛から解放されて、自由に、ただ目的に向かって突進できる気がするのだ。
    ただ、その時、その場で全力を尽くす。それだけが、山岡の信条であり、思想である。凄まじい生涯、まさにその言葉がぴったりの山岡鉄舟だった。
    全二巻

  • 読了。
    江戸城無血開城に於ける、勝海舟や西郷隆盛とのやり取りが、この人を有名にしたのだが、実際は明治維新後の人生の方が圧巻。
    徹底した無私無欲、高い倫理観、規格外の実行力、どれをとってもこれ程のスケールの日本人が嘗ては存在したのか、との思いに駆られるが、一方、いま生きてたら相当困った人に違いない(笑)。
    これ程の豪傑でありながら、毎日木村屋のあんぱん食べてたというのはご愛敬。

  • 感銘を受けてしまった
    腹を据えてやること
    策を練るのではなく、まっすぐ向き合うこと
    座禅
    色々、頭に残りました

  • 山岡鉄舟が自らを鍛えるところ、裏返せば、鉄舟を通して、禅宗の世界を描いているところが、とりわけ印象深い。
    なんせ、私も、禅問答って屁理屈をこねてるような・・・と思っていた口だったから、問答によって、物事の本質を求め、自らの行動を正すことに意義があると考えたこともなかったです。

    守銭奴との悪名もある商人との「大きな商売をしようと思ったら、損得に怖じ気づいちゃ、いけない」という話を端緒に、鉄舟が大悟するところが、好きです。

    この物語で描かれる鉄舟の覚悟のありようの100分の1でも持って、日々、暮らしていければよいなぁと素直に思いました。

  • 歴史小説を初めておもしろく読めた。上巻の人物描写が魅力的になされている。下巻はややパワーダウン気味だが、最後まで淡々と描こうという筆者の意志が伝わった。明治維新で必ず名は出るが、詳細に描かれない理由がわかった。破天荒すぎて、偉人伝としてはNGだし、歴史的人物としては過激すぎるのだね。

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著者プロフィール

歴史・時代小説作家。1956年京都生まれ。同志社大学文学部を卒業後、出版社勤務を経てフリーのライターとなる。88年「信長を撃つ」で作家デビュー。99年「弾正の鷹」で小説NON短編時代小説賞、2001年『火天の城』で松本清張賞、09年『利休にたずねよ』で第140回直木賞を受賞。

「2022年 『夫婦商売 時代小説アンソロジー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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