千年樹 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087465433

作品紹介・あらすじ

東下りの国司が襲われ、妻子と山中を逃げる。そこへ、くすの実が落ちて-。いじめに遭う中学生の雅也が巨樹の下で…「萌芽」。園児たちが、木の下にタイムカプセルを埋めようとして見つけたガラス瓶。そこに秘められた戦争の悲劇「瓶詰の約束」。祖母が戦時中に受け取った手紙に孫娘は…「バァバの石段」。など、人間たちの木をめぐるドラマが、時代を超えて交錯し、切なさが胸に迫る連作短編集。

感想・レビュー・書評

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  •  長い年月を生きてきた樹と、樹とともに生きてきた人々の物語のモチーフを思い描いていたところ、この本に出会いました。

     千年の時を生きてきた樹はその樹皮に人々の想いをまといます。 根は時に人々の悲しみや、涙を吸い取って来たかもしれません。木々の葉は周りで喜び遊び回る子供の声や、明るい陽の暖かさを感じていたかもしれません。恐ろしく長い時を、同じ場所で、繰り返す人々の人生を見てきたのでしょう。

     手を広げても余りある、大きな樹を抱きかかえてみませんか。一目では見上げることのできない程の大きな樹形に囲まれると、樹と空気と土と木漏れ日、そして自分自身が一体となる感覚が湧いてきます。

  • この人は最早、泣かせという点で浅田次郎を越えてしまったような気がする。本作では涙腺が緩みっぱなしだった。いじめや老人など現代の問題と、古い時代の生き様とを対比させているところも秀逸。普通の人びとが主人公であるところも感情移入しやすいと思う。

  • 千年生き続けているクスノキが、
    各時代の人々の生活をただ静かに見守っている話なのかと思っていたが、割とダークなストーリーだった。

    辛い時代を生き抜いた人たちがこのクスノキに癒しをもらっているのかと思いきや、人間の人生はなかなかに厳しいぞと言わんばかりのストーリーだらけで、
    読んでて落ち込むことが多かった。

    千年樹と呼ばれるこのクスノキも、
    街の人々の守り神などではなく、
    人間の奥底に秘めてるドス黒い感情をさらに掻き立てようと挑発しているかのような気がした。

    そして最後はあっけなく伐採される。
    季節外れの青虫はクスノキの最後の抵抗だったのではないかと思った。

  • 今まで読んだ連作短編小説の中で一番面白かった。
    いきなり平安時代の話から始まるので、間違って時代小説を買ってしまったのかと思ってしまった。
    全8話からなるそれぞれの話は、テーマや登場人物が共通する2つの時間軸が同時並行する形で進められる。過去と未来を行ったり来たりしながら話が進むのであるが、テーマや登場人物がリンクしているだけでなく、そこに必ず「大きなくすの木」が介在すると言っていいのか、大きな役割を果たすことで全体として一つの作品に仕上がってる感じが好きです。

    個人的に気に入ったのは第2話の「瓶詰の約束」
    くすの木をご神木とする日方神社の神主さんが経営する幼稚園の先生が園児のためにタイムカプセルを埋めようとする。くすの木の根元を掘っていると戦時中に空襲から逃れた少年が埋めた瓶詰めを発見する。瓶詰めの中には石ころの様な硬い塊があるのであるが、それが何か知っているのは火傷の跡がのこる園の用務員の敏三さんだけであった。

    冒頭の平安時代の話は第一話「萌芽」の一節であり、くすの木生誕に
    にまつわる話になっていて物語全体のプロローグとなっています。

  • 1000年と遠い昔、父と母と一緒に山中に逃げ、最後は餓えと寒さの中で息絶えた小さな幼子。その幼子が口からこぼれた種が芽吹いて、クスの大樹となる。
    そのクスの大樹のある風景の中で、現代と過去をオーバーラップさせながらたくさんの人間のドラマが語られる。
    どの話も物悲しく切ない。この大樹は暖かく包み込むようなこともなく、祟り神のように悪さをするでもなく、ただただ静かに人間の営みに耳をすませている感じ。時々出てくる1000年前に亡くなったであろう幼子の化身も、人を助けるでもなく困らせるでもなく、ただ大樹の周りに吹く風のように無邪気だ。
    それでも人々がこの大樹に大小様々な想いを持って、何となく頼っているような気がする。褒められたい、怒られたい、慰められたい・・・。
    千年樹。私はこのクスの大樹に父と母のような偉大さを感じました。

  • 荻原さんっていろんなジャンルの作品が書けるんだなぁ。この本は救いようのない悲しい気持ちにさせる内容。短編集だけど連作短編集で内容も重いので、どっしりとした長編を読んだ気分になった。樹齢1000年のくすの木の下で繰り広げられた哀しい人生の一コマや人生の終わり。平安時代、逆賊に襲撃され妻子と共にこの木に辿り着いた国司、第二次世界大戦中、たった一人で逃げてきた子供、好きな男と遊郭から逃げてきた女郎。どの人生も哀しい。救いのない哀しみいっぱいのストリーなので落ち込んでいる時は不向き。

  • 昔からある巨大な楠の木の周りで起こってきた出来事が、過去と現在を組み合わせた短編で語られる。それぞれの短編同士もまた登場人物が繋がっていたりする。
    争い、貧しさ、虐め、恋愛。それらを覆う憎しみや哀しみ、愛しさ。
    樹齢千年といわれる巨樹が見てきた長い長い時代。
    そんな神木と呼ばれていた巨樹が人間の手によって最期を迎える。
    今後、巨樹を見る度にこの話を思い出しそうな気がする。

    2017.1.15

  • 特に「瓶詰の約束」が好きかな。

  • 短編集だけど、ほとんどが怖い話だった。
    でも、こういうパターンじゃない本の方がこの人の持ち味が出て好きだなぁ。

  • 町のはずれの山の上に立つ巨木をめぐって長い時代をつなぎなら物語は作られていく。交錯するストーリーに混乱させられたり人間関係を見失いそうになりながら樹の魔力に引き寄せられる感じがした。最後まで読んでもう一度読み返して味わうべきかも知れない。

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著者プロフィール

1956年、埼玉県生まれ。成城大学経済学部卒業後、広告制作会社勤務を経て、フリーのコピーライターに。97年『オロロ畑でつかまえて』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2005年『明日の記憶』で山本周五郎賞。14年『二千七百の夏と冬』で山田風太郎賞。16年『海の見える理髪店』で直木賞。著作は多数。近著に『楽園の真下』『それでも空は青い』『海馬の尻尾』『ストロベリーライフ』『ギブ・ミー・ア・チャンス』『金魚姫』など。18年『人生がそんなにも美しいのなら』で漫画家デビュー。

「2022年 『ワンダーランド急行』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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