人間失格 (集英社文庫)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (212ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087520019

感想・レビュー・書評

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  • 葉蔵という男の手記。
    彼は幼いころから、他者に対して過剰なサービス精神で道化を演じることで、自分の本心を読まれないようにしてきた。周囲を笑わせることで自分の立ち位置を確保してきたが、ワザと失敗したことに指摘されたり、演技をしていることに気づかれたりすると彼は死ぬほど恥ずかしくなってしまうのだった。
    そんな彼を周囲の女性たちはほっておかない。
    葉蔵は行く先々で、自分のことを好いてくれる女性に出会い、彼女たちを不幸にしてしまう。
    苦悩から逃げるために、酒、女、薬物に溺れ、心中未遂と自殺失敗ののち、窓に格子のついた病院で療養しているうちに彼は自分が廃人であることに気づいた。もはや自分は人間ではない、と。
    田舎の村はずれで幸福も不幸もない暮らしを送り、彼は手記を書いた。二十七歳になる年齢だが、見た目は四十歳以上になっていた。

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    他者から自分はどう見られているか、ということに悩み過ぎると、自意識過剰ということになるそうだ。しかし、自意識がなければ、見た目や言動に気をつかえない無礼なやつだと思われてしまうだろう。

    葉蔵は少年時代から大きな自意識を背負い続け、女中たちから性的虐待を受けた影響もあってか、性への芽生えも早かった。
    女性たちは葉蔵の孤独の匂いに誘われ、彼は彼女たちと関係を持ちながらも、酒や薬物に溺れる。そして「人間」としての生活を失ってしまう。

    重すぎる自意識からの逃避行動が酒や薬物だったなら、廃人となって自意識から解放されてよかったじゃないか、という見方もできる物語だ。
    何人もの女性を不幸にして、自身も酒と薬物でボロボロになって、葉蔵の人生は時間をかけた自殺だ、という捉え方もできると思う。

    この話が喜劇なのか悲劇なのかはわからないが、葉蔵のやりようのない自意識への苦悩には激しく共感した。
    自分も他者の前で無意味に明るい人間を演じた挙句、帰宅して自己嫌悪と疲労で動けなくなってしまったことが幾度となくあった。酒と薬物に逃げるわけにもいかないので、まだ廃人にはなっていないが、楽になりたい気持ちはよくわかる。
    多かれ少なかれ、みんな同じだ。誰もが自意識に振り回されることはあるし、必要に応じて演技しているはずだ。
    だからこそ、これほどウジウジし続ける男の話が名作として評価され続けているのだと思う。

  • カール・マルクス曰く「一度目は悲劇として、二度目は喜劇として」。『人間失格』は度々鬱本の代表格として挙げられるが、改めて読了すると『人間失格』は喜劇であると思う。

    主人公が道化と卑下し母性に押し流される裏側に強すぎる自己愛を感じさせ、常に責任転嫁を正当化し、自己陶酔する様が文章から滲み出る。そこには太宰治自身が抱える脆さや繊細さが文体に反映される。第一の手記までが悲劇とすれば、作中で堀木との喜劇悲劇ゲームが興じる如く、悲劇過ぎる悲劇は転じて喜劇になるのであろう。

    太宰は脱稿直後に入水自殺を遂げたが、ひとつの文学作品として捉えると『斜陽』は悲劇だが『人間失格』は純文学的喜劇作品なのである。

  • 全然、「人間失格」じゃないじゃん~って思うんですよね。主人公、人間してるじゃん。かなり頑張ってるじゃん。だけど人間ってなんだろう? って考えると、よくわからない。
    私達は当たり前に人間しているような気でいるけど、それに疑問を持ってしまうとこの主人公みたいに泥沼になっちゃうのかもね。人間であることに気づかなきゃ人間合格を目指さなくてもよかったのに。自分が知らぬ間に「人間」を演技していることに気づくのは、カミュの「異邦人」にも似た感じかも。

  • 太宰治さんの作品をはじめてよんだ
    文章がむつかしくて頭の悪い私にはなかなか理解できなかった面もありましたがとても強く印象に残りました

  • 手記の主人公がもつ人間不信的な部分や、書かれている人間の本性的な部分はとても共感しました。
    また自分が「道化」であるということも、作り笑いや空気読みをいつもしている自分にとてもしっくり来ました。
    また、とても衝撃かつ腑に落ちたのは「飯の時間が儀式に思える」という所でした。
    自分も拒食気味になった事がありますが、親と食べるご飯の時間は苦痛であり、まさに儀式のようでありました。

    この本は有名でありましたがまだ読んだことがなく、ようやっと手に取る勇気がもてました。
    読んでよかったと思いました。

  • 太宰治(1909~48年)は、青森県北津軽郡金木村(現・五所川原市)生まれ、東京帝大文学部仏文科中退、小説家。左翼活動での挫折後、自殺未遂や薬物中毒を繰り返しつつ、第二次世界大戦前から戦後にかけて作品を次々に発表したが、38歳で愛人と心中した自己破滅型の私小説作家であった。代表作は、本作品のほか、『走れメロス』、『斜陽』。
    本作品は、1948年3~5月に書かれ、太宰はその1ヶ月後に入水自殺したこともあり、極めて自伝的、かつ遺書のような小説と言われる。
    現在も複数の出版社から文庫版が出ているが、新潮文庫版だけでも累計発行部数は700万部のベスト&ロングセラーである。
    私は40年ほど前に読んだ記憶があるのだが(恐ろしく暗く破滅的な話という印象しか残っていない)、現在も若者に読まれている小説ということで、新古書店で手に入れて改めて読んでみた。
    読み終えて感じたのは、この小説が本当に今も(若者から)支持されているのかという疑問である。主題は、自己批評をすることに妥協できない人間が、それをごまかすためには、道化を演じ、酒と女と薬に溺れ、自殺(未遂)するしかない、裏を返せば、人間は、自己批評に妥協しなければ、世の中を淡々と生きていくことなどできない(そして、主人公及び太宰は前者の人間であった)、ということであり、その主題自体は、今も変わらない普遍的なものと言えるだろう。しかし、話の舞台・展開が前時代的で(終戦直後の作品なので、当然だが)、暗く、読んでいて気が滅入るのだ。アラ還の私ですらそう感じるのだから、若者は言わずもがなではなかろうか。
    私は、いわゆる古典と言われる作品の存在を支持するし、今後も読み継がれていって欲しい作品はあるのだが、一方で、「新潮文庫の100冊」に毎夏選ばれるロングセラーのベスト3が『こころ』、『人間失格』、『老人と海』であることなどには、少々首を捻りたくなるのである。(元来、小説よりノンフィクション作品を好むという、私の嗜好性にも依るのだろうが。。。)
    (再読/2023年1月)

  •  太宰治の代表作として挙げられる一つ。あくまでこれは小説で、主人公は葉蔵なのであるが、太宰治自身が経験した、女性から自然と捨てておけない体質を身に付け、自殺未遂、薬物などなどが絡み合い、まるで太宰治が乗り移ったかのような錯覚を覚える。
     しかしそのような女性に言い寄られるような端正な顔立ちなど有していなくても、作品を読み深めていくうちに、自分の何処かにある臆病さと、自己嫌悪さに気付かされ、勿論それらを隠し道化師を演じきれる大それたことは出来ないのであるが、多くの人は道化師とは言わないまでも何らかを演じていることすらも思わされる。
     人間失格、では、失格ではない人間とはどういう生き方をしたものであろうか。周囲と折り合いをつけて、何となく生きて、それが人間というものでもあれば、世間と打ち解けれず、それでもその出会った人に対しては自身を偽り生きていき、何かに縋るように生きていくというのも人間であれば、誰もそこに否定は出来ないのではなかろうか。あえて否定や批評する者がいるとすれば自身だけなのではなかろうか。
     また別作品も読まなければならないか。

  • 幼い頃から人と違う感性を持ち、周りの人間の考えが理解できず、不安と恐怖から道化を演じることで人に迎合していた主人公。父親の顔色を窺い、自己肯定感が低いまま育つ。生きづらさと、ひたすら悪い方へ転落していく葉蔵の人生が手記を通して語られる。

    ヨシ子の無垢の信頼心が、悲惨な出来事によって踏み躙られた場面で葉蔵の絶望を強く感じ、読んでいてつらかった。女性が多く出てくるが、葉蔵のおどけているのに繊細でどこか影のあるところに、彼女たちは母性本能で惹かれたのだろうか。手記の最後の方は悲しくなり、涙が出てきた。

  • #読了

    深い、ようで浅いような。掴みどころのない、何度読んでも何か掴めそうで掴めず、ただ読み終わるだけの1冊でした。
    この時代をもっと知ればなにか掴めるのかな。
    難しくはなく、でも読みやすい訳でもない不思議な1冊

  • 文学初心者の私でも、スッと入っていけて
    太宰やっぱ、ぱねぇ!ってなった学生時代。内容忘れたので、また読み直します。

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著者プロフィール

1909年〈明治42年〉6月19日-1948年〈昭和23年〉6月13日)は、日本の小説家。本名は津島 修治。1930年東京大学仏文科に入学、中退。
自殺未遂や薬物中毒を繰り返しながらも、戦前から戦後にかけて作品を次々に発表した。主な作品に「走れメロス」「お伽草子」「人間失格」がある。没落した華族の女性を主人公にした「斜陽」はベストセラーとなる。典型的な自己破滅型の私小説作家であった。1948年6月13日に愛人であった山崎富栄と玉川上水で入水自殺。

「2022年 『太宰治大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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