母のあしおと

著者 :
  • 集英社
3.60
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本棚登録 : 193
感想 : 28
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087711547

感想・レビュー・書評

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  • 一人の女性・道子の人生を逆から辿る連作短編集。
    道子の死後から始まって、道子の葬儀、息子の結婚、息子の学生時代、息子の幼い頃、道子の結婚直前、道子の幼い頃、と道子の足跡を辿っていくととても感慨深い。

    妻・母・姑・嫁・娘。同じ一人の女性なのに関わる人の視点により様々な顔が現れる。こんなにも印象が変わるものなのか。だとすると私の印象も相手によっては異なるということか。そう考えるとまた面白い。

    特に道子の夫の視点。
    道子の死後(亡くなってから3年半後)と息子が幼い頃(結婚して7年後)の道子への視点の変化に驚いた。
    死後の方が良い印象になるなんて…皮肉なものね。
    本編とは逆の順番から読み直すと、また違った印象を持ちそう。

    ラストの道子の実母の想いにしんみり。
    「みっちゃんはだいじょうぶ。どんなにたくさん山があっても、どんなに高い山でも、きっと乗り越えて生きていける」
    実母の予言通り、道子は沢山の高い山をなんとか乗り越えた。そして実母の最後の願い通り、道子はあの世で無事実母の元に辿り着けただろうか、と余韻を残しつつ頁を閉じた。

  • ★3.5

    平凡な女性、日吉道子の人生を「逆から」紡ぐ連作短編。
    死から時をさかのぼり、女であり、母であり、妻であり、娘であった道子の人生を
    周囲の人々のまなざしで描く、心温まる物語。

    ・はちみつ    平成二十六年
    ・もち      平成二十三年
    ・ははぎつね   平成八年
    ・クリームシチュー 昭和六十一年
    ・なつのかげ   昭和四十九年
    ・おきび     昭和四十二年
    ・まど      昭和二十八年

    道子の死後一人で生きる夫の思い出のなかの道子。
    道子の葬儀の時の次男の想い出。
    道子夫婦に初めての結婚の挨拶に来た長男の婚約者の思い出。
    道子自身の結婚前夜の思い出。
    入院してた母の道子への思い。

    道子の周りの人々の視線を通して人生を逆に描いてる
    七編からなる連作短編集。
    最初の夫の思い出の中の道子の人物像が周りの人々の回想の中で
    次第に色んな顔を見せてくれる。
    本当に一人の人生の中で色んな事が起こり
    自分の思う様に進まない事もおおくある。
    色んな顔をみせ色んな姿が浮かび上がって来る。
    でもひとりひとりの大切な人生で、大切な温かい思い出となって残っている。
    自分の周りの人々、大切な人の中でどんな姿をしているのだろう…?
    どんな思い出を形作っているのだろう…?
    そんな事をいっぱい考えながら読んでいました。

    読んでてずっと切なかった。
    しみじみと良い本でした。

  • 初めて読む作家さん。

    子供、恋人、妻、母、祖母、女性が生きていく時にその立場は変わって行く。そして、その立場によって、その人の生き様も異なる一面を見せる。ゴツゴツした石に光を当てるとその光の反射具合が場所により違うように。

    この本は、道子という女性の一生を遡って描いている。

    ある時は、道子が亡くなった後、夫の視点で。
    ある時は、道子の息子のお嫁になる女性の視点で。またある時は、道子の母親の視点で。というふうに章ごとに視点が変わる。

     思わず、自分の立場を変えながら生きてきた変遷を思い出したり、また、先々を想像したりしていた。

     道子という女性、私は好きになれない。でもそこもリアルでいい。設定も割と平凡で、特異なところがない。素敵な女性が、特異な境遇でひたむきに人生を生き抜き…という設定とはかけ離れており、だから感動して浸る事もない。そういった浸りは、下手をすればただのエンターテイメントになってしまうきらいがあるけれど、この本はそうはならない。そして、一人の女性の、立場を変えながら生きる姿を描くという描き方で、とても興味深く、味わいを得ている。

    描写がかなり詳しいことがあるので、そこまで書くなら飽きさせない表現にして欲しいなと思うことはあったけれど、大きな時の流れを感じ、その分、心も大きく動かされる一冊でした。

  • <書評>平川克美:どうしん電子版(北海道新聞)
    https://www.hokkaido-np.co.jp/article/261795?rct=s_books

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    平凡な女性、日吉道子の人生を「逆から」紡ぐ連作短編。死から時をさかのぼり、女であり、母であり、妻であり、娘であった道子の人生を周囲の人々のまなざしで描く、心温まる物語。
    http://renzaburo.jp/shinkan_list/temaemiso/180824_book02.html

  • 初読みの作家さん。
    短編連作集だった。娘でもあり、母でもあり、これから姑になるであろう自分。いろんな立場で共感できた。オススメ。

  • 道子さんの人生を身近な人びとの視点で
    時代を遡りながら辿る物語。
    道子さんは特別によい妻でも母でもないんだけど、読むうちに、人を型作る過程が見えて、自分の生き方や周りからの印象なんかを考えた。
    自分が思ってる私と、他人が思ってる私は違う。そんな当たり前のことを改めてそうだよね、と。
    夫である和夫さんの作中の役割もよい。

  • 夫の和夫さんを残し先立った道子さんの人生。
    亡くなって3年経ったところから遡って行く。

    和夫さんの忘れられない妻であり、息子達には自分を信じ守ってくれた大切な母だった。

    息子の嫁にとっては、敵対心を表す姑で、和夫さんの従兄弟にとっては、大切な人を奪った存在。

    優しいおばあちゃまのイメージからのスタートが、立場の違う人から見たその時その時の道子さんは、一人の女性として、一人の女の子として息づいていた。
    色々なことがあったからこそ、和夫さんと幸せな一生を閉じることが出来たのだろうと思わせる素敵なお話。

    ただただいい話ではないところに、とても好感を持ちました。

    …追記、フミちゃんの話のラスト、悟志がトコトコ歩いていたシーンには、涙が溢れました。

  • 亡くなってしまった妻「道子」のことを回想する老いた夫の短編から始まり、「道子」の葬儀に参列するために帰省した次男の短編・・・と、「道子」という妻であり祖母であり母であった女性の死後から幼少時までを、語り手を変えながら徐々に時代を遡って、その人生を浮かび上がらせる連作短編集になっている。
    最初は良妻賢母のように描かれていた「道子」が、案外とっつきにくい部分があったり、我儘なところがあったり、年齢が若返るごとに違う像を結ぶのが面白い。

    最後まで読み終えると、ひとりの少女が、成長し、妻になり、母になり、祖母になっていく道筋がすーっと目に浮かぶようだった。

  • たしか新聞の書評で気になって図書館で予約して借りた本。昨年10月に予約して7か月たってやっと手元に届いた。
    とても優しい気持ちになれる本だと感じた。道子という一人の女性を、夫から、息子から、息子の嫁から、若いころの自分から、母からそれぞれ描き出すことで、初めはぼんやりとしていた印象が徐々に肉付けされていく。良い面も悪い面もすべてひっくるめて一人の人間なんだなあと感じるし、同じ人を見ていても息子と息子の嫁とでは感じることがこんなにちがうんだなあとか、私は姑にこんな態度をとられたらきっと結婚しないなあとか、自分にも寄り添わせて想像を膨らませることができた。話の舞台が北海道なので、気候の表現や地名がなつかしく感じられ、故郷や家族を思い起こしながら温かい気持ちになることができた。読後感の良い作品だった。

  • 1人の女性の人となり、有り様を時間を遡りながら、周囲の人たちとの関わりや視線から描く短編連作。一人残された喪失感で溢れる夫の章から物語は始まり、母の面影から離れられずに、結婚を迷う次男、結婚相手として挨拶に訪れた際、女としての嫉妬を感じた長男の妻など、周囲の人からの視線が彼女の多面性を形作る。

    そもそも人は単層ではなく、時系列で変化していくものだし、相手や環境によって、多面的な性質を使い分けながら生き延びていく。そんな有り様を他人の視点から、時間を遡り描くという作者の試みは興味深い。

    好みの問題かもしれないが、1つの事柄を呈するために、繰り返される会話や出来事が重複している印象で、若干書き過ぎの印象。伝えたい圧が強くて、もう少し読者に委ねる方が好き。
    会話文もどれも同じ調子で展開されるので、先が読めてしまう。

    表題については、「母」というよりも一人の女性の一生なので、なぜ「母」というところだけ切り取ったのかな?と疑問。

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著者プロフィール

神田茜(かんだ・あかね)
北海道帯広市生まれ。1985年に講談師の二代目神田山陽門下に入門、95年に真打に昇進。2010年『女子芸人』で第6回新潮エンターテインメント大賞受賞。著書に『フェロモン』『好きなひと』『ふたり』『ぼくの守る星』などがある。

「2014年 『しょっぱい夕陽』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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