- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087711547
感想・レビュー・書評
-
詳細をみるコメント0件をすべて表示
-
初めて読む作家さん。
子供、恋人、妻、母、祖母、女性が生きていく時にその立場は変わって行く。そして、その立場によって、その人の生き様も異なる一面を見せる。ゴツゴツした石に光を当てるとその光の反射具合が場所により違うように。
この本は、道子という女性の一生を遡って描いている。
ある時は、道子が亡くなった後、夫の視点で。
ある時は、道子の息子のお嫁になる女性の視点で。またある時は、道子の母親の視点で。というふうに章ごとに視点が変わる。
思わず、自分の立場を変えながら生きてきた変遷を思い出したり、また、先々を想像したりしていた。
道子という女性、私は好きになれない。でもそこもリアルでいい。設定も割と平凡で、特異なところがない。素敵な女性が、特異な境遇でひたむきに人生を生き抜き…という設定とはかけ離れており、だから感動して浸る事もない。そういった浸りは、下手をすればただのエンターテイメントになってしまうきらいがあるけれど、この本はそうはならない。そして、一人の女性の、立場を変えながら生きる姿を描くという描き方で、とても興味深く、味わいを得ている。
描写がかなり詳しいことがあるので、そこまで書くなら飽きさせない表現にして欲しいなと思うことはあったけれど、大きな時の流れを感じ、その分、心も大きく動かされる一冊でした。 -
初読みの作家さん。
短編連作集だった。娘でもあり、母でもあり、これから姑になるであろう自分。いろんな立場で共感できた。オススメ。 -
道子さんの人生を身近な人びとの視点で
時代を遡りながら辿る物語。
道子さんは特別によい妻でも母でもないんだけど、読むうちに、人を型作る過程が見えて、自分の生き方や周りからの印象なんかを考えた。
自分が思ってる私と、他人が思ってる私は違う。そんな当たり前のことを改めてそうだよね、と。
夫である和夫さんの作中の役割もよい。 -
夫の和夫さんを残し先立った道子さんの人生。
亡くなって3年経ったところから遡って行く。
和夫さんの忘れられない妻であり、息子達には自分を信じ守ってくれた大切な母だった。
息子の嫁にとっては、敵対心を表す姑で、和夫さんの従兄弟にとっては、大切な人を奪った存在。
優しいおばあちゃまのイメージからのスタートが、立場の違う人から見たその時その時の道子さんは、一人の女性として、一人の女の子として息づいていた。
色々なことがあったからこそ、和夫さんと幸せな一生を閉じることが出来たのだろうと思わせる素敵なお話。
ただただいい話ではないところに、とても好感を持ちました。
…追記、フミちゃんの話のラスト、悟志がトコトコ歩いていたシーンには、涙が溢れました。 -
亡くなってしまった妻「道子」のことを回想する老いた夫の短編から始まり、「道子」の葬儀に参列するために帰省した次男の短編・・・と、「道子」という妻であり祖母であり母であった女性の死後から幼少時までを、語り手を変えながら徐々に時代を遡って、その人生を浮かび上がらせる連作短編集になっている。
最初は良妻賢母のように描かれていた「道子」が、案外とっつきにくい部分があったり、我儘なところがあったり、年齢が若返るごとに違う像を結ぶのが面白い。
最後まで読み終えると、ひとりの少女が、成長し、妻になり、母になり、祖母になっていく道筋がすーっと目に浮かぶようだった。 -
たしか新聞の書評で気になって図書館で予約して借りた本。昨年10月に予約して7か月たってやっと手元に届いた。
とても優しい気持ちになれる本だと感じた。道子という一人の女性を、夫から、息子から、息子の嫁から、若いころの自分から、母からそれぞれ描き出すことで、初めはぼんやりとしていた印象が徐々に肉付けされていく。良い面も悪い面もすべてひっくるめて一人の人間なんだなあと感じるし、同じ人を見ていても息子と息子の嫁とでは感じることがこんなにちがうんだなあとか、私は姑にこんな態度をとられたらきっと結婚しないなあとか、自分にも寄り添わせて想像を膨らませることができた。話の舞台が北海道なので、気候の表現や地名がなつかしく感じられ、故郷や家族を思い起こしながら温かい気持ちになることができた。読後感の良い作品だった。