剛心

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087717594

作品紹介・あらすじ

日本近代建築の雄、妻木頼黄(よりなか)。
幼くして幕臣の父を疫病で亡くし、維新後に天涯孤独の身となり、17歳で単身渡米。
のちにコーネル大学で学んだ異才は、帰国後にその力量を買われ、井上馨の「官庁集中計画」に参加。
以来、官吏として圧倒的な才能と情熱で走り続ける妻木の胸には常に、幼い日に目にした、美しい江戸の町並みへの愛情があふれていた。
闇雲に欧化するのではなく、西欧の技術を用いた江戸の再興を。
そう心に誓う妻木は、大審院、広島臨時仮議院、日本勧業銀行、日本橋の装飾意匠をはじめ、数多くの国の礎となる建築に挑み続ける。
やがて、数々の批判や難局を乗り越え、この国の未来を討議する場、国会議事堂の建設へと心血を注ぎこんでいくが……。
外務大臣・井上馨、大工の鎗田作造、助手を務めた建築家の武田五一、妻のミナをはじめ、彼と交わった人々の眼差しから多面的に描き出す、妻木頼黄という孤高の存在。
その強く折れない矜持と信念が胸を熱くする渾身作、誕生!

【プロフィール】
木内 昇 きうち・のぼり
一九六七年生まれ。東京都出身。出版社勤務を経て、二〇〇四年、『新選組 幕末の青嵐』で小説家デビュー。二〇〇九年、早稲田大学坪内逍遙大賞奨励賞を受賞。二〇一一年、『漂砂のうたう』で直木賞を受賞。二〇一四年、『櫛挽道守』で中央公論文芸賞、柴田錬三郎賞、親鸞賞を受賞。『茗荷谷の猫』『笑い三年、泣き三月。』『ある男』『よこまち余話』『光炎の人(上・下)』『球道恋々』『化物蝋燭』『万波を翔る』『火影に咲く』『占』など著書多数。

感想・レビュー・書評

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  • 江戸から明治へ。
    時代の移り変わりと共に、鎖国を解いた日本へ次々と流れ込む西欧文化。
    新しい日本を造るため、古き佳き日本を捨て洗練された西欧技術を取り入れようと試みる政府に対しストップをかける一人の建築家・妻木頼黄の物語。

    右にならえ、とばかりに何でもかんでも西欧建築の真似をするのではなく、日本の気候風土に適した日本古来の建築様式を巧く融合させようとする心意気がいい。
    常に現場で働く職人たちに敬意を払う真摯な姿勢。職人たちに対する物腰はいつも柔らかい。けれどそこに妥協は一切ない。
    強さと柔らかさをバランスよく兼ね備えた妻木の人柄がとても魅力的。
    建物の揺れに対する強さの中心を示す”剛心”のように、いかなる試練を課されても全くブレない心が妻木の姿勢を崩さない。

    「新たな技術を取り入れながらも、この国の、自分たちの根源を忘れずに引き継いでいくような建物にしたいと思っている。そういう建物がいくつも建つことで、江戸のような、心地いい街並みがきっとできる。子供たちの、またその子供たちの世代まで、誇りになるような街がね」

    令和の時代を生きる我々の目の前に広がる景色は、妻木たち先人の強い信念が生み出した技と努力の結晶。
    妻木から受け継いだ景色を、また次の時代へと引き渡して行かなければならないと強く思った。

    妻木を陰ながら支える妻が更に魅力的だった。
    木内作品に登場する女性たちは凛とした人が多くて好き。

  • 中江有里「私が選んだベスト5」 | レビュー | Book Bang -ブックバン-
    https://www.bookbang.jp/review/article/721749

    木内昇『剛心』刊行記念インタビュー「幕臣の子で江戸への思いを捨てきれなかった建築家・妻木を通して、日本の近代化を書けそうだと思ったんです」  | 集英社 文芸ステーション
    https://www.bungei.shueisha.co.jp/interview/goushin/

    剛心 | 集英社 文芸ステーション
    https://www.bungei.shueisha.co.jp/shinkan/goushin/

    剛心/木内 昇 | 集英社の本 公式
    https://books.shueisha.co.jp/items/contents.html?isbn=978-4-08-771759-4

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「江戸上回る街」求めた建築家 [評] 山内由紀子(翻訳家)
      <書評>剛心:北海道新聞 どうしん電子版
      https://www.hokka...
      「江戸上回る街」求めた建築家 [評] 山内由紀子(翻訳家)
      <書評>剛心:北海道新聞 どうしん電子版
      https://www.hokkaido-np.co.jp/article/642687?rct=s_books
      2022/02/07
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      【中江有里が読む】大きな建築であるほど称賛もあれば批判もされる。国の未来を拓き、剛心の人でなければやりきれない過酷な仕事を手掛けた建築家の姿...
      【中江有里が読む】大きな建築であるほど称賛もあれば批判もされる。国の未来を拓き、剛心の人でなければやりきれない過酷な仕事を手掛けた建築家の姿に心揺さぶられる~『剛心』|教養|婦人公論.jp
      https://fujinkoron.jp/articles/-/5166
      2022/02/28
  • 建築家、妻木頼黄を通して、在りし日の東京の風景が垣間見えた気がした。

    江戸からすっかり様変わりしてしまった、その光景に一種の無力感や恨みを抱きながらも、西欧の建築技術にも精通し、求められる光景の中に自らの?日本の?信念を体現させようとする。

    建築家としての作品、というスケールを遥かに超えて、遺り続けるものの命脈をカタチ作ろうとする、まさに偉業と言える。
    その最たるものが、国会議事堂だった。

    建物を建てる側の棟梁達を前にすると腰低く、けれども、仕事は緻密になそうとする妻木の人柄が、とても良く描かれていたと思う。

    読み終わって、妻木や辰野金吾が設計したものをあらためて調べてみたのだけど、今なお補修されながら残されているものが多く、驚いた。
    (中には、えぇっ、行ったことあるけど、知らなかった!という場所も)

    土地のシンボルとして、愛されていることを二人が知ったら、どんな風に思うのかな。
    町並みは、人と同じで、我が我がという主張だけでは調和が取れない。
    そして、景観そのものが一つのコミュニティとして、地域に住む人の誇りを生み出したりもする。
    私も、大学のキャンパスが、鹿鳴館よりも古くに建てられたもので、そういう場所に通えることが嬉しかったことを思い出した。

    ただ単に永い時間が経った建造物というのではなく、明治期の建物が愛されるのは、作り手の信念や情熱のようなものが込められているからだろう。

    勉強になりました。

  • 明治の建築家・妻木頼黄を描いた物語。
    さすが、木内さん。と唸りたくなるような、読み応えのある秀作です。

    維新後、江戸から東京になり、何でもかんでも“西欧化”する風潮の中で、江戸の街並みを愛し日本の風土を踏まえた街づくりにしたいという、妻木さんの心意気が本書の随所から伝わってくるようです。
    建物は、建築家だけでなく大工等の職人たちとの協力体制が必須で“皆で造り上げるもの”という点から、机上で作図するだけでなく、現場に赴き職人達と信頼関係を気づきあげる妻木さん(最初はその妥協を許さない姿勢からウザがられる事もありましたが)。
    特に広島での仮議院造りは圧巻で、期限も予算もない中での無理難題を受けて立ち、現場の大工達や弱音吐きがちな部下達をまとめ上げてより良い建物を造ろうとする姿勢がカッコ良かったです。
    寡黙ながら超一流大工の大迫さんも、いぶし銀の魅力でいい味出していました。
    他にも日本勧業銀行、日本橋の装飾意匠等々・・数多くの建築に挑み多忙を極める妻木さんですが、その才能が求められると同時に“西欧化至上主義”的な人達、所謂“アンチ妻木”からの批判もありました。
    妻木さん自身は欧米でがっつり建築を学び、その先端技術を巧みに取り入れていたのですけどね・・。
    悲願だった国会議事堂の建設に携わる前に息を引き取ってしまう妻木さんですが、“妻木イズム”を引き継ぐ者たちが「俺らでやっちまおう」と妻木案を元にした設計で進める事を決めた時は“よし!”と胸が熱くなりました。
    建築の知識も興味深く、骨太でグイグイと読ませる展開で引き込まれます。
    そして、妻のミナさんが回想するラストシーンがとても美しくて秀逸だと思いました。
    奇しくも、レビューを書いている本日(4月3日)は妻木さんが手がけた「日本橋開通記念日」との事で(表紙のイラストが日本橋の麒麟の意匠ですね)、こういうシンクロが地味に嬉しい私です。

  • 二年前に「木の家」を設計してもらい、昨年、ほぼ一年かかって大工さんたちが「家」を建ててくださった、
    現場にはほぼ毎日通って
    「木」にまつわるいろいろなお話を
    設計士さんからも聞き、大工さん、左官屋さん、
    いろんな職人さんから、
    「木の話」「木の細工」「建てる」お話をいろいろ聞かせてもらった
    ほんとうに日本の家づくりは凄い!
    とつくづく思いました。

    そんなわけで
    設計士の妻木氏の描かれ方も素敵でしたが
    右腕として描かれている偏屈棟梁(?)鎗田さんの言動が
    もうたまらなく素敵でありました

    ここに登場する 建物を創る人たちが
    タイムスリップして
    今の ハウスメーカーが主体の「日本の家」を
    見た時には
    どんなことを思うのだろう
    と読み終わった後
    しみじみ思いました。

    それにしても
    木内昇さんの作品は
    いいなぁ
    本当にハズレなしです。

  • 真に歴史を作った人たちは、表舞台に立った政治家や武将ばかりではない。城や寺院を作った人でもある。歴史に残る建物を作った人たちの世界が描かれる。

    「大工はそれでいいんだ、みなでまとまってひとつのものを造るもんだ、って(中略)ごまかしのない仕事をする。全員の緊張感が合わさってこそ何十年、何百年と遺る仕事になるんだ、って。功名が先に立つとろくなことはねえぞ、とも言われたよ」
    妻木の最も信頼していた大工、大迫直助から言われたことを、やはり大工の鎗田作造が、妻木の部下の小林金平に伝えた言葉である。設計者の名は残るが、大工や職人の名は、ほとんど後世に知られない。しかしそれでよしとするのが職人の誇りなのだ。市井の人たちを描き続けた、木内昇さんの真骨頂。言葉が、生き生きと伝わってくる。

    江戸時代から明治へ、建造物も江戸の風情から西洋建築へと移り変わろうとするとき、江戸の街並み、建築物を愛し、東京に新しく生まれる建造物のある風景を、嘆いた建築家がいた。しかし時代は、建造物には、「剛心」がなければならない。日本の政治を司る建物を、西洋の技術と日本の文化の融合で作ろうとした男の物語。

    妻木頼黄(つまきよりなか)は、読み始めは得体の知れぬ、しかしただならぬ人物として現れる。現場での仕事を重んじ、細部まで目を配り、決して手を抜かず、大工や職人への敬意を欠かさない。広島臨時仮議事堂の建設から、物語は始まる。周囲の人物たちも、妻木はどんな人間であるのか掴みきれない様子が描かれるが、職人たちは妻木に一目置いている。
    第二章では、彼の人生が解き明かされる。それは巧みな構成で、第一章の出来事を、そうだったのか、と思い当たらせる。
    妻木を取り巻く、そして妻木の意思を継ぐものたちの人物たちも、個性的に、活写される。建築家や学生、妻たち。その描写は微笑ましくもあり、時に凛と張り詰める。たちまちこの時代に引き込まれる。「剛心」の意味が説かれる場面も、ここへ持ってきたか、というところで、妻木の言葉で語られるので、くれぐれもネットで調べたりしないように。

    建築の話だけに、専門用語が飛び交う。構造の説明もある。しかし悲しいかな、その建物の姿が浮かばない。仕方なく調べて写真を見た。人物も、個性あふれる、申し分ない人たちが揃っている。そして建物を、CGを駆使して見せて欲しい。ぜひ映画か大河ドラマで見てみたい。

  • 明治の建築家・妻木頼黄(つまき よりなか)の活躍を描いた作品。ちなみにタイトルの"剛心"は「物の強さの中心」を示す建築用語です。
    明治の建築家というと東京駅や日銀の辰野金吾が思い浮かびますが、学会を組織し在野の立場を貫いた辰野に加え、宮内庁技師として宮廷建築(赤坂離宮など)に才を発揮した片山東熊、そして多くの建築技師たちを従えた官庁営繕組織のトップとして活躍した妻木頼黄の三人を明治建築界の三大巨匠と呼ばれているようです。。
    ちなみに妻木の代表作は横浜正金銀行本店(現、神奈川県立歴史博物館)や横浜赤レンガ倉庫などが有りますが、本作ではほとんど出て来ません
    面白い人物です。
    旗本の息子として生れますが、両親を早くに亡くし困窮するなか、明治9年16歳で特に当てもなく単身ニューヨークに渡る。一年で帰国し工部大学校造家学科で学ぶも卒業前年に退学し、再び渡米してコーネル大学建築学科で学士号を取得。
    独自の哲学を持ち、上に阿ること無く、優れた職人たちには非常に高い敬意を払う。特に部下の得手不得手を把握して良くまとめ、 部下たちからも敬慕されました。
    そうした妻木頼黄や他の登場人物が明治という時代を闊歩する姿が生き生きと描かれ(ちょっと『竜馬がゆく』のころの司馬遼太郎を思い出しました)、450ページほどの大作ながら没入出来ました。大迫さん、沼尻、槍田、小林、武田等の仲間や部下、それに妻のミナなども生き生きとして良いですが、矢橋のキャラは少し異物感が残りました。
    表紙は妻木がかかわった日本橋の麒麟像と獅子像です。

  • 偉大なるリーダーがどのような姿なのであるかというのが長編として素晴らしく描かれている。

    妻木という人物が江戸という街のに固執したのではなく、江戸という文明に固執し、明治という時代に新しい文明を作っていくためにその象徴となる建築物を作っていくという物語。

    自分の中の強い意思や観念というのを持ち合わせながらも、周りの人物を見極めて、適材適所に置きながら大きな事を成し遂げていく。

    周りにインサイトを与えながらうまく操っていく、それが自分のためではなく国としてどのような文化を作っていくべきか、そこに暮らす人々の顔を思い浮かべながら考え抜いたものだからこそ、その人が周りから慕われる。

    1人の人物の一生が色鮮やかに描かれており、学びの深い小説であった。

  • 2022/2/14
    久しぶりの小説だが一気に読んでしまった。
    妻木頼黄の名前は本書で初めて知ったが、本人亡き後もまさに周りの人たちの剛心として生き続けていたさまが伝わる良い話だった。
    ジャンルもスタイルもタイトルの位置付けも全く異なるが、ウィリアム・バロウズの「裸のランチ」と共に本のタイトルとその意味が強く印象に残った作品。

  • 江戸から東京、その地で日本古来の美を残しつつ新しい景色を!と建築設計をしてきた男達の物語。派閥や政治的な事柄が渦巻くその建築界では真摯にこの国の未来の姿を願っていた妻木頼黄という実在の建築家を軸にストーリーは繰り広げられる。

    名は遺さずとも建築物は百年後二百年後に渡って残ってゆくという妻木の言葉が素晴らしい。
    骨太な美しい小説でした。
    登場した建造物をいちいちPCで検索しながらの心躍る時間、ありがとうございます。

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著者プロフィール

1967年生まれ。出版社勤務を経て、2004年『新選組 幕末の青嵐』で小説家デビュー。08年『茗荷谷の猫』が話題となり、09年回早稲田大学坪内逍遙大賞奨励賞、11年『漂砂のうたう』で直木賞、14年『櫛挽道守』で中央公論文芸賞、柴田錬三郎賞、親鸞賞を受賞。他の小説作品に『浮世女房洒落日記』『笑い三年、泣き三月。』『ある男』『よこまち余話』、エッセイに『みちくさ道中』などがある。

「2019年 『光炎の人 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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