曇る眼鏡を拭きながら

  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087718478

作品紹介・あらすじ

ひとりでも拭けるけど、ふたりで拭けば、もっと、ずっと、視界がひろがる。ノーベル文学賞受賞作家、J・M・クッツェーの訳者として名高いのぞみさん。パク・ミンギュ『カステラ』以降、韓国文学ブームの立役者である真理子さん。「ことば」に身をひたしてきた翻訳家どうしが交わす、知性と想像力にみちた往復書簡集。生まれ育った地に降りつもる雪、息もたえだえの子育て期、藤本和子との出会い、出版界の女性たちの連帯、コロナ禍とウクライナ侵攻の混迷……丹念に紡がれた、記憶と記録のパッチワーク!【著者略歴】くぼたのぞみ1950年北海道生まれ。翻訳家・詩人。主な訳書に、サンドラ・シスネロス『サンアントニオの青い月』、J・M・クッツェー『マイケル・K』『鉄の時代』『サマータイム、青年時代、少年時代』『ダスクランズ』『モラルの話』『ポーランドの人』、チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ『男も女もみんなフェミニストでなきゃ』『アメリカーナ』などがある。詩集に『山羊にひかれて』『記憶のゆきを踏んで』など、著書に『鏡のなかのボードレール』『山羊と水葬』など。2022年、『J・M・クッツェーと真実』で第73回読売文学賞(研究・翻訳賞)受賞。斎藤真理子(さいとう・まりこ)1960年新潟県生まれ。翻訳家。主な訳書に、チョ・セヒ『こびとが打ち上げた小さなボール』、ハン・ガン『すべての、白いものたちの』、チョン・セラン『フィフティ・ピープル』、チョ・ナムジュ『82年生まれ、キム・ジヨン』、ファン・ジョンウン『ディディの傘』、パク・ソルメ『もう死んでいる十二人の女たちと』、ペ・スア『遠きにありて、ウルは遅れるだろう』など。著書に『韓国文学の中心にあるもの』『本の栞にぶら下がる』。2015年、パク・ミンギュ『カステラ』(ヒョン・ジェフンとの共訳)で第1回日本翻訳大賞受賞。

感想・レビュー・書評

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  • 【会場+オンライン】『本の栞にぶら下がる』×『曇る眼鏡を拭きながら』刊行記念-著者・斎藤真理子さんと語らう夜-- CHEKCCORI(チェッコリ)
    https://www.chekccori.tokyo/mc-events/general/223799

    #49 「韓国文学の翻訳者、斎藤真理子さんとのお話。」前編 | ホントのコイズミさん | SPOTIFY オリジナル
    https://hontonokoizumisan.303books.jp/ep/49

    エスペランサの部屋
    https://esperanzasroom.blogspot.com/

    曇る眼鏡を拭きながら/くぼた のぞみ/斎藤 真理子 | 集英社 ― SHUEISHA ―
    https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-771847-8
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    良いなぁ、、、

  • お二人の往復書簡、とても興味深かったです。素敵な文章がたくさんあって、穏やかで、あたたかくて、春風みたいな本でした。そして読んでみたい本が増えました。

  • J.M.クッツェーの翻訳者として知られるくぼたのぞみと、韓国文学の翻訳者であり紹介者でもある斎藤真理子が一年に渡り、幼少期の記憶から翻訳者という仕事、それぞれの訳業や社会情勢に至るまでさまざまに意見を交わした往復書簡。


    1950年生まれのくぼたさんと1960年生まれの斎藤さん、ちょうど10歳違いの二人は、元々藤本和子の本を復刊させたいという熱意を持つ女性翻訳者と編集者たちの集まり、〈塩を食う女の会〉での飲み友だちだという。
    そんなわけで、本書は翻訳者としてのスタートから藤本さんに師事していたくぼたさんと、ブローティガンの訳書より先に『塩を食う女たち』に出会っていたリアルタイム読者の斎藤さんによる藤本和子著作の解説書のような一面も持っている。まさに復刊に合わせて今藤本和子を読んでいる私にはうってつけの一冊だった。フェミニズム、母と子、翻訳と文脈、差別問題など、ほとんどのトピックが藤本さんを起点にして派生していく。
    二人の翻訳談義はとても刺激的で面白い。ゼロからさまざまな仕事を引き受ける編集よりも、原文という道を散歩するような翻訳のほうが自分に向いていたという斎藤さん。「すでに完成された文章を、あたかも自分が書いたかのように日本語にしていく。これほど完璧な『形而上学的逃避行』はありません」と返すくぼたさん。二人とも詩を書く人であり、徐々にくだけていく文章のなかにも読む快楽がある。
    どれも有意義で楽しいが、特に〈訳者あとがき問題〉に関するやりとりはとてもよかった。歴史的・社会的背景の説明をしなくてもよいと考えられるのは、やはり翻訳界の特権階級(英米文学)であるということ。翻訳を読むということは、その作品を受容した社会と向き合うことでもあるということ。
    二人の話題は多岐に渡り、全部に触れることはできないけれど、たけくらべが「究極の『反・赤毛のアン』」と表現されたり、斎藤さんが超ド級の記録魔だったり、ブローティガンの朝鮮人差別発言をパク・ミンギュに話したらそれが短篇小説になっちゃったり、あるいはアイヌや琉球や東アジアに対する侵略者であるという意識の話など、どれも興味深かった。二人の問題意識は多和田葉子『言葉と歩く日記』にも近い気がする。
    一番じわじわと効いてきたのは、二人とも子を育てた親であるが、母親目線で子どもを語るのは難しいというお話。母であることを肯定するフェミニズム論がまだ十分でない、という指摘もハッとさせられた。そんななかでも、藤本さんの黒人女性への聞き書き本にはインタビュイーにシングルマザーが多くいて、今なお先駆的な仕事なのだということも。私は最近人に「子を作らない人生を肯定してほしい」と勝手な期待を抱いていたことを自覚したばかりなのだが、斎藤さんが子育てに忌避感を持つ若い世代にシンパシーを寄せているのを読んで少し救われる気持ちがした。

  • くぼたさんと斎藤さん、ちょうど10歳違いのおふたりの往復書簡。植民地主義のこと(アイヌ、沖縄)、リチャード・ブローティガンのちょっとビックリしてしまう裏話、藤本和子さんや森崎和江さんのこと、訳者あとがきのことなど、興味深い話題が盛りだくさんでほとんど一気読みだった。関係ないけど私は斎藤さんのさらに10歳年下なのだが、お二人と比べて私の人生のなんとおままごとなことなのか。それはむろん時代背景の差だけではないのだろう。
    くぼたさんが『J・M・クッツェーと真実』で読売文学賞を受賞したとき、面白そう、読みたい、と思って早2年。結局読めておらず、クッツェーの作品も『マイケルK』を読んだだけだけれど、今度は『鉄の時代』ががぜん読みたくなった。娘から見た母を描いた小説は数あれど、母から娘への小説が少ないというのはたしかにそうかも。それを男性であるクッツェーがみごとに書いて読ませるというのだからますます興味をそそられる。舞城王太郎って実はおばさんなのでは?と思わせた「真夜中のブラブラ蜂」を思い出したりして。

  • おふたりの書簡は素晴らしく、考えさせられることが多かったのに、私ときたらブローディガンの暴言から、あとがきのパク・ミンギュ氏の「虹色の~」発言で頭がいっぱいになってます

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著者プロフィール

一九五〇年、北海道新十津川生まれ。翻訳家・詩人。
著書:『J・M・クッツェーと真実』(白水社)、『鏡のなかのボードレール』(共和国)
詩集:『風のなかの記憶』(自家版)、『山羊にひかれて』(書肆山田)、『愛のスクラップブック』(ミッドナイト・プレス)、『記憶のゆきを踏んで』(水牛/インスクリプト)
訳書:J・M・クッツェー『少年時代の写真』(白水社)、『マイケル・K』(岩波文庫)、『鉄の時代』(池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-11、河出文庫)、『サマータイム、青年時代、少年時代││辺境からの三つの〈自伝〉』(インスクリプト)、ポール・オースターとの『往復書簡集』(共訳、岩波書店)、『ダスクランズ』『モラルの話』(共に人文書院)、チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ『なにかが首のまわりに』『アメリカーナ』(共に河出文庫)、『半分のぼった黄色い太陽』『男も女もみんなフェミニストでなきゃ』『イジェアウェレヘ フェニミスト宣言、15の提案』(いずれも河出書房新社)、サンドラ・シスネロス『マンゴー通り、ときどきさよなら』『サンアントニオの青い月』(共に白水Uブックス)、マリーズ・コンデ『心は泣いたり笑ったり』(青土社)、ゾーイ・ウィカム『デイヴィッドの物語』(大月書店)ほか多数。

「2021年 『山羊と水葬』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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