- Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101005126
感想・レビュー・書評
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まことさんのレビューを見て、読んでみました。
大阪船場の旧家、薪岡家の四姉妹、鶴子、幸子、雪子、妙子。両親は何年か前に亡くなり、長女鶴子夫妻が本家として一家を仕切っている。本家の旦那(婿養子)は、三女の雪子や四女の妙子に疎ましがられているので、雪子、妙子は本家よりも、芦屋の幸子夫婦の家に居着いている。
時代は昭和の初め、戦争前。雪子(30歳くらい)と妙子(25歳くらい?)はまだ独身。妙子には結婚を約束している恋人がいるが、姉の雪子を追い抜いて先に嫁ぐ訳にはいかない。雪子は美しく、年齢よりもかなり若く見えるが、何故か縁遠く、結婚がなかなか決まらない。良家のお嬢様であるので、条件が難しく、良い話があっても、本家の綿密な調査により何か相手に問題が見つかり、断ることになってしまうのだ。上流階級のお嬢様も大変だ。羨ましくもならないが、戦争前の喧騒を他所に、おっとりした優雅な美しい世界。長女は「姉ちゃん」、次女は「仲姉ちゃん(なかあんちゃん)」、三女は「雪姉ちゃん(きあんちゃん)」、末の娘は「こいさん」と呼ばれている。
毎年、幸子一家と雪子、妙子で京都へ花見へ行く恒例行事がある。その日のために彼女たちは選りすぐりの着物を用意して、平安神宮、嵐山、御室など、京都の桜の名所を巡る。桜は勿論美しいが彼女たちの姿も目を見張るくらい美しく、「写真を撮らせて下さい」という人が必ずいる。幸子は思う。来年もここでこうして、三姉妹で桜を見られるか?と。雪子と妙子が娘さん(とうさん)でいてくれる間はこのように三人揃って桜を見られるが、二人が嫁いだらこの行事はなくなってしまうと。二人の行く末(特に雪子の)を案じながらも、二人が娘さんでいてくれる時を惜しんでいる。
下巻の解説を読んでみたら、三島由紀夫が「谷崎潤一郎は戦争の影響を受けていない唯一の作家で、源氏物語の世界を現代に蘇らせた人」というようなことを言ったとか書いてあったが、なるほど、源氏物語の世界と同じで、滅びゆく上流社会の美しい世界を文学という形で残して下さったのだと思う。
感情が揺さぶられる類の小説でもないし、続きが気になるタイプの小説でもないと思いながら読んできたが、終盤になって少し続きが気になり出した。本家の旦那さんが東京に転勤になり、大阪の本拠地がなくなったのだ。東京に引っ越した本家。慌ただしく見つけた借家は手狭で、呼び寄せられた雪子の部屋もないほどであるが、丁度親の財産も尽きてきて、「蒔岡家」の名前も通っていない東京で上流家庭のプライドを通して暮らす必要もなく、世間並に節約し、中流家庭のような暮らしを始めるようになり、雪子たちのことにもうるさく言ってこなくなった。
雪子の縁談がまた破談になった。見合いを口実に神戸に帰ってこれた雪子もまた、東京本家に戻らねばならなくなった。時代の変わり目、この先、雪子は?蒔野家は?どうなるのだろう。
中巻に続く。
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戦争中は言論統制によって発表の場を奪われていた『細雪』だけれど、上巻はどこに差し支えがあったのかわからないのんびりホームドラマ。というか雪子がはっきりしなさすぎで驚き呆れる。上流なのか関西なのか、まったく別文化の世界。
着飾った三姉妹が外出するシーンが、においたつようなうつくしさ。これは映画化されるのがよくわかる。あと、ウサギの耳というか足の話は、谷崎らしいなと思った。 -
俄然、おもしろい、うまい。ま、当たり前なんだけど。大作家谷崎潤一郎なればこその名作。
のっけから船場言葉「こいさん」だの「とうさん」だの「ふん、ふん」が頻発なのだが、そこは江戸っ子作家からみた関西なのでくみし易い。谷崎潤一郎は上方の生活文化を愛情込めて書き込んだ。
さて、あらすじ、没落はしたが船場育ち四人姉妹の三女雪子が30歳なのにお嫁にゆき遅れている。
昔よ(昭和12、3年ころ)、びっくり!だから最初から最後までお見合いの連続。
あいまに、物見遊山、観桜、蛍狩り、年中行事、食べ歩き。そして、大洪水の恐さ、大病、などの事件、大阪神戸と東京を行ったりきたりの変化、ほんとあきさせない。
でも、観桜のきらびやかさとか着物の派手さだけでは終わらないのがこの物語。
いろいろな読み方はあるだろうが、私は物語が進むにつれ明確になる四姉妹、鶴子(長女)幸子(次女)雪子(三女)妙子(四女)のキャラクターをことさら楽しんだ。特に主人公雪子のキャラは想像力を掻きたてられる。何を聞いても自分を出さずに「ふん、ふん」といっていてとらえどころがないようだが、芯が強い性格、でなければあの行動力はなんなんだということになる。意見だってことさら言わなくても通すしぶとさを持っているのだ。
阪神の土地勘を知るのもよし、意外や(といっては悪いが)当時の第二次世界大戦前夜のきな臭い感じ、庶民のせつなさも書き込まれているのでを味わうもよし。終わりまで完璧に引っ張っていかれる。
勿論、構築がきちんとした格調高い耽美派の名作ではある。堪能した。
うーん、山崎豊子の「女系家族」[華麗なる一族」の世界はきっとここから来たのね、とちょっとひらめいた。「女系家族」[華麗なる一族」も格別おもしろかったから。 -
1948年(昭和23年)。
しっとりとした日本情緒と、瀟洒な昭和モダンの雰囲気、双方が味わえる風雅な風俗小説。前者の象徴として雪子が、後者の象徴として妙子が配置されていて、その対比も面白い。それもステレオタイプに美化されているのではなく、内気な雪子が実は強情で口論となると舌鋒鋭かったり、怖いもの知らずにみえる妙子が案外意気地がなかったりと、人物造形がリアルで生き生きしている。世間体を気にする所や、金銭的にガッチリしている所も、関西人らしくて楽しい。幸子が桜に思いを馳せるくだりでは、日本人なら誰もが感じ入るところがあるのでは。 -
昭和天皇に献上され読まれたという大衆小説。
現代であれば芥川賞を受賞するタイプの作品。
そっくり百年間時計の針を戻したような、市中のとある旧家を描いた物語。
もったいつけたような表現が多いが、それが余計に登場人物の心情をようよう描いている。面白い。 -
第二次世界大戦直前の暗くなっていく世相のなかにおける旧家の4姉妹の生活を綴る。谷崎文学特有の悪女は存在せず、一人一人個性の異なる4姉妹のある意味のほほんとした物語だ(他作品と相対して)。かと言って平凡な小説かといえばそうでもなく、全体から芳醇に漂っている良くも悪くも現代の庶民感覚とは遠いどこか王朝時代の貴族的な、華やかさ、美学を堪能できる作品である。
会話文では柔和な船場言葉が使われており、より一層作品の温かみ、丸みを演出できている -
三浦しをんさんの「あの家に暮らす四人の女」を読んだことをきっかけに、神戸に暮らしているうちに読みたいと思っていた作品。
関西上流階級の浮世離れしたお話なんだけど、だからこそ美しくて、でも地名は耳慣れているものが多いから想像は膨らみやすくて楽しくて、予想以上に読みやすい。
長編苦手だけれど読めそう。 -
初めての谷崎潤一郎。
昭和初期から第二次世界大戦勃発前まで、明治時代より続く上流階級の一族が衰退を辿りながらも、その生活様式や価値観を失わず生活する四姉妹の様子が、優雅で実に美しい。
四姉妹が京都で花見をする場面は、目の前に満開の桜が咲き誇る景色が見えるようで、その文章の美しさに浸ってしまい、文庫の紹介文に書かれていた小説絵巻とは良く言ったものだと感心してしまう。
結婚話がなかなか決まらない大和撫子を絵に描いたような三女雪子、自由奔放な四女妙子の行方が気になる中巻下巻。 -
上巻では物語にこれといった刺激がなく、ダラダラと話が進んでいく。しかし会話文に船場言葉を入れることで、間伸びした展開を優雅な落ち着きのあるものへと昇華させている。また、会話文以外の文体も明解かつリズミカルな、情緒的な構造となっており、読むにつれてどんどんと引き込まれていく。
上級国民のはんなりとした生活美に、期末レポートを書くことを忘れさせる、そんな作品。 -
昭和初期大阪上流階級の4姉妹がテンポの良い関西弁で淀みなく喋る、喋る。読んでいて気持ち良くなるくらいよく喋る。
Macomi55さんは近代文学のレビューが大変お上手だといつも思っていました。
芥川龍之介、私も...
Macomi55さんは近代文学のレビューが大変お上手だといつも思っていました。
芥川龍之介、私も好きで、再読してみたりしているのですが、何しろレビューが書きにくくて。Macomi55さんのレビューから、コツを盗みたいと思うのですが。なかなかですね。
いつも「いいね」有難うございます。
私は遅読であるため今までの読書数が少なく、今はとにかく「死ぬまでに読んで...
いつも「いいね」有難うございます。
私は遅読であるため今までの読書数が少なく、今はとにかく「死ぬまでに読んでおきたい名作」を中心に読んでいます。
谷崎潤一郎に関しては私好みでなさそうで、今まで避けて通っていましたが、まことさんのレビューを読んで「細雪なら読めそう」と思い、今回挑戦しました。
私も大人になって○十年経ちましたが、十年前に読んでいたとしたら投げ出していたかもしれません。
他の方のレビューが助言になって読む経験が出来る本、沢山ありますね。
有難うございました。