鏡子の家 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (640ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101050065

感想・レビュー・書評

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  • 文体と構成とキャラの勝利、、早くも2021年ベストに出会ってしまった予感。成立しないとわかっていても第三部を求めてしまうほどに良い、、
    解説にあるように、三島は「現実の印象を"色彩と形態の原素"へと還元する作業の代りに、"観念とイメイジの言葉"へと還元する散文の芸術家」であり、その「磨かれた語彙にくるまれた影像が活字の奥から脳髄にしみこむ」感覚を一度味わうともはや他の作家が読めなくなる。。この作品を読むと一層強く実感する。
    これは前提知識なしに挑むのが楽しい。つまらないページが一切ないし一種劇的な展開に痺れる。なんとなく鏡子と夏雄の事物への見惚れ方が一番近いのかなと思ってたけど清一郎じゃないんだ…!最後らへんは藤子目線で清一郎がほんとに崩壊して乱れる姿を見たくなったが、、まあ少し傷ついたところも見れたから良しとしよう。峻吉にしても収にしても、わたしは全員違った意味でかなり好きで、それぞれに三島のある一面が投影されていたように思う。鏡子には遠い祖先のような親近感を抱いた…あらゆる偏見から解き放たれた空間、他人の情念を通して何ものにもとらわれずに何ものをも愛しているような感覚、…そして結局人生という邪教を信じることにするという。繰り返し、退屈、単調さは永く酔わせてくれるお酒。

  • 前半は、読んでて苛つきを感じることが多かった。理想を抱きながら、世の中の雑事に対して超然とした態度を取っている登場人物たち。そのシニカルな姿勢、世の中の破滅を信じながらも生活の破滅の心配はないという甘えた心。
    後半になると、それぞれの登場人物たちは、冷笑し無関心でいた世の中から手の平を返され、ナイフを突きつけられはじめる。その時に感じた胸のすくような感じ。他者の苦境に「ざまぁみろ」と思うような心境。読後、自分の中の一番汚くて醜い部分を、まるで鏡のようにこの小説に映し出された気がして、なんとも言えない気持ちになった。

  • 亡くなる5年くらい前の作品?
    当時体を鍛えていたはずなので、そのようなことが反映されている

  • 1954年の若者たち。冒頭、都内をドライブ中に勝鬨橋が跳ね上がる日常風景が新鮮。

  • 彼女はいくら待っても自分の心に、どんな種類の偏見も生じないのを、一種の病気のように思ってあきらめた。田舎の清浄な空気に育った人たちが病菌に弱いように、鏡子は戦後の時代が培った有毒なもろもろの観念に手放しで犯され、人が治ったあとも決して治らなかった。

    世界が必ず滅びるという確信がなかったら、どうやって生きてゆくことができるだろう。

  • 鏡子の家に集う4人が4様の美意識を持ち、干渉し合うことなく破滅に至る…という小説型をした、美意識に関するアフォリズム集といった感じで、他作に比して耽美感が薄いぶん、4人の持論を堪能しやすい。

    4人の中で夏雄が1番理解しづらく印象的:
    唯一破滅から立ち直る画家の夏雄は、ひとさしの水仙の花が現実の中心であると気付くことで、彼の現実が再構成される。水仙(ナルキッソス)を明瞭に認識し、外界との繋がりを取り戻した夏雄のみが絶望から救済されたということか。

  •  
    ── 三島 由紀夫《鏡子の家 19641007 新潮文庫》
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/4101050066
     
    …… みんな欠伸(あくび)をしていた。
    ── 三島 由紀夫《鏡子の家 19590920(第一部・第二部)新潮社》
     
    ── 荒 正人・編《新日本文学全集 33 19620327 集英社》三島 由紀夫 集
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/B000JAV42O
    …… 瀬沼 茂樹《戦後文学編年史(02)19620327 新日本文学全集 33 月報》
     
    (20170618)
     

  • 鏡子という女性の家に集まる、四人の青年たちの順風満帆な生の軌跡とその破滅を描く。三島らしい絢爛な文体は抑えめだがその分親しみやすさはある。

    生の実感とでも言うべきものを、拳闘、絵画、演劇、「他人の人生」によって得ようとした四人の青年たち。戦後の一時期には存在した「明日知らぬ」時代の片鱗をもつ彼らが破滅に向かってしまったのは、「日常生活の屍臭」が彼らを蝕んだためか。

    正直やっぱり難しくてよく分からなかった。戦後の一時代の終焉を、峻吉たちの破滅(収は転生とでも言うべき復活を果たしたが)になぞらえたのかなぁとはとは思うけど、それらが具体的にどういうものなのかと聞かれるともう何回か読まないと分かりそうもない。でも600ページもあるからあんまりそんな気にもならない。

    最後の収と鏡子の会話はある種の爽快さがあった。悲劇的な末路ばかりではあんまりだし、ひとつの時代が終わったとしても人々の生活は続いていくわけなので(それ以前とは決定的に生活への態度?が変わってしまったとしても)、この終わり方には救われた、気がする。

  • 鏡子という名前はほとんどないのだろうか。変換してもかなり後にならないと出て来ない。しかし、夏目漱石の妻が鏡子のようだから、昔はけっこういたのか。本書は鏡子の家にやって来る、4人の青年たちのドラマからなっている。それぞれには上り下りがありながら、からみあうことなく過ぎていく。チャンピョンになった夜、ボクサーはチンピラにからまれて、拳が握れなくなる。それに対する、友人の批評は辛辣だ。「どんな偶然にふりかかってくる奇禍であろうと、人間は自分の運命を選ぶものであって、自分に似合う着物を着、自分に似合う悲劇を招来する。」ニューヨークに赴任したその友人、新婚の妻にはたして愛されていたのか。「枕はポマードの油に汚れていて、その汚れがこんな鈍い光のために一そう汚く見える。汚れが汚れのままに照り映えてみえるのである。藤子はそこへ顔を伏せて接吻した。」母親の借金のため、肉体のみならず人格そのものを女に預けてしまう売れない俳優。エスカレートした性的欲求は最後には死をもたらす。芸術家の苦悩を経て神秘思想にのめり込んでいく画家の卵。「まだなんでしょう」と鏡子がなめらかな声で言った。「うん」と画家は赤くなったまま答えた。4人の青年の中で、鏡子と関係をもったのは、この画家だけだったのではないか。離婚した後の鏡子は他人の話を聞くばかりで、自分の行為には及んでいなかったようだ。最後に鏡子の家に別れた夫がもどって来る。そこで、鏡子の家に集まるメンバーは解散となる。だが、そのとき入ってきたのは大きな七匹の犬だった。最後の一瞬で空気が変わる。どうやら、本作品は海外で映画になっているようだ。けれど、日本では公開されていない。なぜなのか。鏡子はだれが演ずるのだろう。

  • 画家、拳闘家、俳優、サラリーマン、の4人の青年がそれぞれ自分の信念と主義を貫きながら時代を生きていく話、それぞれで成功を掴み崩壊していく。青年時代の不完全さとそれぞれの信念が行き着く先の運命で、死んだり傷ついたり崩壊したり…。

    面白かった、単純に好みだった。

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著者プロフィール

本名平岡公威。東京四谷生まれ。学習院中等科在学中、〈三島由紀夫〉のペンネームで「花ざかりの森」を書き、早熟の才をうたわれる。東大法科を経て大蔵省に入るが、まもなく退職。『仮面の告白』によって文壇の地位を確立。以後、『愛の渇き』『金閣寺』『潮騒』『憂国』『豊饒の海』など、次々話題作を発表、たえずジャーナリズムの渦中にあった。ちくま文庫に『三島由紀夫レター教室』『命売ります』『肉体の学校』『反貞女大学』『恋の都』『私の遍歴時代』『文化防衛論』『三島由紀夫の美学講座』などがある。

「1998年 『命売ります』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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