- Amazon.co.jp ・本 (640ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101050065
感想・レビュー・書評
-
詳細をみるコメント0件をすべて表示
-
前半は、読んでて苛つきを感じることが多かった。理想を抱きながら、世の中の雑事に対して超然とした態度を取っている登場人物たち。そのシニカルな姿勢、世の中の破滅を信じながらも生活の破滅の心配はないという甘えた心。
後半になると、それぞれの登場人物たちは、冷笑し無関心でいた世の中から手の平を返され、ナイフを突きつけられはじめる。その時に感じた胸のすくような感じ。他者の苦境に「ざまぁみろ」と思うような心境。読後、自分の中の一番汚くて醜い部分を、まるで鏡のようにこの小説に映し出された気がして、なんとも言えない気持ちになった。 -
亡くなる5年くらい前の作品?
当時体を鍛えていたはずなので、そのようなことが反映されている -
鏡子の家に集う4人が4様の美意識を持ち、干渉し合うことなく破滅に至る…という小説型をした、美意識に関するアフォリズム集といった感じで、他作に比して耽美感が薄いぶん、4人の持論を堪能しやすい。
4人の中で夏雄が1番理解しづらく印象的:
唯一破滅から立ち直る画家の夏雄は、ひとさしの水仙の花が現実の中心であると気付くことで、彼の現実が再構成される。水仙(ナルキッソス)を明瞭に認識し、外界との繋がりを取り戻した夏雄のみが絶望から救済されたということか。 -
鏡子という女性の家に集まる、四人の青年たちの順風満帆な生の軌跡とその破滅を描く。三島らしい絢爛な文体は抑えめだがその分親しみやすさはある。
生の実感とでも言うべきものを、拳闘、絵画、演劇、「他人の人生」によって得ようとした四人の青年たち。戦後の一時期には存在した「明日知らぬ」時代の片鱗をもつ彼らが破滅に向かってしまったのは、「日常生活の屍臭」が彼らを蝕んだためか。
正直やっぱり難しくてよく分からなかった。戦後の一時代の終焉を、峻吉たちの破滅(収は転生とでも言うべき復活を果たしたが)になぞらえたのかなぁとはとは思うけど、それらが具体的にどういうものなのかと聞かれるともう何回か読まないと分かりそうもない。でも600ページもあるからあんまりそんな気にもならない。
最後の収と鏡子の会話はある種の爽快さがあった。悲劇的な末路ばかりではあんまりだし、ひとつの時代が終わったとしても人々の生活は続いていくわけなので(それ以前とは決定的に生活への態度?が変わってしまったとしても)、この終わり方には救われた、気がする。 -
鏡子という名前はほとんどないのだろうか。変換してもかなり後にならないと出て来ない。しかし、夏目漱石の妻が鏡子のようだから、昔はけっこういたのか。本書は鏡子の家にやって来る、4人の青年たちのドラマからなっている。それぞれには上り下りがありながら、からみあうことなく過ぎていく。チャンピョンになった夜、ボクサーはチンピラにからまれて、拳が握れなくなる。それに対する、友人の批評は辛辣だ。「どんな偶然にふりかかってくる奇禍であろうと、人間は自分の運命を選ぶものであって、自分に似合う着物を着、自分に似合う悲劇を招来する。」ニューヨークに赴任したその友人、新婚の妻にはたして愛されていたのか。「枕はポマードの油に汚れていて、その汚れがこんな鈍い光のために一そう汚く見える。汚れが汚れのままに照り映えてみえるのである。藤子はそこへ顔を伏せて接吻した。」母親の借金のため、肉体のみならず人格そのものを女に預けてしまう売れない俳優。エスカレートした性的欲求は最後には死をもたらす。芸術家の苦悩を経て神秘思想にのめり込んでいく画家の卵。「まだなんでしょう」と鏡子がなめらかな声で言った。「うん」と画家は赤くなったまま答えた。4人の青年の中で、鏡子と関係をもったのは、この画家だけだったのではないか。離婚した後の鏡子は他人の話を聞くばかりで、自分の行為には及んでいなかったようだ。最後に鏡子の家に別れた夫がもどって来る。そこで、鏡子の家に集まるメンバーは解散となる。だが、そのとき入ってきたのは大きな七匹の犬だった。最後の一瞬で空気が変わる。どうやら、本作品は海外で映画になっているようだ。けれど、日本では公開されていない。なぜなのか。鏡子はだれが演ずるのだろう。
-
画家、拳闘家、俳優、サラリーマン、の4人の青年がそれぞれ自分の信念と主義を貫きながら時代を生きていく話、それぞれで成功を掴み崩壊していく。青年時代の不完全さとそれぞれの信念が行き着く先の運命で、死んだり傷ついたり崩壊したり…。
面白かった、単純に好みだった。