鍵のかかる部屋 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.32
  • (19)
  • (36)
  • (132)
  • (5)
  • (3)
本棚登録 : 714
感想 : 38
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101050287

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 年代バラバラの短編集。
    何をコンセプトに編んだのか、気になる。

    印象に残ったのは「祈りの日記」。
    筒井筒の引用から始まる冒頭。わくわく。
    幼少期に仲睦まじく過ごした様子から、約束を違えて疎遠になり、また年月を経て以前とは違った親密さを表すようになる男女。
    女の子が恋に芽生えて、それと知らずに戸惑うシーン、いいねえー。

    かと思いきや、「鍵のかかる部屋」では、お母さんと良い仲になっていた男が、続いて9歳の娘に翻弄される。
    そういう「妄想」に、ひたすら取り憑かれる男が下衆すぎる。
    母娘の、部屋に鍵をかける音がほんとうに脳内に響いて、すごいなと思った。

    「訃音」では、地方の役員達にナメられまいとする若手金融局長。
    お気に入りのパイプを失くして、そんな小さなことと思いつつも、どんどん平静を取り戻せずにいるところに、妻の訃報が。
    皆が、なるほど!そういうことだったのか!と合点しちゃうわけで。
    小心から美談への跳躍。ラストシーンは、男のしてやったり感が腹立つけど、笑えて良い。

  • 三島の短編集三冊目は、意外にも"読みづらく"、本作を三島由紀夫文学の第一冊目として読んでいたら、三島にはハマらないだろうなあと思いました笑。三島ならなんでもノれると思っていたので、自分でも意外な発見。

    「訃音」「鍵のかかる部屋」など、大蔵省時代の様子が垣間見える作品は面白かった。「果実」のレズビアンの二人の話や。「美神」なんかも好きでした。

    特に気に入ったのは「死の島」で、三島はベックリンの絵は見たことがあったのだろうか、ラフマニノフの方も聞いたことがあったのだろうか、なんて思ったり。最初は勝手に和風っぽいなあと思っていたのですが(心に浮かぶは「竹生島詣」)、途中からヨーロッパに迷い込んだと言うか、ベックリンの絵の中に迷い込んだような読了感が面白かった。

    「鍵のかかる部屋」での、仕事場でふとしたことを考えている自分、夢に引きずられる自分、官庁の建物をああとらえる人間、というものをよく理解できる。

    …前途有為というやつは、他人の僭越な判断だ。大体この二つの観念(私註: 自殺・前途有為)は必ずしも矛盾しない。未来を確信するからこそ自殺する男もいるのだ。…

    …「前略、生存しております、敬具」…『生存しています、と書いたとき、あいつは自殺の決心をしていたろうか』と一雄は考えた。『不在証明(アリバイ)をつくった葉書。あいつは多分事実を報告したにすぎないんだ。あいつがあの葉書を書いたとき、多分あいつは、自分の死後にも必ず他人たちが生存して、葬列に加わることを知っていた。世界が崩壊するなんて、幻想にすぎないことを知っていた。他人は永遠に生き永らえることを知っていた。こんなことを確実に意識したら、自殺するほかないだろうな』不死は、子や孫にうけつがれるなんて嘘だ。不死の観念は他人にうけつがれるのだ。…

    ウィキペディアの奥野健男の引用によれば、「この時期の作品は「夭折をあきらめ生を全うすること」にしていた戦後の三島が、現代文学の主流になるために試行錯誤や実験をしていた地盤固めの作品群である」とのことで、この作品は1954年のものなので、この近辺のものを読むときは忘れない様にしようと思う。

    「蘭陵王」は生き生きとした短編で、紹介される能がたまたま知っていた能だからよりいっそう理解できた。私の好きな「清経」と「松風」。能は本当にちゃんと勉強しないといけないですねえ

  • 今年は三島由紀夫の生誕90年を迎へますが、同時に没後45年に当る年でもあります。即ちその生涯45年に並んだといふ訳ですな。
    『金閣寺』『潮騒』などといふ著名な長篇小説は避けて、偏屈にも短篇集『鍵のかかる部屋』を手に取つてみました。
    解説(田中美代子氏)によりますと、「約三十年の作家生活を通して、各時期に書かれた短編小説十二編が収録されている」との事ですが、最後の『蘭陵王』だけ最晩年の作品で、あとは大体昭和20年代に集中してをります。この時代が三島由紀夫の所謂「文学的開花」の時期なのでせう。

    以下簡単に各作品に触れますと......
    「彩絵硝子」では、狷之助さんと則子さんの関係がどうなるか、通俗的な読者の期待を嘲ふかのやうな印象です。
    「祈りの日記」は、どうしても「男もすなる日記といふものを~」を連想しますね、読みにくいけれど。弓男さんを手玉に取るやうな康子さんの態度は、末恐ろしい。
    「慈善」に於ける秀子さんに対する作者の仕打ちには、高慢な残酷さを感じます。これも「ジャスティファイ」される行為なのか。
    「訃音」では、檜垣局長(権力者)への皮肉(嫌がらせ)が効いてをります。但しわたくしの好みぢやない。あ、わたくしの好みなんざ誰も聞いちやゐませんわな。
    「怪物」の松平斉茂氏は、最後の怪物ぶりを披露したが、その思惑は見事に外れ、檜垣(「訃音」の主人公と同名なのは偶然か?)の人望を上げるのに役立つただけのやうです。しかし真に人道的なのは誰なのか、分かつたもんぢやありません。
    「果実」では、女性同士の恋愛が描かれてゐますが、昨今の同性カップルとは一線を画し、必然的に破滅へ向かはざるを得ない幻想的な存在です。しかし「果実」とはぴつたりの表題ですな。
    「死の島」に於ける菊田次郎も、幽玄さを湛へた不思議な人物であります。支配人のゐる空間とは、完全に次元の違ふ世界に漂つてゐます。この人、無事に家に帰ることが出来るのかなあ。
    「美神」のN博士は、もう少しR博士に対して思ひやりがあつてもいいのぢやないか?と別次元の感想を抱きました。あはれなR博士......
    「江口初女覚書」は悪女の話。まるで新東宝映画を観てゐるやうです。若杉嘉津子か小畠絹子かな。
    表題作「鍵のかかる部屋」の、財務官僚と9歳の少女。二人の危険な香りのする関係。息苦しくなるやうな展開であります。使用人しげやの最後の一言は、読む者を凍りつかせるのでした。自分好みの作品。あ、わたくしの好みなんざ誰も(以下略)。
    「山の魂」は、作者の官憲嫌ひを窺はせる一篇であります。隆吉と飛田のやうな関係は、姿を変へながらも、きつと現在も続いてゐるのでせう。
    「蘭陵王」は「盾の会」の戦闘訓練での出来事を元にしてゐます。横笛で「蘭陵王」を演奏した青年の最後の一言は、真の敵を見誤つてゐる(と作者が考へる)大衆が念頭にあつたのでは?と脳裏をちらりと過りました。印象的な一篇。

    通読しますと、好みは別として、作者の溢れんばかりの才能や技巧を感じない訳にはいきません。そしてその背後には、一般大衆を小馬鹿にする、自信満々の作者のドヤ顔がちらつくのであります。

    さて、今夜も更けてまゐりました。この辺でご無礼いたします。

    http://genjigawa.blog.fc2.com/blog-entry-588.html

  • 死の島・怪物・江口初などが面白かった。

  • 訃音・・・エリート故のプライド。いや、普通の人でもこういう妙なこだわりや世間体を気にした感情ってあるよな、はっとさせられました。

    怪物・・・悪行に取りつかれたある貴族の話です。
    寝たきりであるが為に、様々な思いが錯綜しています。かつて悪の限りを尽くした男の、あまりにも哀れな物語。


    鍵のかかる部屋・・・財務省勤めの青年が、九歳の少女へ抱く異常な感情を描いています。
    夢の中での話が、非常に不気味です。三島さん、ヤバい人だっていうのがよく分かります。(笑)
    しかし、短編ながら、長編のような完成度。



    私には少々、難解と感じる作品が多かったです。
    表題作「鍵のかかる部屋」は最も三島らしく、引き込まれる内容でした。

    どの物語も、人間がふとしたときに抱くけど、なかなか言葉にできない感情が描かれていて、改めて作者の
    表現力の凄味を感じました。

  • 三島由紀夫の短編集。
    やっぱり三島は長編の方が好きです。
    短編集は遅遅として読むのが進まない・・・・。

    三島由紀夫の短編集は本当に芸術作品を見ているようで、
    パッと見あまりその価値がわからなくて(←鑑賞者がダメなのでw)
    じっくり見るとなんとなく解ってきたような気になるんですが
    それでいいのかわからず、結局、なんだったのかわからない・・・。
    まあ芸術作品も文学作品も見る人によって感じ方が違うのが当然なんですが。
    ストーリー的に面白いものもあるんですが(「美神」とか「果実」とか)。
    主人公の気持ちが読みにくい。その解りにくさが三島由紀夫の作品かもしれませんが。(逆に最近の小説はわかりやすすぎる?)

    しかし驚いたのは、「彩絵硝子」と「祈りの日記」が十代の時に書かれた作品だということ。
    十代でこれだけ書ければ、二十代前半で「仮面の告白」でデビューするはずだ。と納得w
    やっぱり天才は天才だった・・・・・。十代であんな物語を紡げるなんて。

    十代だから「なるほど」と思うものの、文学作品としてちょっと個人的に物足りないというか、面白さが充分に感じられなかったので、星は三つ。
    でも三島由紀夫好きには、色んな作風の物語が読めて、なかなかいいかもしれません。

  • なんとなく、退廃的な世界に浸ってみたい気がしたのと、表紙の雰囲気に心惹かれて、手にとった。

    青年期から晩年の、三島自身や、時代を切り取っている感じがした。

  • 短編集なので、読みやすいかなと思って読み始めた一冊。少年時代から晩年までの作品を集めてあることもあり、解説にもありましたが、一人の作家さんの作品集と思えないほど各作品の雰囲気が違っていて興味深く読めました。正直なところ楽しめる作品と私には難しすぎる作品とあって、飛ばして読もうかと思うこともありましたが意地で読み終えた感もあります。こじんには美神が好きかな。

  • 人が抱くさまざまな感情は、誰かに固有のものではなくて、同じような感情はすでに経験され、文章にされているのかもしれなかった。そういうことを最近小説を読んでいておもう。
    むしろ小説を読むってそういう行為だったの?

    あとあれ、慣れ親しんでない言葉に出会うことは贅沢で好い。

    わたしにもココアを一杯。

  • み-3-28

著者プロフィール

本名平岡公威。東京四谷生まれ。学習院中等科在学中、〈三島由紀夫〉のペンネームで「花ざかりの森」を書き、早熟の才をうたわれる。東大法科を経て大蔵省に入るが、まもなく退職。『仮面の告白』によって文壇の地位を確立。以後、『愛の渇き』『金閣寺』『潮騒』『憂国』『豊饒の海』など、次々話題作を発表、たえずジャーナリズムの渦中にあった。ちくま文庫に『三島由紀夫レター教室』『命売ります』『肉体の学校』『反貞女大学』『恋の都』『私の遍歴時代』『文化防衛論』『三島由紀夫の美学講座』などがある。

「1998年 『命売ります』 で使われていた紹介文から引用しています。」

三島由紀夫の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×