しろばんば (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (592ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101063126

感想・レビュー・書評

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  • 大正時代に伊豆湯ヶ島という所で小学生時代を過ごした主人公、洪作の物語です。
    学校や村で起こる小さな事件、そして狭い世界ながらも色々な人々との関わりを通じて、少しずつ成長していく様子が主に洪作の目線で描かれています。
    作者の自伝的作品ということもあってか、心の動きの描写が生き生きとしていて素晴らしいです。時々自分の小学生の息子と重ねてしまい、ああ息子もこんな風に感じてるのかもなあと思いました。
    いつの時代も、少年の心の動きは変わらないのですね。小説を楽しむ一方で、男児の育児書のようにも思えた一冊でした。
    現在、続編の「夏草冬濤」を楽しく読んでいます。

  • 凄く良いので、続編、続々編も読むことにした。

  • 伊豆湯ヶ島の豊かな自然の中で暮らす少年が、人との出会いや別れを通して成長していく物語。
    淡々とした文章で当時の田舎の日常が綴られていて、派手さはないけれど、じんわりとあたたかな気持ちになれる。
    子どもから大人へと成長していく過程で洪作が感じる様々な思いは、時代は違っても多くの人が共感できるのではないかと思う。
    まさに少年文学の金字塔。

  • 好きな本として挙げる人が多いので、手に取ってみた。あらすじによると、ひと昔前の地味目なお話のようで、どうして人気があるのか不思議だったけれど、読み終えてみると、やっぱり良かった。包容力のある時代とそこに生きる人々へのノスタルジーだろうか… 色々なハプニングはあるが、全体に静かな語り口で、読みながら、穏やかな懐かしいような気持ちになる。

    書き出し(夕暮れどきに、しろばんばを追いかけながら戸外で遊びまわる子どもたちの情景描写)が美しい。大正時代の田舎の暮らしに自然と引き込まれていく。
    人間描写が細やかで生き生きとしていて、会話もとても自然。子どもたちがやんちゃで、好奇心いっぱいで、繊細で、とても子どもらしく描かれていて、微笑ましい。村全体で大人も子どもも一緒になって盛り上がり、噂し合い、驚き、心配し、助け合い、笑いながら毎日を送っている。とても人間くさい暮らしだ。かつては、こうした村が、日本の色々なところにあったのだろう。今は過疎化が進んでしまったけれど…

    家庭環境は複雑だが、明治や大正の戸主制度の下では、結構あり得ることだったのかもしれない。血のつながりのないおぬい婆さんと洪作の強い結びつきには、胸を打たれる。

    周囲の人々の老いや死、未知の世界を見つめる主人公の心のうちが、丁寧に正直に描かれている。特に印象深かったのは、ある冷たい北風が吹く日に、おぬい婆さんが洪作の学校に羽織を届けに来る場面。小柄な老婆が風にあおられながら近づいて来る姿から、洪作は今まで気づかなかった老いを強烈に感じて、眼を離すことができなかった。おぬい婆さんの洪作への深い愛情が伝わって来る感動とともに、哀感が溢れていて、とても心に残った。それ以外にも、心に残る場面は多かった。他の作品も読んでみたい。

  • 好きな本を聞かれたら答える作品です。
    この本を少しずつ読むと、その間は心の半分が伊豆湯ヶ島の風景の中ににいます。

  • クレマチスの丘にある井上靖文学館で観た10分ほどの映画がしろばんばと井上靖との出会いであった。600ページ弱の長編だがあっという間に読み終えた。作家の少年時代を読みやすく描いている。曾祖父の妾であるおぬい婆さんとの生活、村の子供達との触れ合い、両親や親せきの人達との関わりを通して洪作の成長していく姿、心の変化を表している。洪作の母は妹が生まれるとおぬい婆さんに洪作を預け、中学に上がるまで彼女と生活することになる。妾という存在であった彼女は本妻の家族の近くで暮らすことに肩身の狭い思いをしたと思うが、本来の負けん気で悪態をつきながらも礼儀や洪作に対する愛は本物であった。洪作は長ずるにつれ、明らかに老いてゆく彼女を見て労わる心や若くして死んだ叔母やまた最後には老いて死んでしまったおぬい婆さんを通して大切な人との死別というものを知り、また同世代の女の子への思慕など様々な経験を通して成長していく。そして村の子供達との別れがまた一層彼を成長させたことだろうと思う。ぜひ多くの人に読んでほしいと思った。

  • 再読
    『伊豆の踊子』と同じころの天城での少年時代における自身の情感を
    大人の言葉で巧みに描いた傑作
    場面選びも抑制の利いた文章も素晴らしいが
    いつの時代の誰もが共感できる小学生からみた世界の広がりの表現が秀逸
    何度でも読み返したい名作
    内容には関係ないが
    馬車で湯ヶ島から大仁まで4時間(前編三章)なのに
    下田まで3時間(後編二章)と表記されているのはかなり謎
    まともに考えると4時間は有り得ないので低年齢故の錯誤が含まれているのか
    それとも単に表記ミスか
    まあ内容には関係ないんだけど

  • 古い本読んでいると、その世代の人が何をどう考えて生きていたのかがかいまみえる。この本もそんな一冊。おぬいばあさんの行動が、祖母に見えて、祖母はこの時代の人だったのか。様々な言動は異常ではなかったのだと思った。
    おぬいばあさんとの接点は年を取るごとに描写が減っていき、子供の成長期にあたり、関心事の変遷が描かれていて、スピードも心地よく素晴らしかった。
    主人公の今後が気になるところ。

  • 中学時代に途中まで読んで挫折した本。この年になって、ようやく読了。中学時代には読むのが苦痛だったが、この年になった方が面白いというか、終始心にくるものを感じながら2日程度で読み終えた。

  • 主人公洪作とおぬい婆さんとの生活を描いた作品。大正時代。伊豆の田舎で日々起こる小事件を通じ、噂が瞬時に行き渡る様や人々のつばぜり合いなどを非常にコミカルに綴っている。
    妾という立場で親族の中で懸命に生き抜くおぬい婆さん、時代の発展やそれに取り残される人々、大切な人たちとの別れなどの色々な出来事が、多感な少年期の洪作を成長させていく。だんだんと洪作の感情に種類や厚みが増していき、大人になっていくのが丁寧に描かれている。ほっこりした。

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著者プロフィール

井上 靖 (1907~1991)
北海道旭川生まれ。京都帝国大学を卒業後、大阪毎日新聞社に入社。1949(昭和24)年、小説『闘牛』で第22回芥川賞受賞、文壇へは1950(昭和25)年43歳デビュー。1951年に退社して以降、「天平の甍」で芸術選奨(1957年)、「おろしや国酔夢譚」で日本文学大賞(1969年)、「孔子」で野間文芸賞(1989年)など受賞作多数。1976年文化勲章を受章。現代小説、歴史小説、随筆、紀行、詩集など、創作は多岐に及び、次々と名作を産み出す。1971(昭和46)年から、約1年間にわたり、朝日新聞紙面上で連載された『星と祭』の舞台となった滋賀県湖北地域には、連載終了後も度々訪れ、仏像を守る人たちと交流を深めた。長浜市立高月図書館には「井上靖記念室」が設けられ、今も多くの人が訪れている。

「2019年 『星と祭』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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